カテゴリー別アーカイブ: コメントライナー

コメントライナー寄稿第19回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第19回「行政改革と縮み思考から卒業を」が9月10日に配信され、iJAMPにも転載されました。

歴代内閣は、行政改革に取り組んできました。中曽根行革では国鉄の分割民営化、橋本行革では中央省庁改革、小泉行革では郵政民営化や規制改革など。現内閣も「政改革推進本部」を設置しています。しかし、現在の行政改革は、何を目的として行われるのでしょうか。国民も「小さな政府」や「身を切る改革」といった言葉を支持します。その中身はなんでしょうか。

1990年代には、経済停滞からの脱却のために、企業は事業の縮小や従業員数と給与の削減を進めました。ところが、その目的を達したのに、引き続き縮小を続けたのです。それでは消費も拡大せず、経済も社会も発展しません。一方、政府も予算と職員の削減を続け、社会に生まれてきていた新しい課題に取り組むことができませんでした。

やがて「縮小の思考」は社会の通念となり、企業や役所が新事業へ挑戦することや、新しい政策を企画することをためらわせました。30年間も続くと、現在の企業や役所の幹部は、入社・入庁以来、挑戦や成長を経験したことがないのです。それが、経済停滞と社会の不安を長引かせたのです。
この間に、一人あたり国民所得は経済開発協力機構加盟38カ国中21位に落ち、アメリカの3分の1、ドイツの2分の1になってしまいました。

ようやく物価、給与、株価が上昇し始めました。成長のためには、政府も行政改革を卒業し、国民に向かって縮み思考から脱却することを宣言すべきです。

コメントライナー寄稿第18回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第18回「転職自由社会が与える衝撃」が7月4日に配信され、9日のiJAMPにも転載されました。

人事院が行う国家公務員総合職の新採研修で、講師を務めています。今春の採用者数は約800人ですが、2014年度は約600人でした。10年間で約3割も増えました。主な理由は早期退職者が増え、各府省が採用者数を増やしているのです。中途採用も広がりました。民間企業でも同様で、知人の大企業でも離職率は3~4割、3大銀行では中途採用者数が新卒採用者数と同数になっています。
日本の労働慣行であった、新卒一括採用、年功序列、終身雇用が崩れつつあります。崩した「黒船」は、転職が不利にならなくなったことです。人手不足や専門職の必要性から、中途採用枠が増えました。次の仕事が見つかりやすくなると退職しやすくなり、退職者が増えます。すると中途採用を増やさなければならないという「拡大循環」が生じています。

転職する職員は仕事のできる人たちですから、転職者が増えれば雇い主にとって損害は大きいです。職員が求めるのは、よい処遇、働きやすい職場、やりがい、技能の習得です。
新卒一括採用と人事課による配属先決定、経験年数による昇進と給与という仕組みから、本人の望む職場を提供し、できる職員にはふさわしい給与を提供する仕組みへ変わるのでしょう。それができない職場からは、できる職員は逃げていき、他方で評価の低い職員は居続けます。彼らの処遇も問題になります。

コメントライナー寄稿第17回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第17回「管理職を育てる組織へ」が4月26日に配信され、30日のiJAMPにも転載されました。

今回は、有名企業で起きている性能偽装の原因を取り上げました。調査に対して、部下は「開発スケジュールが厳しいことを上司に伝えても、上司が取引先に対しスケジュールの見直しを申し出ることはなく、むしろ、決められたスケジュールに間に合わせるよう指導を受けるのみであったため、スケジュールが厳しくても、上司に相談することはしないようになった」と発言し、管理職は「この業務の経験がなかったため、業務に詳しい担当者を信頼し、業務を一任していた」と答えています。

関与した当事者たちは悪いのですが、彼らにも言い分があるでしょう。「私はこの分野の専門家でなかったが、会社の人事でこの席に着いた」「同僚も上司も、このような仕事の仕方を続けていた。なぜ私だけが」と。

職場管理の訓練を受けずに専門外の部署の管理職に指名された職員と、管理職に相談してもどうせ何も変わらないと思っている部下。彼らより、そのような人事を行った組織と幹部の罪は大きいのです。

コメントライナー寄稿第16回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第16回「工程表のない政治」が2月22日に配信され、27日のiJAMPにも転載されました。
今回は、昨年秋に、岸田文雄首相が打ち出した所得税減税を取り上げ、政治手法のあり方を議論しました。

首相が政策を打ち出す際には、「突然に」と「議論を経て」の二種類があります。前者は、国民が想定していない政策を打ち出すことで、首相の指導力を見せる演出効果があります。後者は、首相が課題と方向を提示しますが、議論を積み重ね、最後に首相が決断します。

民主主義は有権者の意見に基づく政治であり、その意見を集約する手続きを経る仕組みです。審議会や政党内、議会での議論を通じて、国民に争点を示していく過程が重要です。これによって、すべての国民が賛成しないまでも、国民の間に納得が生じます。難しい課題であるほど、国民の間には意見の相違があります。
首相は突然に指導力を見せることにではなく、国民に納得してもらうためにこそ、戦略を考える必要があります。中曽根行革では、「工程表」という言葉が使われました。

首相の役割は、政治課題を選び、解決していくことです。人を動かして、それを実現することが腕の見せ所です。政治力とは、人を動かすことです。
首相が打ち出す政策には、全体の目標と体系が必要です。各政策に工程表が必要なのと同様に、首相が目指す日本に向けての工程表が必要です。

コメントライナー寄稿第15回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第15回「日本型職場の功と罪」が12月14日に配信され、19日のiJAMPにも転載されました。

驚異の経済発展を遂げた日本。その職場は当時、世界が注目するところでした。しかしいまや、日本の労働者の時間あたり生産性は、経済協力開発機構加盟38か国の27位です。労働の質の面でも、二流になりました。この原因として産業構造の転換の遅れが挙げられますが、私は、職場慣行もあると考えています。

かつては効率的だった大部屋主義が、今では短所になってしまったのです。日本では、仕事が係に割り当てられ、社員は前任者からの引継書を見ながら、同僚の支援で仕事を進めます。これに対し諸外国では、仕事は各人に割り当てられ、職務記述書と執務要領で仕事をします。
「係員全員で助け合って仕事をする」職場は効率的でしたが、前例通りに仕事をこなせばよい時代が終わり、新しい仕事に対応しなければならなくなると、目標を与えられないままでは、社員はどちらに進んだらよいかわかりません。
そして、一人に一台パソコンが入り、職場はいつの間にか個人で仕事をするようになりました。大部屋ではなくなったのです。すると、誰が何をしていて何に困っているかわかりません。各人も、係全体の仕事がどのように進んでいるかを知ることができません。上司が、部下に指示を出し、部下の悩み答えなければなりません。しかし、管理職はそのような訓練を受けていません。

困難に直面しているのが、管理職です。係で仕事をする職場では、管理職は「部下に任せた」ですみました。管理職養成も先輩を見て覚えるもので、社員の中から優秀な者を管理職に抜擢していたので、管理職を育成する仕組みがなかったのです。
日本の職場の生産性を上げるためには、管理職に管理職の仕事をさせることと、管理職を意識的に養成することが必要です。