成果の見えやすい仕事と見えにくい仕事

9月13日の日経新聞経済教室、江口匡太・中央大学教授の「70歳雇用時代の正社員改革(下) 能力評価、中高年活用の鍵」から

・・・人事管理の問題の一つは働きぶりをどう評価するかだ。仕事には成果が見えやすいものと見えにくいものがある。もし労働者の仕事ぶりや労働サービスの成果が見えるなら、その仕事自体を外部に発注できる。例えば不動産登記や税務に関わる文書作成、広告や印刷物のデザイン、オフィスの清掃や警備は、労働者を直接雇用するより外部の業者に委託されることが多い。
成果の見える仕事ばかりならば、企業の存在理由を初めて考えたノーベル経済学賞受賞者のロナルド・コースの推論のように、究極的にはすべての仕事を個人事業主に外注することも可能だ。だが現実は異なる。主要7カ国(G7)諸国などでは、経営者や自営業者といった雇用されない働き方は就業者全体の1割程度にすぎない(図1参照)。

労働者が雇用されるのは外部に簡単には発注できない仕事があるからだ。とりわけ成果が見えにくいものは、契約で約束できず外部に発注しにくい。そのため労働者を直接雇用して、成果の見えにくい作業をさせることになる。成果が見えにくい仕事は、短期的にインセンティブ(誘因)を与えるのも簡単ではない。
いくつか例を挙げよう。将来に向けて必要な投資や人材育成は、効果が見えるまで時間がかかる。製品の生産量やサービスの提供時間といった数量は見えやすいが、製品・サービスの品質や顧客満足度は見えにくい。重要なノウハウや企業機密を守っているかどうかも知りようがない。漏洩が露見して初めて事態がわかるものであり、そもそも漏洩してからでは遅い。
人材育成、顧客満足度の向上、機密保持などは企業経営にとって重要であり、短期的には見えにくくても長期的には企業収益に反映される。長期的に雇用されて働くならば、企業の収益が減れば自分の報酬が下がり、雇用が失われることもあるから、そうならないようにするだろう。一方、雇用期間が短期であれば、あとは野となれ山となれと考えても不思議ではない・・・
この項続く。