5月29日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」は、長谷川隆代・SWCC会長の「暗黙の了解」に挑み続ける」でした。
・・・非鉄業界で初の女性社長を2018年から7年間務め、4月に会長となったSWCC(旧昭和電線ホールディングス)の長谷川隆代さん(65)。社長就任前、同社は90億円の最終赤字を出すなど苦境が続いていたが、経営の効率化を図ると業績が向上し24年度は過去最高益に。事なかれ主義だった社内で改革を断行できた背景には「正しいと思うことを言い続ける」という信念がある。
――社外取締役からの推薦で社長になりました。常務など他の上席役員を飛び越しての抜てきでしたが、なぜ白羽の矢が立ったのですか。
「13年に役員になってから、末席で取締役会に出席して経営に携わっていました。誰も反論しない決議事項に自分なりの論を述べ続けたことが、社外取締役から評価されたのだと思います」
「取締役会の出席者は私以外全員男性。『根回しが済んでいるので会議では発言しない』という暗黙の了解がありました。私は違和感があれば質問や異論を述べました」
「他の出席者からは白い目で見られていたと思います。そもそも可決が前提の審議なので、意見を伝えても『参考にします』と言われるだけ。それでも5年間、めげずに声を上げ続けました。部門の代表としてその場にいるのだから、発言こそが価値だと考えていました」
―どこに問題意識を持っていましたか。
「会社全体に広がっていた、事なかれ主義の意識です。電線を手掛けるインフラ企業なので、よほどのことがない限り会社は潰れず、危機感を持たずに働けます。ただ、変化のスピードが速い社会での現状維持は退化になります」
「役員の頃、営業利益目標が90億円の年がありました。理由を尋ねると『90周年だから』といいます。非効率な経営体制と低い利益率を変えたいと思いました」
―変化を起こすために何から始めましたか。
「不採算事業を整理するという課題を解決するため、各役員に事業再編案を考えてもらうことから始めました。数日後、ある役員からできない理由が3〜4ページのリポートになって出てきました。抜本的には事業を見直さず、利益を増やすための提案がつづられていました。赤字でないのになぜ問題視するのかと、不満がにじんでいました」
「当たり前ですよね。どんな役員でも、担当する事業をどうにかして生かしたいと思うはずです。私が感覚的に問題だと話してもわかってもらえない。どう説明すべきかを悩みながら経営の本を読みあさりました」
「投資に対して効率的に利益が出ているかを示すROIC(投下資本利益率)という指標に出会いました。この指標を使うと、なんとなく続けていた不採算事業が浮き彫りになりました。国内生産拠点の再編と不採算事業からの撤退をして、担当社員の異動や再就職の支援をしました」
―リーダーは立場ではなく役割と説いていますね。
「役割は自ら見極めるものです。私の場合は、会社を変えることでした。社長という役割に徹して、最後には責任を取ります」
「リーダーシップの形はリスク時と平時で変えています。災害や危機対応といったリスク時にはある程度トップダウンで決めます。普段は全員の意見を聞いて進めます」・・・