「仕事の仕方」カテゴリーアーカイブ

生き様-仕事の仕方

昇進すると見えてくるもの

10月27日日経新聞夕刊「私のリーダー論」、村木厚子・元厚生労働事務次官の「リーダーに求められる「聞く力・伝える力」」から。

「私も自分はポストに追いついていないと感じていました。係長になったときは今ならいい係員になれる、課長補佐に昇進したときは今だったらいい係長になれるのにと思いました。ポストによって、見えてくるものが違うからです。昇進は階段を上るのに似ています。下にいたら背伸びしたり、ジャンプしたりしないと見えないものが自然と見えてくるようになるのです」

「少し力が足りないと思っても、そのポストに就いたからこそ力がつくことがある。私は他人と競うのは得意でないのですが、自分の成長という物差しであれば、それを励みに頑張れると思いました。そうして手応えをつかみ、ようやく自信がついてきたのは40代になってからでした」

社員獲得、世界との競争

10月19日の日経新聞に「GAFA予備校 NTTが返上へ」が載っていました。
・・・約30万人の従業員を抱える日本最大級の会社、NTTが攻めの働き方・人事改革に取り組んでいる。飛行機通勤を含むリモートワークを認め、年功序列を廃止して20代でも管理職に就けるようにする。米グーグルなど巨大IT「GAFA」への人材流出が続き、存在感低下は日本経済の低迷と重なる。人事に精通した島田明社長の下で、グローバルでの復権に向けた土台作りを急ぐ・・・

NTTで技術者としての基礎を学んだ後に、GAFAに代表される海外IT大手に転職していく社員が多いのだそうです。それを「GAFA予備校」と揶揄されるています。1990年代に入りバブルが崩壊するまで、NTTの時価総額は世界一でしたが、今は120位に沈み、グーグルの親会社アルファベットの時価総額の13分の1になっています。
通信の主役が電話からインターネットに代わり、通信ではなくアプリやクラウドサービスが価値を生み出すようになりました。
人材の流出は、その変化を表しています。ただし、最初から海外IT企業に就職するのではなく、NTTを「予備校」として転職するのは、最初からそれを狙っているのか、途中で見切りをつけるのかのどちらかでしょう。

記事では「公社時代から続く保守的な社風は「官僚以上に官僚的な組織」(業界関係者)とも言われる。安定志向の強いグループ30万人を擁する巨大組織を変えるのは容易ではない」と指摘されています。
若手の転職が続く霞が関も、同じ課題があります。違いは、NTTは社長以下が危機感を持って対応しようとしていることと、それに失敗すると会社がつぶれることです。それに対し、霞が関では危機感はあるようですが、統一的対応はされているように見えず、倒産する恐れもありません。

定時に退社すると批判された。変えてやる

10月5日の日経新聞「私の課長時代」は、渋谷直樹・NTT東日本社長でした。

・・・民営化1期生で、あらゆる仕事に前例がありませんでした。会社の転換期に新しいプロジェクトを任せてもらい、育てられた自覚があります。その経験から、人材育成では部下を信頼し、仕事を任せることを強く意識しました。部下の提案にはとにかく全部、「ええやん。やってみよう」と。課長時代の送別会で色紙をもらった際、部下の間で「ええやん課長」と呼ばれていたことに気づきました。

この考えには原点があります。入社して間もない頃、業務効率にこだわり、集中して仕事をこなして定時に退社していました。すると、上司から「君はいつも早く帰るね」と批判され、全く評価されずにショックでした。当時、上司はまず部下にダメ出しをする組織風土があり、「自分が変えてやる」と誓いました。

誰でも意見を言いやすい前向きな空気感があると、新しいアイデアが生まれやすいです。「予算や人手が足りない」「前例がない」など、できない理由を考えるより、部下にはクリエーティブな人材になってほしいと願ってきました。
社長になってもキャッチフレーズは「ええやん」です。課長時代はリーダーの原点で、成長のチャンス。今は課長になりたくない人も多いと思いますが、固定観念にとらわれる必要は全くありません。ぐいぐい引っ張るだけでなく、肩の力を抜き、部下の潜在力をどんどん引き出すリーダーも良いと思います・・・

村田製作所「当社には一人でできる仕事はほとんどありません」

9月20日の読売新聞LEADERSは、中島規巨・村田製作所社長の「電子部品 こだわりの一貫生産」でした。
「世界の製造業は「垂直統合」ではなく、他社の製品を調達してモノを作る「水平分業」が主流になっている」ことに関して。

・・・垂直統合にはこだわります。独自性のある部品を設計し、品質改善を進めながら量産し、コストを下げていく地道なモノ作りの努力が当社を支えています。
「ジョブ型雇用の時代」と言われますが、当社には一人でできる仕事はほとんどありません。多様なスキルを持つ多くの人がチームとして仕事をしており、帰属意識や一体感が強い会社です。チームの力を高めていけば、投資額が大きくなる垂直統合のデメリット以上の恩恵があります。

こうした組織には、基軸となるフィロソフィー(哲学)のようなものが求められます。豊かな社会の実現に貢献し、会社を発展させるという社是や「誰も作っていないものを作ろう」という経営理念は、今も共有されています。古くさい経営と言われても、これからも全うしていきたい・・・

菊澤研宗著『組織の不合理ー日本軍の失敗に学ぶ』

夏に、野中郁次郎著『『失敗の本質』を語る なぜ戦史に学ぶのか』を読んでいたら、積ん読の山から、菊澤研宗著『組織の不合理ー日本軍の失敗に学ぶ』(2017年、中公文庫)が出てきたので、合わせて読みました。この本は、2001年に単行本として出ています。

この本も、日本軍の失敗を経営学から分析した本です。『失敗の本質』など多くの分析は、「合理的なアメリカ軍に対して、非合理的な日本軍」という構図で説明します。しかしこの本は、日本軍幹部の判断はそれぞれの立場で「合理的」であったという視点に立ちます。
分析手法として、新制度派経済学を使い、取引コスト理論、エージェンシー理論、所有権理論を使って、日本軍の不条理な判断がそれぞれの立場では合理的であったと分析します。主流の経済学は、人間が合理的に判断することを前提としますが、実際には人間は完全な合理的な動物ではありません。詳しくは本を読んでいただくとして。

文庫本のまえがきに、組織の不条理が3つ整理されて示されています。
1 個別合理性と全体合理性が一致しない場合。個々人や個別組織が全体合理性を無視して、個別合理性を追求し、全体が非効率になって失敗する。
2 効率と倫理が一致しない場合。個々人や個別組織が倫理より効率性を追求し、結果として不正となって失敗する。
3 短期的帰結と長期的帰結が一致しない場合。個々人や個別組織が長期的帰結を無視して短期的帰結を追求し、長期的には失敗する。

この指摘には、納得します。私も実例を見てきました。この失敗に陥らない方法は、「この判断は、10年後や20年後に評価されるか。問われた場合に、胸を張って説明できるか」です。「閻魔様の前で胸を張れるか