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行政-官僚論

公務員離れ「国家衰退レベル」

5月31日の日経新聞夕刊に「公務員離れ「国家衰退レベル」 世界に学ぶジョブ型とは」が載っていました。しかしこれを訴えたのは、人事院です。記事に次のように紹介されています。「国家公務員の人事制度を協議する人事院の「人事行政諮問会議」は5月に公表した中間報告でジョブ型の必要性を訴えた。現状が続けば質・量ともに人材が不足し「国民の安全な生活に支障を来し、国家の衰退にもつながりかねない」と強調した」。詳しくは記事を読んでいただくとして。

・・・若年層が国家公務員を志望しなかったり早期に離職したりする傾向に歯止めがかからない。職務内容を明確にして成果で処遇する「ジョブ型」の働き方が打開のカギを握る。外国の例に学ぶ。
「大半が主体性のない仕事に感じた。やりたいことをするのに10年はかかる」。2021年度に総合職で経済官庁に入った20代男性は1年足らずで退職した。実力本位で仕事ができる金融系スタートアップに転職し働きがいを実感する。
人事院によると「キャリア官僚」と呼ばれる国家公務員総合職の採用試験の志願者は23年度に1万8386人と12年度に比べて27%減少した。採用10年未満の退職者も18年度から3年連続で100人を超えた。14年度は66人だった・・・

・・・ジョブ型の浸透には報酬の体系の見直しも欠かせない。23年度に採用した国家公務員の8割以上が仕事の魅力を高める対策に「給与水準の引き上げ」を挙げた。
シンガポールは省庁事務方トップの事務次官など幹部候補の養成コースに選抜した人の給与を閣僚や民間の高額所得者の水準に合わせる。政府資料から事務次官の年収は100万シンガポールドル(約1億1500万円)超と推計できる。
同国の国家公務員は30代後半から40代で月5000米ドル(約80万円)以上の手取りを受け取り得る。職務を明確に規定し優れた業績を残すと昇給やボーナスで報いてもらえる。資源が乏しく人材立国を掲げ、国策として公務員の人手を確保する・・・

・・・公務員制度に詳しい荒木尚志東大院教授は「学生は社会貢献への意欲を失っていない」と指摘する。公務員と民間の仕事の垣根がなくなりつつあり、社会貢献の仕事もできる外資系コンサルティングやスタートアップに人材が流れているという。
仕事の魅力や処遇を民間並みに高めれば、中央官庁に人材を呼び込める可能性はある。荒木氏は公務にジョブ型を浸透させ、若者をひきつけるキーワードに「納得感」を挙げる。
日本では若いうちは様々な部署を移り変える「ジョブローテーション」が主流だ。幅広い分野の知見や経験を積める利点がある一方、専門性を身に付け、いかす実感は持ちにくい。荒木氏は「若い世代はこの分野で自分が第一人者になりたいという思いが強い。ローテーションを過度に押しつけては人材が離れる」と話す。全般をこなすゼネラリストが出世しやすい人事は見直しの余地がある。

ジョブ型や民間との交流を拡大する以前の問題として、世界でも特異な日本の国家公務員の働き方を早急に改める必要がある。
人事院によると、22年度に部署ごとに定めた勤務時間を超過した職員は、業務を自己完結できない部署全体の16%、1万2000人ほどだった。閣僚の国会答弁をつくるため議員の質問案を待ち、時に未明まで作業する悪弊は一向になくならない・・・

官僚の不満は、やりがいと給与に集約できるでしょう。企業に勤めた大学時代の友人と比べると、やりがいは主観的なものが入りますが、(企業に勤めた人が全員ではありませんが)給与の差は歴然としています。

これまでは、日本の労働市場では転職は難しかったのです。官僚たちは不満を持っていても、我慢して、「自分たちは国家に貢献しているのだ」と自分を納得させてきました。しかし、転職が可能な社会になると、我慢する必要はなく、自らの技能で転職できるのです。そして、経験年数を基本とした昇進と給与体系は機能しなくなりつつあります。人事院が提言したジョブ型への転換は、一括採用、経験年数による昇進、それに応じた給与体系を壊します。
役所側が働く内容と処遇を変えないと、できる官僚は逃げていきます。いよいよ働き方改革が本格化するでしょう。転職自由社会が与える衝撃です。

官僚で身につく技能

5月23日の朝日新聞「霞が関にこだわらない?3」「社会課題解決、ロビー活動でもう一度」から。

・・・民泊参入の「壁」が昨年7月、見直された。仕掛けたのは、「ロビー活動」を支援する会社「ポリフレクト」を経営する宮田洋輔さん(41)だ・・・
・・・企業が政府や議員に働きかける「ロビー活動」は欧米ではさかんだ。米企業がロビー活動に投じる費用は年間6千億円超とされ、「ロビイスト」も1万人を超える。「市場ルールをゆがめる」との批判があるが、ルール形成に当事者の企業が関わるのは当然でもある。
役所任せの日本企業の姿勢を目の当たりにし、「ならば、自分がやる」と思いが膨らみ、13年12月、IT企業に転職した。

転職して気づいたのは、官僚経験の「価値」だった。仕事の日程や進め方を事前に作り込む「ロジ業務」は、官僚時代は「無駄が多い」とうんざりしていたが、民間では「効率的な仕事の進め方」と評された。業界や政治家など様々な関係者の利害を調整する「根回し」も、典型的な官僚の手法だ。しかし、この作業を通じて、物事を様々な立場から考える視座が身についていた。「自分がいかに成長していたか、霞が関の外に出て初めてわかった」

民間企業に5年弱在籍し、より幅広い社会課題に関わりたいとの思いが強まり、18年7月に独立し「ポリフレクト」を立ち上げた。政府側が「一企業の利益」と判断しがちな要望も、広い視座で捉えれば社会課題の解決につながる。手がけるのは、そんな案件だ。
企業だけでなく古巣の経産省関係者からも「政策の意見を聞きたい」と声がかかる。ロビー活動は、企業と官僚の間の「垣根」を下げることができる。今はそんな思いで、霞が関を奔走している・・・

霞が関官僚のやりがい

5月22日の朝日新聞「霞が関にこだわらない?2」「幸福運ぶミツバチ、地域のために」で井上貴至さん(38)が取り上げられていました。
井上君は総務省官僚で、現在は山形市の副市長です。鹿児島県長島町の副町長のとき、様々な企画を打ち出し、スーパー公務員とも呼ばれています。

・・・井上さんは「これだけの挑戦ができるのは、自分が霞が関の官僚だからこそ」と言う。「長島の副町長になったのが29歳。いま38歳で、中核市である山形市の副市長をやらせてもらえる。官僚でなければ、こんなポストは任せてもらえない」
長時間勤務が原因で離職する人がいるなど、霞が関が直面する課題も理解している。
それでも、霞が関に希望はある、と思う。国の看板を背負って、誰とでも会える。そこで受けた刺激を仕事に生かせば、日本の将来を良い方向に変えられると信じる。

「企業はまず従業員や株主の利益を考えるが、行政はすべての住民がステークホルダー(利害関係者)。全員の幸福を考えながら青臭く理想を論じられることが、官僚の最大の魅力です」
やれることはまだまだある。だから、霞が関を諦めない。そう決めている・・・

「優秀だけど、短期集中突破で持続性がない」

2月29日の朝日新聞「けいざい+」「TSMC誘致の真相:下 前例のない補助額、財務省が条件」は、一企業に多額の補助金を出す事案の解説ですが、記事に次のような話が出てきます。

・・・財務省主計局は、近年の経産省の手法を苦々しく思っていた。「彼らは国土交通省や農林水産省と違って、私たちとまじめに予算の議論をしないんです。官邸など上にあげて、『もう決まったから予算を出せ』とおろしてくる。まるでATMの扱いですよ」。財務省を疎んじ経産省を重用した第2次安倍政権以降、そうした傾向が強まった。

経産相を務めた萩生田光一は「着任当初は素人だったが、のめりこむように半導体を勉強した」と振り返る。TSMCの予算確保に財務省ににらみをきかせる半面、経産省の体質にも問題があると気づいた。この30年余、経産省の半導体政策は前のめりになったかと思えば後ずさりし、振幅が著しい。萩生田は国会で「世界の潮流を見極めきれず、適切な政策を講じられなかった」と同省の失敗をわびた。
「経産官僚は優秀だけど、短期集中突破で持続性がないんです」。まるで高校の文化祭の実行委員のようだと感じた。「短時間でワーッとやるけど文化祭が終わったら、あとは関係ナシなんです」。経産官僚は「弾を込める」「仕掛ける」という言葉をよく使う。前任者の仕事を引き継ぐよりも、新しい政策を打ち出したがる。

萩生田は「異動後も自分が手がけた仕事がどうなったか定年までウォッチしてほしい」と苦言を呈する。TSMC誘致は珍しく4代の局長、3代の課長がバトンを受け継ぎ、彼らの言葉を使うと「仕留めた」案件だった・・・

私が若いとき、ある人が、通産省(当時)の官僚たちの仕事ぶりを「は虫類行政」と呼んでいました。「卵(新規施策)を産むが、育てない」という意味です。
新しい施策を考える気風は、評価されるべきです。しかし、1~2年で異動することが多いと、その施策を実施するのは後任者になります。そして、新規施策を考えることが評価の基準になると、前任者の施策を実施するより、自分で新しい施策を考えることになります。

急速に変化する日本の労働慣行

篠原俊博さん(元総務省行政局審議官、株式会社SHIFTプリンシパル)が、月刊「地方行政」2月号に、「地方公共団体と民間企業の人事管理の比較・考察」を書いています。数ページ読むことができます。

本人の経験を踏まえた、役所と企業との人事管理の違いを考察しています。両方を経験したので、説得力があります。
転職が容易になり、企業の人事管理が急速にジョブ型に転換しつつあることを指摘し、役所の人事管理も変わらざるを得ないと主張しています。人事院や内閣人事局も改革に取り組んでいますが、世間はもっと先を行っているようです。

今ちょうど連載「公共を創る」で、官僚の育成方法を変える必要があることを書いています。大変参考になりました。