カテゴリーアーカイブ:政治の役割

冷戦終結後の理想は

2019年11月7日   岡本全勝

11月3日の朝日新聞コラム「日曜に想う」、大野博人・編集委員「解けてしまった30年前の魔法」から。

・・・「あれは魔法のときだったと思う」
エマニュエル・トッド氏の言葉に確かにそうだと思った。
このフランスの歴史学者はソ連の崩壊を早くから予測していた。冷戦が終結した30年前とその後をどう考えているか。先日、パリの自宅を訪ねた。
「ロシア人は共産主義という全体主義システムからある意味でエレガントに抜け出した。戦車をほかの国に送ることを拒み、東欧諸国の解放もソ連の解体さえも受け入れた。(当時のソ連共産党書記長)ゴルバチョフ氏の偉大な功績だ」
大量の核兵器で威嚇し合う軍事的緊張関係によって築かれていた第2次大戦後の東西2極体制。30年前、それが武力衝突もなく消えていった。まさに魔法にかかったように。これから世界は民主主義と市場経済によって平和で豊かになっていく、と楽観的な気分が広がった。

けれども今、各国で民主主義は不信の的となり、市場経済も不平等を拡大していると批判を浴びている。結局その二つは特権階級を利するだけだ、というポピュリストの主張に人々は傾いている。
「もっとうまくやれたはずなのに」とトッド氏はいう。「レーガン米大統領やサッチャー英首相は共産主義の崩壊を、文明化されていない資本主義、ネオリベラリズム、ヒステリックな資本主義の勝利だと考えた。それがあらゆる種類の行き過ぎにつながってしまった」・・・

・・・数カ月で、政治と社会の風景はすっかり変わった。歴史が動くときは加速するのだと感じた。
しかし、冷戦が終わった直後から急務と言われていた「新しい国際秩序」の構築はちっとも加速しなかった。今に至ってもなお、それは姿を見せているようには思えない。むしろ経済のグローバル化をうまくコントロールできないまま「無秩序」ばかりが広がり続けている。
1989年11月9日にベルリンの壁が開放されてからまもなく30年になる。
あのとき、世界は何を終わらせ、何を始めたのだろうか・・・

多くの政治家や学者と同じく、ベルリンの壁が壊れるまで、私もドイツ統一はないと思っていました。参考、「高橋進著『歴史としてのドイツ統一』」。
ゴルバチョフ書記長は、体制を失ったとはいえ、大きな戦乱なくソ連と東欧諸国の共産主義支配を終わらせました。
その後の東欧の歴史は、指導者(東西の)の理想通りには行きませんでしたが、市場経済と自由主義はほぼ確立しました。この二つは、指導者の強力な力がなくても、多くの市民の支持と「自動運動」で実現するようです。
さて、地球温暖化、大量の廃棄物、非民主主義国家中国の台頭、貧富の格差拡大、大量の難民、それらを背景に起きているポピュリズム・・これらの国際的課題と各国の課題に、政治家はどのように対処するのでしょうか。

ところで、東西ドイツの国境は、有刺鉄線や地雷で隔てられていました。その跡が、幅300メートルの緑地帯に生まれ変わったようです。日経新聞11月3日「東西ドイツ国境開放から30年

政府が主導する働き方改革、2

2019年10月30日   岡本全勝

政府が主導する働き方改革」の続きです。

2 社会を変える手法は何か
2つめは、このような働き方や夫婦の役割分担を変える際に、政府はどのような手法を使うかです。いくつか考えられます。
・法律による規制、さらには罰則をつける。
・まず、政府の職員である国家公務員に義務づける。
・従った企業に、税や補助金で優遇する。
・広報で、宣伝でする。

もっとも、このような法律を作るとすると、「その法律によって守ろうとしている法益は何か」という質問が出るでしょう。

昨日、「この国のかたち」と表現しましたが、変えようとしているのは、国民生活の慣習と言ってもよいでしょう。夫婦の役割分担、職場での仕事の仕方(働き方改革はそこにつながります)、休暇の過ごし方・・・。
「どのように生きようが、個人の自由だ」と主張する自由主義者や、「我が家では、夫婦の間で役割分担を決めるのです」と主張する夫婦には、どのように説得しましょうか。

政府が主導する働き方改革

2019年10月29日   岡本全勝

政府は、男性の国家公務員が育児休業を取得する際に、原則1か月以上とするよう促す方向で検討していると、NHK日経新聞が伝えています。
育休取得率は、女性公務員が99.5%、民間の女性社員社員が82%なのに対し、男性公務員は22%、民間の男性社員が6%です。まだまだ、男女共同参画には遠いです。
政府による、働き方改革の一つです。これに関して、いくつかのことを考えました。

1 この政策を、政府の役割のどこに位置づけるのか。
労働時間の規制なら、労働者保護です。また、公共の場での禁煙は、国民の健康保護でしょう。受動喫煙によって、周囲の人の健康を損ねないようにです。
しかし、 現在進められている働き方改革は、このようなこれまでの政策分野とは少し違います。労働者や国民の健康や暮らしを守っているのではありません。

平成の初めに、週休2日制が導入されました。労働時間短縮なら、目的は労働者の健康保護ですが、必ずしもそこに収まるものではありませんでした。国民に、働き方や休日の取り方を誘導したのです。
育休取得も、国民の健康を守るものではなく、男性の働き方、母親にだけ押しつけている育児を父親もすべきだという、男女共同参画を目指すものでしょう。これまでの、夫は家庭を犠牲にしてでも働く、妻は家庭を守るという、昭和の家庭や職場の形を変えようとするものです。

さて、これは、行政の役割のどこに位置づけるのか。簡単言うと、これまでの霞ヶ関の政策分類にはまらず、既存の担当省庁が見つからないのです。
その場合は、内閣府が所管することになるのでしょう。内閣府は既に、男女共同参画型社会や共生社会政策を担当しています。

政府としては、「この国のかたち」を変えることも重要な役割です。連載「公共を創る」でも、考えています。「この国のかたち」という言葉を安易に使うのは良くないと思うのですが、直ちによい言葉を思い浮かばないので。
この項続く

憲法破壊勢力となった護憲派

2019年10月25日   岡本全勝

東大出版会PR誌『UP』10月号、井上達夫先生の「立憲主義を救うとは、どういうことか」から。
1997年の朝日新聞に載った鶴見俊輔さんのインタビュー「憲法改正に関する国民投票を恐れてはいけない。その機会が訪れたら進んでとらえるのがいいんじゃないか」を紹介した後。

・・・公正な政治的競争のルールの支配に権力抗争を服せしめる企てとしての法の支配と立憲主義の要請は、立法闘争だけでなく憲法闘争にも貫徹されなければならない。日本国憲法は、憲法闘争を公正に裁断するルールとして、九六条で憲法改正手続きを定めている。改憲派のみならず護憲派もまた、九六条の憲法改正プロセスに従って、九六条を改正すべきか否か、いかに改正すべきかについて国民投票により国民の審判を仰ぐ責任がある。
しかし、護憲派は「負ける試合はしない」とばかり、九六条のプロセスの発動自体に反対し、挙げ句の果て、「国民投票」自体を「危険なポピュリズム」として糾弾しさえしている・・・

・・・いまの護憲派は政治的御都合主義に開き直り、この要請(法の支配と立憲主義の要請)をまったく無視している。それにより、護憲派は残念ながら、いまや「憲法破壊勢力」に変質してしまっている・・・

政治をどう循環させるか

2019年10月16日   岡本全勝

10月13日の読売新聞、五百旗頭薫・東大教授の「安倍1強後を読み解く 政治の循環 首相の責務」から。

・・・政治の歴史をどう理解し、未来をどう考えるか。私は「循環」がキーワードになっていくと考えています。一方向に良くなったり悪くなったりするのではなくて、複数の政治のあり方をうごめくようなイメージです。
この概念で日本政治を見ると、長期的には三つのフェーズを循環する可能性が高いと思います。今のような「自民党優位」と政権交代を含めた「複数政党の競合」、自民党が崩壊して他党もうまく機能しない「空位」です。
空位は暗い見通しであり、避けなければいけませんが、一番まずいのは循環を止めることです・・・

・・・安倍首相は比較的安定した政治基盤の下で中央省庁を強力に束ね、意欲的な外交を行っています。ただ、後継者を育てて「自民党優位」の状況をうまくつなげていくという循環のための準備は十分ではありません。野党は「多弱」なので、自民党が混乱し支持を失えば、「大空位時代」に行き着きかねない困った状況です。
野党が弱いと、政権内の緊張感は維持できません。首相は後継者だけでなく、野党も育てなければいけないと思うんです。国会で反論の機会を与えて、より実質的な論争をする。衆院解散権の行使は自制して野党に政策を練らせて論戦する。それくらいの度量が必要だと思います・・・