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地方行財政-地方行政

稲継裕昭先生「地方自治体の担い手不足の現状と打開策」

稲継裕昭・早稲田大学政治経済学術院教授が、2月26日に日本記者クラブで「地方自治体の担い手不足の現状と打開策」を話されました。ユーチューブで見ることができます。関係者は必見です。

公務員志望者の減少、若手退職者の増加、心の病の職員の増加・・・。自治体現場の変化を、数値と経験とで説明してくださいます。

この20年間の変化が急速なようです。若者が自治体を選ばなくなっています。若者の意識の変化と労働市場の拡大が、変化をもたらしています。国家公務員法と地方公務員法の縛り、給与体系、年功序列の昇進慣行が、時代に合わなくなっています。

私は、労働慣行が日本の「この国のかたち」をつくっている、労働慣行に「この国のかたち」が集約されていると説明しています。日本社会の変化が、ここに押し寄せています。

板垣勝彦著『行政手続きと自治体法務』

板垣勝彦著『行政手続きと自治体法務』(2024年、第一法規)を紹介します。
板垣先生は横浜国立大学教授であり、実務経験をも活かした、公務員に役に立つ著書や論文をたくさん書いておられます。市町村アカデミーでも、人気の講師です。

宣伝文には、「自治体における行政手続について、行政手続法や個別法・条例・判例など、法務の観点から解説。公正・透明な行政手続の実現のために注意すべきポイントや手続の改善方法等が理解できる」とあります。
自治体職員向けに、個別事例(自治体が敗訴した事例)も紹介して、実務で問題になる点を説明しています。
現場で役に立つ本です。

節約か銭失いか

先日、ある人から聞いた話です。わかりやすくするために、改変してあります。

建物が年月がたって、施設の改修が必要になりました。建物の3階と4階が対象です。1階ごとに工事をすると、それぞれ5千万円かかります。一度にすると1億円ではなく8千万円ですみます。足場を組んだりするので、別々に工事をするより一度にやる方が安くなります。
しかし予算査定では「経費削減」の号令の下、2年に分けて執行することになったそうです。

年度ごとに見るか、長期的、全体で見るかの違いです。

子育て支援、施設整備からきめ細かな支援へ

12月16日の日経新聞「データで読む地域再生」は「子育て支援 ソフト磨く」でした。
・・・少子化が加速するなか、子育て支援の充実で「選ばれるまち」をめざす自治体が広がる。保育施設などハード整備には一定のメドがつき、出産・子育て世帯の要望にきめ細かく応えるソフト施策を重視する動きが目立つ。日本経済新聞社と日経BPの情報サイト「日経xwoman」が主要都市のサービス内容などを調査・採点したところ、2023年は千葉県松戸市が2年ぶりにトップとなった・・・

・・・松戸市は妊産婦向け支援や保育の質など多くの項目で高得点だった。親子で遊んだり、専門知識のある職員と話したりできる「おやこDE広場」などの整備が代表的な取り組み。孤立しがちな妊産婦も気軽に訪れて様々な悩みを相談できる。駅周辺などに28カ所展開する。
保育所などを利用していない2歳未満の子どもがいる家庭や妊婦を対象に家事支援サービスも8月に始めた。ヘルパーが家庭を訪ねて家事などを支援すると同時に育児の相談にも応じる。児童1人につき年40時間を上限に1時間500円で利用できる・・・

詳しくは記事を読んでいただくとして。
困っている人への支援は、金銭支援、施設サービス、介助などの支援、話を聞くなどがあります。これまでは、金銭支援と施設サービスが主でした。これらは「定型的」な支援です。
そして、行政側からの「提供」とともに、困っている人の「声を聞いて対応する」ことが重要でしょう。すると、施設サービスだけでは対応できないことが見えてきます。
自治体が、国の決めた行政サービスを実施するだけでなく、住民の声を聞いて課題を拾い上げる。自治体の機能が発揮されているということです。

国と地方の関係、課題

12月25日の日経新聞経済教室は、砂原庸介・神戸大学教授の「国は国民と直接的関係築け 国と地方のあるべき関係」でした。
・・・1990年代後半の地方分権改革から20年以上がたつ。分権の実現度を巡る評価は分かれるかもしれないが、現在では地方のことは地方で決めるという、地方分権の考え方が広く受け入れられているといえよう。
他方で、2020年からのコロナ禍では、保健所を通じた感染症対策の場面をはじめ、給付金やワクチン接種など公共サービス提供なども含めて、地方分権の「行き過ぎ」のために中央政府が実現すべき施策が阻害されているという主張もみられた。地方自治体が独自性を発揮しようとすることが、中央政府の国レベルでの方針と齟齬を生むというのである・・・

詳しくは原文を読んでいただくとして。表題にあるように、中央政府が国民から離れてしまっていないかは、大きな問題です。
以下、とりあえずの私見を述べます。
1 分権改革以来約20年が経過し、課題は「さらなる分権」ではなく、自治体が得た権限をどのように運用するかです。
2 この20年でわかったことは、何でも分権すればよいものではないです。東日本大震災で、多くの人が理解したと思います。他方で公共事業の補助金と箇所付けなどを、まだ国が握っています。
3 国と地方自治体との「役割分担」という視点で、常に見直す必要があるのでしょう。特に、内政事務・国民や住民相手の仕事をどう分類するかです。国が統一的に処理する方がよい事務と自治体に任せたらよい事務の切り分けです。
4 その際には、自治体の「地域の総合行政主体」の機能をどのように発揮させるかが重要でしょう。
5 他方で、現場を持たなくなった中央政府に、どのようにして国民との関係を持たせるかが課題になっています。連載「公共を創る」でも指摘しましたが、現場経験がない官僚にどのように現場をわからせるかという課題です。