カテゴリーアーカイブ:官僚論

局長が課長の仕事をし、課長が課長補佐の仕事をするようになった

2026年3月25日   岡本全勝

昨日紹介した長屋聡執筆「官僚制の変容と若手官僚」(季刊『行政管理研究』2025年9月号)に、次のような指摘があります。

・・・また、官僚個人のレベルでは、事柄により、かつてより1ランク又は2ランク下の職責の仕事をしている印象も抱く。局長がかつての審議官、ともすれば課長級の判断・決定を、課長が課長補佐級の判断・決定をしているといった具合である。
これは、行政自体がより緻密な仕事を求められるようになったこととともに、例えば、幹部職員について見れば、当該ポストで自らの責任で決めることのできる裁量範囲が狭くなり、上司である政務等の判断を要する事柄が増えている面があることは否めない。上のポストの裁量範囲が狭くなれば下のポストにも影響は及んで行く・・・

「かつては課長補佐がやっていた仕事を課長がやっている」という話は、よく聞きます。働き方改革が進んで、部下に超過勤務を頼めず、管理職がそれを行っているという要素もあるそうです。それなら、仕事を取捨選択して、仕事量を減らさなければなりません。それは、緻密な仕事を求められる・裁量範囲が狭くなった場合も同じです。

他方で、官僚主導から政治主導に移行すると、幹部官僚の仕事の範囲は狭くなっても良いはずです。重要事項は政治家が判断し、幹部はその指示で動くので、責任=仕事が狭くなるからです。組織内で、課長より課長補佐や係長の方が、責任が軽くなるのと同じです。
では、なぜ局長が課長の仕事をするようになったのか。私が考える理由は次の通り。
1 幹部は、政治家に気を遣うことが増えた
これは、長屋論考が指摘していることです。幹部が自分で判断できず、官邸や大臣の意向を重要視することで、仕事が増えて遅くなるのです。想定問答をたくさん用意するとか、指示を待つとかです。

2 幹部が攻めの仕事をせず、守りの仕事になっている。
政治家の指示を待つこととともに、目の前の案件を処理することで手が一杯になり、長期的な課題検討ができていないのではないでしょうか。いつの時代にも仕事はたくさんあります。その際に、優先順位をつけることができれば、効率よくかつ安心して進むことができるのですが、モグラ叩きをしていると、良い成果は出ず、疲れます。

長屋論考には、次のような指摘もあります。
・・・ア  国会待機など、合理的と思われない業務による拘束。
このほか、幹部による必要以上の詰め(必要以上の完璧主義)、上司による有意と思われない手厚すぎる業務の指示など(近年、幹部・管理職は若手を気遣うマネジメントをするようになったとの変化は見られるが、一部には、マイクロマネジメントが変わらぬ幹部・管理職もいるように聞く)。
イ  政官関係の中での官の当事者性(自律性)の低下。
達成感を感じるような成功体験の機会の減少。政治家への根回しと政治家からの宿題こなしに多忙を極めたり、一時の野党ヒアリングで叱責されたりしている幹部・管理職の姿は、若手官僚が自分の将来を考えた時、やりがいや充実感を感じることにつながるであろうか・・・

長屋聡執筆「官僚制の変容と若手官僚」

2026年3月24日   岡本全勝

長屋聡執筆「官僚制の変容と若手官僚」(季刊『行政管理研究』2025年9月号)を紹介します。遅くなってすみません。執筆者から送ってもらっていたのですが、机の上で寝ていました。良い論考です。官僚制に危機感を持っている人、霞ヶ関の幹部には読んでいただきたいです。冒頭に次のように書かれています。

・・・若手の官僚が中途退職し、国家公務員志望者が減少していることが、社会的な耳目を集めている。人事院及び内閣人事局は、近年、相当な危機感を持って、これに対処すべく取り組んでいる。
本稿では、まず、政と官との関係で政治主導の必要性が唱えられ始めた1990年代以降、官僚及び官僚制はどのように変わって来たのかについて、Ⅰ官僚制の変容として概観した。そして、Ⅱにおいて、そのような経緯を経た現在の官僚制の中で、若手官僚(いわゆるキャリア官僚を念頭)の実相はどのようなものとしてとらえられるかを、個人的心証を含めて概説した。
官僚制の内側の視点から官僚制の変容の経過を整理している文献は必ずしも多くなく、Ⅱではマネジメントや人材育成にも言及しており、現役官僚の方々、さらに官僚制に関心を抱く方々に何がしか参考になれば幸いと思っている・・・

連載「公共を創る」第253回「官僚に仕事をさせるために」(3月26日号)で、「官僚機構を再び活性化し、活用するためには、新たな官僚論が必要です。ところが、このような議論が本格的になされているようには見えないのです。何より当事者である官僚の、現実を踏まえた考えと発言が求められます。」と書いたのですが、この論考は、まさに官僚が(現在は元官僚)が人事課長などの経験を元に、近年の官僚を取り巻く環境と行動の変化を述べたものです。すみません、連載「公共を創る」で紹介、引用すべきでした。

いくつか目次を紹介します。
Ⅰ 官僚制の変容
本章では、官僚制がいかに変化して来たか、また官僚制は状況の変化に十分に対応・適応して来たと言えるかを問題意識として、以下、官僚制をめぐる環境の変化と、官僚制(国家公務員制度)の改革、官僚そのものの変化と現状について記述したい。
1 取り巻く環境の変化
⑴  行政及び官僚を取り巻く経済・社会・国際状況等の変化(1990年代以降)
ア  バブル後の社会・経済・国際状況への対応の不十分 イ 個別行政の失敗 ウ 官僚不祥事の発生
⑵ 国の行政の役割の変化
⑶ 政と官、政府(内閣)と与党との関係の変化
(ウ)その他の官僚制にかかわる状況変化 ⅰ)国家公務員倫理法の制定 ⅱ)天下り批判
ウ 中央省庁改革後の運用(小泉内閣、民主党政権)
2 公務員制度改革及び官僚における変化と現状
⑵ 官僚個人をめぐる変化
ア 官僚に求められる能力 イ 志望動機、やりがい
⑶ 官僚の類型と行動 ⑷ 専門性と政治的応答性
3 官僚制についての現状認識

Ⅱ 若手官僚の実相
Ⅰに見るように官僚制が変化して来た中で、近年、若手官僚の退職者の増加、志望者の減少が著しい。以下、こうした状況の背景分析、若手官僚の実態、対応策などについて考えたい。
1 若手官僚をめぐる課題、背景
⑴ 社会的背景、社会意識の変化 ⑵ 霞が関に内在する課題
2 若手官僚の認識、特徴等
⑴ 若手職員の現状 ⑵ 若手官僚の気質、特徴 ⑶ 若手官僚の指摘(例)⑷ 構造的課題
3 対応(マネジメント)

森友文書、財務省の改ざん

2025年8月19日   岡本全勝

8月4日の朝日新聞「改ざん、日曜のメールから 森友文書、3回目開示へ」から。

・・・そのメールが届いたのは日曜日の夕方だった。
「今後開示請求があった際のことを踏まえると、現時点で削除した方が良いと思われる箇所があります」
送信は2017年2月26日午後3時48分、重要度は「高」。件名には「【重要・作業依頼】」とあった。東京・霞が関の財務省理財局の職員から、大阪市の近畿財務局(近財)の課長らにあてたメッセージだった。
国会ではこの時期、学校法人・森友学園(大阪市)への国有地払い下げが問題となっていた。大幅に値引きして売られ、建設予定の小学校の名誉校長に安倍晋三首相(当時)の妻、昭恵氏が就いていたことが疑惑を呼んだ。理財局は国有地の管理を担当し、近財が現場対応にあたっていた。

理財局のメールは、森友問題の決裁文書の改ざんを近財に指示するものだった。
日曜日の夕刻、近財の職員らは急きょ登庁し、作業にあたった。理財局からはその後も、改ざんする文書名と箇所を具体的に指示するメールなどが相次いで届く。
翌27日午後6時15分、近財側は理財局職員2人にメールを送った。
「ご指示に従い、内容を確認して、大幅にカットさせていただきました」

その後も理財局の指示は止まらず、改ざんの作業は続いた。改ざんを強いられ、発覚した18年3月に自死した近財職員の赤木俊夫さんが残した文書には、近財側の抵抗の跡が残る。
「既に意思決定した調書を修正することに疑問が残る」「現場の問題意識として既に決裁済の調書を修正することは問題があり行うべきではないと、本省審理室担当補佐に強く抗議した」・・・

日本経済低下の責任

2025年8月3日   岡本全勝

7月17日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」、寺澤達也・日本エネルギー経済研究所理事長の「グローバル視点で議論」に次のような発言が載っていました。

ー失敗や挫折の経験はありますか。
「1984年、通商産業省(現経済産業省)に入省して以来30年以上、日本経済の強化を担う組織にいた人間として、この30年の日本経済の地位低下に関しては責任を感じています」
「例えば日本の半導体産業は88年には生産額のシェアが50%を超えるなど、世界をリードする存在でしたが、現在では10%程度まで落ち込みました。90年代以降、台頭した韓国、台湾などの新勢力、米国のシリコンバレーの動きなどへのインテリジェンスの弱さ、失敗から学ぶ戦略が欠如していたことが日本の産業競争力低下につながった側面があると思います」

人事院白書、公務員のやりがい

2025年7月27日   岡本全勝

人事院の「令和6年度年次報告書」(6月6日公表)は、国家公務員が世間でどのような印象を持たれているかという意識調査をしています。「第2部 「選ばれる」公務職場を目指した魅力向上・発信戦略~働く場としての公務のブランディング~ 第1章 公務のブランディングの必要性 第3節 国家公務員に対して持たれているイメージ」

この調査は、2025年2月に、職業等を問わず6000人を対象に実施しました。他の業界と比較する形で実施し、比較する業界として、人材獲得において国家公務員と競合する可能性の高い、商社、コンサルタント・シンクタンク、金融機関、メーカー、地方公務員を設定しています。
「やりがいのある仕事ができているイメージがあるか」という設問では、国家公務員(本府省と地方機関勤務とも)も地方公務員も、他の業界に比べて、肯定的回答の割合が低いのです。白書は、「公務員全体に対して、やりがいについてポジティブなイメージを持たれていないことが分かる」と述べています。なお、この項目では、金融機関も低いようです。
「仕事を通じたスキルアップや成長の機会が多いイメージがあるか」という設問への回答においても、国家公務員も地方公務員も、他の業種に比べて肯定的回答の割合が低いです。

「第2部  第2章 公務職場の魅力の整理」には、次のような紹介もあります。
「マイナビ2026年卒大学生公務員のイメージ調査」(2025年2月17日株式会社マイナビ)によれば、国家公務員と地方公務員を含めた「公務員」になりたい理由について、公務員を就職先として考えている人では、「安定している」、「休日がしっかりとれる」という項目に次いで、「社会的貢献度が高い」、「社会・市民のために働ける」が挙がっています。
転職希望先では、「ビジネスパーソン6500人に聞いた「官公庁・自治体への転職」意識調査」(2025年1月6日エン・ジャパン『エン転職』『AMBI』『ミドルの転職』3サイト合同調査)では、「官公庁・自治体への転職に興味がある」と回答した者が興味を持つ理由の上位は、「安定した収入を得たいから」、「仕事を通じて社会貢献をしたいから」となっています。

これに対して、国家公務員採用総合職試験等に合格して2024年4月に採用された職員へのアンケートでは、国家公務員になろうとした主な理由は、「公共のために仕事ができる」、「仕事にやりがいがある」、「スケールの大きい仕事ができる」が上位となっています。総合職では、「安定している」ことではなく、やりがいが理由になっているのです。もっとも、転職希望者調査でも「仕事を通じて社会貢献をしたいから」が二番目であり、これも広い意味で「やりがい」でしょう。

では、現役官僚はどう考えているか。内閣官房内閣人事局の2023年度「国家公務員の働き方改革職員アンケート」では、「私は、現在の仕事にやりがいを感じている」という問について、「とてもそう思う」が12・5%、「どちらかと言えばそう思う」が45・5%、合わせて58%です。他方、「まったく思わない」が6・2%、「どちらかと言えばそう思わない」が12・6%で、合わせて18・8%です。「どちらとも言えない」が23・2%です。6割が満足し、2割が不満を持っています。これは、満足度が高いと考えても良いのでしょうか。
その際に、働きがいと関連している割合が高いものは、「成長を実感できている」、「国民・社会に貢献していると実感できている」です。他方で、数年以内に離職意向を有する職員についてその要因を見ると、「自分にとって満足できるキャリア形成ができる展望がない」に次いで「成長実感が得られない」が高くなっています。現役職員については、「成長実感」の有無は、働きがいと離職意向の双方に関連しています。