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私のHPには、下宿人が二人います。というか、いました。(歴史遺産)

戦士の宴会

戦士の宴会
 そうこうしているうちに日が暮れてきました。
「今日はもう宿屋に泊まる旅費がないからノジュクなんだよ」
と先生は言いますが、食堂連盟のオトコが
「ダイジな「オオグイ戦士」をノジュクさせるわけにはいきません。今日は旅のお疲れをわたしどもの系列の宿屋でお癒しくださりませ」
と、峠を越えたあたりにありました一軒屋の宿屋に案内してくれます。
「ダイジなお客さまだから粗相のないようにな」とオトコは宿のじじいに命じます。
「では山の産物でオモテナシしますかの」
「ハラを壊すようなモノは出してはならんぞ」
とオトコは言いますが大丈夫です。地仙ちゃんはナニを食べてもハラを壊すということはありえませんので。
 ということで、山菜料理で大宴会です。上客の地仙ちゃんの前には十人前、料理連盟のひとと先生の前にも二人前の大皿料理です。でも、カミナリちゃんは小さいので一人前しかもらえません。
「イモを中心とした山菜料理ですが、戦いの前の宴としてお楽しみください」と料理連盟のひとは言っています。
「実はエンカイの「宴」という字はなかなか深みのある字なのだよ。古い字体は①、さらに古いのは点線内だが、アタマにぎらぎら光るタマをつけた女性が、外部から遮断された場所にいる、という文字なんだ。これを家の中でキレイに飾ったオンナのひととおエラ方が一杯やってるなんて解釈しちゃダメだよ。そんなのはずっと時代が変わってからの宴会のあり方なんだからね。・・・
「タマをつけた女性が外部から遮断された場所の中にいる」のを表す形象は②「偃」(エン・「伏せる」)でも使われている。
 この「タマを付けた女性」はシャーマンの巫女を表しているんだ。その巫女さんが、戦いの前などの大切なときに、隠れたところで神サマをお迎えし、おくつろぎいただく行事を指すのが「宴」。神サマが乗り移ってエクスタシーに満たされ、ぶったおれている姿が「偃」と解釈されている。古代祭祀のヒミツの一環を垣間見ることのできる文字だね。
 さて、水などを塞き止めるセキの意味で使う「堰」という字があるが、これには何故シャーマンのオンナが書かれているのだろうか。大事な水利事業だから神サマをお迎えする「宴」の行事でおマツリしてから始めた、と考えればいいのか。
さらに、一歩進んで、そういう巫女さんをヒトバシラに埋めた、という想像もできるんだけど、ちょっと冒険的な解釈に過ぎるかな・・・」
 先生が解説している間に地仙ちゃんのお箸からサトイモがスベって、ころんと落ちてしまいました。一人前しかもらってないカミナリちゃんがそれを拾いましたが、「イノチを救われたイチョーローのクセに、地仙ちゃんのクイモノを取るコはワルいコなの。許せないの。チャトイモ返ちなちゃ~い」
と地仙ちゃんが怒りまして、カミナリちゃんはナキベソです。
「地仙ちゃんのクイモノは一粒たりとも渡さないの」
という地仙ちゃんを料理連盟のひとは頼もしそうに見ています。

 

オトコの依頼

オトコの依頼
「む、むぎゅうん」
 地仙ちゃんが耳を突っついたので、気絶していたオトコがうなりました。
「地仙ちゃん、そのひとはコワいひとかも知れないから放っておいた方が・・・」と先生は忠告しましたが、地仙ちゃんにコワいモノなどあるはずがありません。
「動きまちたね。うふふ、今度はこっちはどうでちょ」
地仙ちゃんが鼻を突っつきます。
「うひ、うへ、はっくちょん」
 オトコは大きくクシャミをして起き上がりました。
「起きまちた~」
 オトコは起き上がって、にこにこしている地仙ちゃんと先生の姿を見ます。
「あ、あなたがたがおタスケくだすったのですか・・・」
「いや、タスケたというかどういうか・・・、それよりアンタ、わたしたちの後をつけていたのではないか。どういうネライがあるのですか」
「ちょうでちゅ。地仙ちゃんのファンのひとならちょう言いなちゃい。地仙ちゃんの作った文字でチャインちてあげるから」
という地仙ちゃんの発言は無視されて、オトコは先生の質問に答えました。
「・・・わたしは先ほどお二人が食事をなさいました港町の食堂連盟のモノなのです。実はこちらのオジョウサマにお願いごとがございまして・・・」
 オジョウサマだそうです。地仙ちゃんは勝ち誇ったように、ニコニコをしています。
「毎年、金陵の都市で「江南大食い大会」が開かれるのですが、ここ十年ほど金陵の代表が連続して優勝しておりまして、わたしどもの町は食堂のクイモノがマズいので大食いが育たないのだ、と言われております。わたしどもも優勝者を出して地域興しのアピールをしたいのですが、金陵の町は高いおカネを積んで大食いを雇ってまいりますので歯が立ちません。しかし、先ほどのオジョウサマの食いっぷりを見ていまして、「これならいける」と思いまして・・・。どうかわたしどもの代表として大食い選手権に御出場ください」
というハナシです。
「オオグイ? どれだけ食べてもいいの?」
 地仙ちゃんは乗り気です。こうなりますと先生が、
「地仙ちゃん、あまりヘンなことに顔を突っ込まない方がいいよ」
と忠告しても聞くはずありませんね。そこで先生はオトコの方に忠告です。
「えー、ニンゲンを指すのに一般に使われる①「人」ですけど、実はこの字は膝を曲げて屈服しているひとを横から見たカタチになっていまして、もともとは降伏した異民族を表していたという説があります。
②「民」もメをつぶした奴隷を意味する(アの部分が目でイの部分が針)と言われています。というように、漢字の発生期には「ニンゲン」という一般的な概念はなく、被支配階級や降伏異民族を指すコトバから「ニンゲン」一般を指す漢字ができた、ということが言えましょう。・・・で、ハナシはかわりますが、このコはニンゲンではないんですけど、オオグイ大会に出してもいいんですか」
「さっきの食いっぷりを見ていたら、誰でもニンゲンじゃないとわかりますよ」
 食堂連盟のオトコは平然と答えました。

 

カミナリを拾う

カミナリを拾う
 先生が説明しているうちにカミナリ雲は遠くに行ってしまい、雨も晴れてきました。
「ちょっと見に行きまちゅかね」
 地仙ちゃんは先生をせかしてカミナリの落ちた大木を見に行きます。大木は二つに裂けて、ぶすぶすと煙を噴いていました。
「カミナリのチカラはすごいねー」と先生が言っている横で、地仙ちゃんはナニかを探しています。
「うふふ。やはりいまちた」
「な、なにがいるんだい?」
「これ、これ」
 地仙ちゃんは大木のすぐ近くに倒れている角の生えた小さなコドモを拾い上げました。気絶しているようです。
「このコは?」
「カミナリちゃんでちゅ。ハトコの雲仙ちゃんのコブンなの。地上ではこんなナチャケないカッコウちてまちゅが、電気がたまると竜の形にも変化ちゅる。秋にはまた雲の上に戻って行くの。とりあえず弱っているので、センセイ、おぶってあげて~」とか言っています。
「ち、地仙ちゃん、このコまで連れて行く旅費はもうないよ・・・」
「だ~め。センセイは地仙ちゃんにイノチを救われたの。お礼をちなくてはいけないの」
 しかたありません。たしかに、カミナリちゃんとはいえ見た目はコドモですから、捨てておくわけにもいきませんので、先生はカミナリちゃんを背負いました。まだ電気を帯びているのでしょう、少しピリピリします。
「さっきの続きだけど、①「申」というのは、古い形を見てもらえば納得行くと思うが、空から落ちてくる稲妻のギザギザの姿の象形なんだ。この「申」に、捧げモノを載せる台を表す「示」をつけると②「神」になることから、大昔のひとびとがいかにカミナリちゃんを畏れていたかわかるよね。
 「申」を「申し上げる」という意味で使うのは、神様にいろいろお願いするからだ、というひともいるし、イナビカリのカタチから「上下に伸びる」という意味を持つようになり、部下から上司に「上申」「申請」することを「申」というようになったというひともいるね。ちなみに「申」は「十二支」のサルだけど、「十二支」はもともとはドウブツとは関係なく、大昔のひとの使ってた序数字なんだよ。身近なモノとか信仰対象を使って十二までの数字を表わしているんだ。他の字も解説してみようか・・・」
 説明が続いている間に地仙ちゃんは、もっとオモシロそうなモノに気がついてしまいまして、先生の話をさえぎりました。
「センセイ~、あそこにもひとが倒れているの。オモチロい~」
と指差します。近寄ってみると、オトコのひとが倒れていました。
「このひとは・・・さっきの食堂からずっと後をつけていたひとだと思うよ」
 まだ息はあります。どうやらこのひとは、先生たちの後を追って大木に近づいてきたところへカミナリが落ちて、直接は命中しなかったのでしょうがショックで気絶しているようです。

 

カミナリ落ちる

カミナリ落ちる
 町を出まして峠道にさしかかったころ、雲行きが怪しくなってきまた。まだかなり遠いところですけどゴロゴロとカミナリも鳴っています。
「うふふ。一雨来まちゅね。帽子の中のサチョリが騒いでいまちゅ」
「う~ん、困ったなあ。雨宿りのできそうなとこを探さないと・・・」と言っているうちにぽつぽつと大粒の雨が当たってまいりまして、あっという間に土砂降りになってきました。
「地仙ちゃん、あそこの大きな木の下に入ろう」
 雨音がすごいので、先生が大声で言って、やっとすぐ側の地仙ちゃんが聞こえるぐらいの土砂降りです。
 二人は道端の大木の下に入りました。
「ふう、やはり寄らば大樹の蔭、だね。人生においてもそうしてくれば、もう少しよかったのかも知れないけど・・・」と先生が手ぬぐいで顔をぬぐいながら言いましたところ、地仙ちゃんは木を見上げて「センセイ~、ここはダメでちゅ」と言います。
「こっち、こっち」
 地仙ちゃんは先生の手を引いて再び大雨の中に出て、大木から五十歩ぐらい離れたところにあったあまり大きくない木の下に移動しました。
「どうしたんだい、地仙ちゃん。またズブ濡れになっちゃったじゃなか。それに、この木では枝ぶりがあまり広くないから完全な雨よけにはなりそうもない・・・」と先生がぶつぶつ言ってたちょうどその時、
あたりがピカっと明るくなり、 どんがらがっしゃっしゃ~~~ん・・・・・とすごい物音がしました。先生はアタマを抱えてすわりこみます。
 しばらくして先生はそうっと起き上がりました。
「カミナリが落ちたのかなあ」
「ちょうなの。さっきの大きな木に落ちたの。どうやらこの木に落ちてきちょうね、と精霊のカンでわかったの」と地仙ちゃんはにこにこしています。
「はあ、地仙ちゃんのおかげで助かったよ」
 危なかったですね。寄らば大樹の陰、というのは実は危険と隣り合わせなのです。先生ははじめて、地仙ちゃんとおトモダチでよかったなあと思ったほどでした。
「カミナリは①「雷」と書く。上半分は「雨」だけど下半分の「田」は「田んぼ」じゃないんだ。点線の中がもっと古い「雷」の字。稲妻のあちこちに○に十字のマークがある。
この○に十字のマークが「雷」の中の「田」なんだ。この「田」はやはり太鼓の象形だろうといわれているね。大昔のひとたちは、雷さまは自分たちの手の届かない天上でゴロゴロと太鼓を鳴らしているのだと想像していたようだ。
 また、イナビカリのことを示すのが②「電」という字。この「電」の下半分、「田」に尻尾が生えたような形はなんだろうか。実はこれは古い字体を見ると上にも突き抜けていた。要するにこれは「申」という字なんだよ」

トモにする

トモにする
「あ、ちょう。・・・バクバク・・・ムシャムシャ・・・、お代わり~」
 地仙ちゃんはすごい勢いで食べています。地仙ちゃんの「食」には足りるということなど無いのです。お代わりを待っている間、地仙ちゃんは言いました。「つまりチュウゴクの大むかしはトモグイ集団? やっぱりちょうの?」 また何か誤解しているみたいです。
「「キ」という食器を示す形象を持つ文字には、他にもまず「饗」がある。この字は、「郷」の古い意味が忘れられて集落を指すようにのみ使われるようになった後「一緒にメシを食う」という元の意味を示すために、もうひとつ「食」を付けて作られた文字。つまり「郷」と「饗」は「古今字」に当たる。また、ごちそうを食べる「餐」、メシをこれから食う「即」、食い終わってもう要らないという状態の「既」など数多い。
 またヘンな誤解をしているようだから念のため言っておくけど、トモグイじゃなくて共食(キョウショク)。大むかしのチュウゴクのひとがニンゲンを食っていたであろうことは否定しないけど、「共に食う」ことはトモグイとは違うんだ。
 ①「共」という字は二本の手でお供えモノを捧げている姿を表す字なんだよ。二本の手両方で行うので「トモにする」「共同する」という意味になった。お供えをすること自体はニンベンを付けて「供」の字で表す。ニホン国では「供」の字を使って「お供(トモ)をする」という言い方をするけど、その場合は本来「伴」だろうね。
 また、「共」にさらに手を示すテヘンを加えると「拱」という字ができる。チュウゴクのひとがよくやる両手をそろえて胸の前に持っていくあいさつのしかたのことを「拱手礼」というんだけど、「共」という形象を持つ文字には、神様へのお供えや尊敬すべきひとへのご挨拶など、何となく「うやうやしい」行為が関連しているみたいだね。 ということで、お供えモノをするときの「うやうやしい」キモチを②「恭」という。
 ニホン語で同じくトモと読む「友」も③にあるように二本の手からなっている文字だ。こちらの二本の手はどちらも「又」(ユウ)。現在では「または」という読み方をしているけど、本来「又」は右手を表す文字。「友」はこれを二つ重ねていて、両手で何かを持っている①の「共」と違って、二人が右手で協力している状態を表しているんだよ」
「ふうん・・・、トモダチは二人でクイモノを取り合っているの?」
 先生は誤解を解こうとしましたが、そこへお代わりが来ましたので、地仙ちゃんはまたバクバクと食べはじめました。すごい量です。店のひとたちが地仙ちゃんを見ながら目配せをしたり、ひそひそバナシをしたりしています。
「ふう・・・。ゴチチョウちゃま。もっと食べてもいいけどビヨウやケンコウにも気をつけないといけないから、これぐらいにちておくの」
 ようやく食べ終わりました。
 すごい額のお勘定をすませて、二人は金陵の町に向かって出発します。道々、「センセイとあたちはトモグイ集団になってちまいまちたね~」と話しかける地仙ちゃんに対して、先生が何度も後ろを振り向きながら言いました。
「地仙ちゃん、さっきのお店を出てから誰かに尾行されているような気がするんだけど」
「地仙ちゃんのファンのひと? ・・・センセイ、お勘定をゴマカちたんじゃないの?」
 地仙ちゃんはノンキなものですが、先生は心配でならないようです。