7月31日の日経新聞「基軸なき世界 プラザ合意40年 激変 外為市場㊦」は「変わる「通貨マフィア」の人脈 内輪の議論から多極間の交渉舞台へ」でした。
・・・米東部時間22日午後、米ホワイトハウスの大統領執務室。日本側は政府系金融機関を通じて4000億ドル(約58兆円)の投資支援の枠を設けると提案した。より巨額の投資を求めてきたトランプ大統領を前に、その場で支援の額を最大5500億ドル(約80兆円)に増やすことで合意した。
急転直下の合意にこぎ着けた立役者の一人が、財務省で国際業務を担当する三村淳財務官だ。「トランプ氏を納得させるためにはぎりぎりどこまで増額が可能なのか、三村氏がその場にいたからすぐに判断できた」。財務省幹部はこう語る。
省庁の次官級ポストでもある財務官の主業務は通貨政策で、通商分野での交渉は本来は担当外だ。だが、三村氏は日米関税交渉における事務方の中核の一人として、交渉役の赤沢亮正経済財政・再生相を支えた。合意までの渡米回数は8回。20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議など山積するほかの会議の合間をぬって、最後は食事を取る時間もままならない状況で交渉の詰めの作業に奔走した・・・
・・・金融市場の歴史的な転換点で、これまでも交渉や調整の最前線を担ってきた財務官。米国の財務長官や主要国の通貨当局の責任者らとかつては秘密裏に為替相場や通貨政策について議論していた名残から、「通貨マフィア」ともしばしば称される。
通貨マフィアたちが台頭したのは1970年代前半、米国の威信が揺らぎ、主要通貨が対ドル固定相場制から変動相場制に移ったころだ。石油ショックが起こり、インフレと経済不況に対応するために、主要国が討論する場として、米国、英国、フランス、西ドイツ、日本による「G5(主要5カ国)」の財務相らが集まった。為替変動の荒波のなかで、各国の通貨当局トップも頻繁に顔を合わせるようになった・・・
・・・だが、民主主義などの価値観を共有する内輪の集まりだった通貨マフィアたちの会合は、市場のグローバル化や新興国の台頭で急速に変貌した。97年のアジア通貨危機をきっかけに、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓のASEANプラス3の枠組みができ、99年にはG20財務相・中央銀行総裁会議が始まった。
2015年7月から過去最長となる4年間財務官を務めた浅川雅嗣氏は、「国際会議も増え、主要7カ国(G7)のように基本的な価値観を必ずしも共有していない国とのやりとりも増えた」と語る。為替市場へのインパクトはより見えにくくなった。
複雑化する市場との対話を円滑にするために問われたのが人脈の多様さだ。一例が2015年夏、突如起きた中国人民元の下落。「何が起きたのか」。中国人民銀行(中央銀行)からの公表もないなかで、浅川氏は日ごろから懇意にしていた中国財務当局や人民銀行の担当者に接触をはかり、人民元の切り下げを把握した。国際通貨基金(IMF)との議論も経て、多方面の情報から中国が人民元を国際的な主要通貨にしたいという意図を読み解いていった。
2022年、24年ぶりの円買い介入に踏み切り、国内外から注目を集めた前財務官の神田真人氏が注力したのも、市場の人脈の洗い出しと拡大だ。約1年かけて、海外の主要中銀・財務省の幹部やエコノミストらとの報告ラインを見直したほか、分散型金融(DeFi)経由で取引するプレーヤーなどとも関係を構築し、為替介入に備えた。
「市場は全く違うものになった。それに向けて通貨当局も常にアップデートする必要がある」と神田氏は当時語った・・・
1年や2年で交代する霞ヶ関幹部にあって、財務官は長く座ることが多い珍しい職です。人脈がものを言う、それも国内でなく国際金融の世界だからでしょう。
指導者論や管理職論で、組織内部の管理や指導が取り上げられますが、それと同様に重要なのが渉外です。いえ、内部管理は部下に任せることもできますが、外部との交渉は幹部でしかできないのです。そして、力量を発揮できるのが交渉ごとです。
それは、首相についても言えます。内政は官房長官や各大臣に任せることができますが、外交は首相が出かけなければなりません。