1月10日の朝日新聞オピニオン欄は、「共振する政治と民意」でした。
・・・いま、日本社会を様々な「不安」が覆っています。なぜ不安なのか、不安が何をもたらすのか。多様な角度から考えるシリーズを始めます。初回は「不安と政治」。不安が政治をどう動かし、政治にどう利用されているのかを、心理学や社会学の視点から探ります・・・
池田謙一・同志社大学教授の「統治に不信、いらだちは標的求め」から。
―日本政治を、人々の「統治の不安」という視点から読み解いていますね。
「『統治の不安』は、約60カ国を対象とした世界価値観調査から見えてきたものです。国が背負っている様々なリスク、具体的には戦争に巻き込まれる、テロが起きる、失業する、子どもが十分な教育を受けられない心配などについて聞くと、日本人は、客観的なデータに比べて不安の度合いがずっと高い。内戦の可能性まで心配しているという結果が出ています」
「この不安はどこから来るのか。政治学でいう『感情温度計』で、政党に対する『温かさ』を0度から100度までで答えてもらうと、日本ではどの政党の平均値も50度以下です。ポジティブな気持ちで選べる政党がない。さらに、『拒否政党』が多いのが特徴です。支持したくない政党はあるかと聞くと、与党から野党まで多くの政党が挙げられる。統治を担う政府や政党、公的機関が信頼できないという『統治の不安』が強くあり、政治に影響していると考えています」
―どう影響しているのでしょうか。
「典型的なのが、新型コロナ禍での社会心理です。15カ国のデータを比較すると、日本人のコロナへの恐怖感は目立って高く、政府の感染対策に対する評価がきわめて低かった。日本より桁違いに死亡率が高かったブラジルと同じくらい、政府への強い不満や不信感が見られました」
「政治不信は、『政治とカネ』のようなものが原因とよく言われますが、『統治の不安』はもっと漠然としたものです。ターゲットが定まっていないので、誰かが『敵は○○だ』とスケープゴートを作り出すと、我先に殺到する。最近では財務省解体デモや『外国人問題』が一例です」
―「統治の不安」に、社会としてどう対処すべきでしょうか。
「不安を利用しようとする政党や政治勢力のターゲット設定は、ほとんどの場合、明確な根拠がありません。メディアは、ファクトチェックなどでそこを指摘すべきです。ターゲットを作らせないのが重要です」
「また、政治に選択肢があって、自分の意思を託せる政党があれば、不安は軽減されるのではないかと考えています。今年から3年間にわたって、15カ国ほどで国際比較データをとって、この仮説を検証しようとしています」
―それで、「統治の不安」は解消されますか。
「究極的には、政治や政党、公的なものへの信頼を再建していくしかありません。1990年代の政治改革では二大政党制が目指されましたが、失敗だったと思う人が増えている。どんな制度なら政党政治への信頼が回復できるのかを考える時期かもしれません」
「政府が統治能力を示す必要もあります。日本は、政治の『成功体験』が長いことありません。国民全体がある程度認められるような成功体験があれば、政治や政党への信頼を高められるかもしれない。そうでないと、『統治の不安』が増幅して、政治がさらに不安定になるでしょう」