カテゴリーアーカイブ:政治の役割

オバマ大統領の評価

2016年11月1日   岡本全勝

10月29日の朝日新聞オピニオン欄、渡辺靖・慶応大学教授の「オバマとは何だったか」から。
・・・バラク・オバマ大統領に関して最も印象的なのは、強靱な理想主義者であると同時に、冷徹な現実主義者であるという点だ・・
・・・ もう一つ印象的なのは、新たな時代の変化に合致するよう、彼が米国の自画像(アイデンティティー)を刷新しようとした点だ。
まず国内的には、アフリカ系として初めて米国大統領に就任したこと、就任演説で無宗教者の尊厳を擁護したこと、米大統領として初めて同性婚支持を表明したことなどがある。白人やキリスト教徒の比率が低下し、人口構成や価値観が多様化する米社会を象徴するものだった。
また、格差拡大や中流層の没落、ジョージ・ブッシュ前大統領(共和党、01~09年)の政権末期に発生した金融危機(リーマン・ショック)など、「自由」の名の下に社会正義がむしばまれている状況を是正すべく、金融規制改革や医療保険制度改革(オバマケア)など、連邦政府による規制や関与を強化した。真の「自由」のためには、放任主義ではなく、政府の一定の介入が必要だとする米国流のリベラリズムの再生だ。米国では1980年代の「レーガン保守革命」以来、政府を自由への「手段」ではなく「障壁」と見なす政治文化が支配的となり、「リベラル」には負のイメージがつきまとうが、いわばその反転を試みたわけである。
しかし、その分、保守派からの反発はすさまじかった。「イスラム教徒」「米国生まれではない」「社会主義者」といった事実に反する中傷に加え、共和党との対立は激化した。今回の大統領選におけるドナルド・トランプ候補(共和党)の躍進の背景には明らかに「反オバマ」感情――そして、そのオバマを制御できない共和党指導層に対する憤り――が存在する。その意味では、オバマの最大のレガシーは共和党を分裂させた点にあるのかもしれない。
「リベラルでも保守でもない、一つの米国」という理念を掲げて歴史的就任を果たしたオバマのもと、19世紀半ばの南北戦争以来、最も政治対立が深刻な状態にあるのは皮肉としか言いようがない・・・

(外交について)
・・・しかし、こうした一連の姿勢には「謝罪外交」「弱腰外交」との批判も相次いだ・・・
・・・もっとも、そうしたオバマ外交への批判には、「世界の警察官」という往年の米国イメージにとらわれすぎているものも少なくない。「弱腰外交」と批判する側から説得力のある代替案が提示されているかというと心もとない。
さらに言えば、問題が起きるとすぐに米国の顔色をうかがう、米国の行動を頼りにする、逆に、すべての非と責任を米国になすりつける旧来の思考パターンから、日本を含め、各国もなかなか抜け出せないでいる。例えば中国の海洋進出や北朝鮮の核問題などは、米国なしに解決できないが、米国のみで解決できる問題ではない。
国内的・対外的なこうした自画像の刷新は、米社会とそれを取り巻く国際環境の変化を意識したものだろう・・・
一部を紹介したので、原文をお読みください。(2016年11月1日)

中国、文化大革命が残したもの。2

2016年10月26日   岡本全勝

朝日新聞10月20日オピニオン欄、王輝・中国天津社会科学院名誉院長へのインタビュー「体制内で見た文革」の続きです。

・・・「文革は中国社会に何をもたらしたのでしょう。伝統的な文化や価値観が否定され、宗教施設なども壊されました」との問に。
・・・文革中には過激な破壊活動が起きました。現在、中国が抱える問題はすべて文革がもたらしたものだという見方もあります。
(共産党への)信仰、理想、信念といったものが失われました。(豊かで平等な社会をつくるといった)共産主義の理想を信じる気持ちがなくなりました。人々は自信をなくし、残ったのは拝金主義と享楽主義でした・・・
・・・文革は高度に集中した伝統的計画経済を打ち壊し、その後の改革開放への条件をつくった。もし文革の歴史がなければ、中国はソ連の道をたどっていたでしょう。
文革前に、多くの庶民は知りませんでしたが、私は幹部として何が起こっているのかを見ていました。党内には、すでに特権階級が生まれつつあった。幹部たちは夏は避暑地の北戴河に行き、庶民には一生、手が届かない生活をしていたのです。文革がなければ、特権化はさらに拡大し、中国は(民主化を求めた群衆にチャウシェスク大統領が殺された)ルーマニアと同じになっていたでしょう・・・

「これから中国政治はどこへ向かうのでしょう」との問に。
・・・中国は今、左(共産主義)に進むこともできず、かといって右に行くこともできない。右とは米国式の民主政治の道です。このまま進んでいかなければ、生き残ることはできません・・
「民主化には進めませんか?」
・・・進めば、中国は四分五裂の道をたどるでしょう。これは怖いことです。米国は望んでいるかもしれないが、中国がソ連のように崩壊したら、経済も大混乱を起こす。かわいそうなのは庶民たちです。金持ちたちはみな国外に逃げるのだろうけど……
「では、共産主義の道は?」
・・・すでに貴族権益のようなものを持つ階級も生まれているから、左にも行けない。今や中国にどれだけの大金持ちがいると思いますか。彼らから再び財産を奪ったら、大混乱になります。ただただ、今のままでやっていく。これしかほかに道はありません・・・(2016年10月26日)

中国、文化大革命が残したもの

2016年10月25日   岡本全勝

朝日新聞10月20日オピニオン欄、王輝・中国天津社会科学院名誉院長へのインタビュー「体制内で見た文革」から。
・・・中国で文化大革命が発動されて50年。多くの中国人が信じた共産主義の理想は色あせ、社会は大きく変質したが、共産党政権は依然として苛烈な権力闘争のなかにある。中国は何を学び、何を失ったのか。党幹部の立場で文革を経験し、その後も体制内で歴史研究を続ける天津社会科学院の名誉院長、王輝氏に話を聞いた・・・
「秩序は軍の出動によって回復しました」との問いかけに。
・・・もし中国にこのような特殊で強大な軍隊がなければ、どうなっていたか。中国で、軍は戦闘部隊であると同時に、(国内の社会秩序を維持するための)工作部隊でもあるのです。単純に国防を担っているわけではありません・・・
「その特殊な軍の存在が、中国の民主化を困難にしているのではないですか」との問に。
・・・当然のことです。中国共産党は暴力革命によって政権を握った。暴力による政権奪取の必然の結果は専制政治です。それは民主化をもたらすことはないのです・・・
この項続く。(2016年10月25日)

戦後日本の民主主義思想

2016年10月22日   岡本全勝

宇野重規編『リーディングス戦後日本の思想水脈3 民主主義と市民社会』(2016年、岩波書店)を紹介します。このシリーズは、戦後日本の思想を、名著名作のアンソロジー(選集)でたどるものです。集められた論文は、それぞれの時代を切り取り、また後世に与えた影響において、読み直す価値があります。また、宇野先生がどのような考えでこれらを選ばれたか、それも勉強になります。
お勧めは、巻末についている、宇野先生による解説「民主主義と市民社会の模索」(p279~p321)です。実は、私はこの部分しか読んでいない、ここを読むために買ったのですが。
日本人が、戦後改革で受け取った民主主義をどのように考え、育ててきたかがよくわかります。そして、識者が考えた理想的な民主主義や市民社会像と、現実とが違ったことも。見出しは次のようになっています。
Ⅰ敗戦からの再出発、Ⅱ民主主義の諸構想、Ⅲ大衆と市民社会、Ⅳ戦後民主主義の問い直し、Ⅴ新たな民主社会像を求めて、Ⅵ政治空間の行方。(2016年10月22日)

トランプ現象を支えるもの

2016年10月15日   岡本全勝

10月9日の読売新聞、フランシス・フクヤマさんの「トランプ氏”善戦” 中間層根強い不公平感」から。
・・・彼のような大衆扇動型候補の台頭は、英国が国民投票で欧州連合(EU)脱退を決めたのと同様、決して驚くべきことではないからだ。
過去10年以上にわたり、米国でも欧州でも、政治エリートたちは大きな間違いを重ねてきた。米国の場合、イラクとアフガニスタンという二つの不人気な戦争に突入し、大恐慌以来最大の金融危機の下地を作り、庶民を傷つける一方で、自分たちは利益を得た。欧州では、共通通貨ユーロと域内移動を自由化したシェンゲン協定という、課題が多い二つの制度が、米国と似たレベルの大混乱を引き起こしている。
これらの経済的動揺の深刻さを見れば、2008年の金融危機を契機に、もっと早くポピュリズム(大衆迎合)が主要政治勢力となってもおかしくなかった。むしろ驚くべきは、これほど長い時間がかかったことである・・・

10月7日の読売新聞、竹森俊平・慶應大学教授の「米大統領選 自由貿易に影。決められない政治 怒りの矛先」から。
・・・トランプ氏は無知をさらけ出しているのだが、無知を恥じて勉強する代わりに、「知識を持った専門家が米国をダメにしている」という論理を振り回す。
それが彼の一番の問題だ。しかし、「白人、高齢者、低学歴」の国民層にはかえって受けるのだ。これほど米国社会の分裂を深刻にした大統領候補はいない・・・
・・・米国民の不満が今回の選挙を動かしていると言われる。しかし、米国経済は、政治が安定している日本と比べても、はるかに良好で、さらに改善しつつある。不満の原因は「経済」ではなく、何も決められない米国の「政治」だろう・・・(2016年10月15日)