カテゴリーアーカイブ:政治の役割

国会による行政の監視

2018年12月18日   岡本全勝

12月17日の朝日新聞、国分高史・編集委員の「国会空洞化、「新たな専制」へ道」に、興味深い指摘があります。通常、法律で基本的な事項を定め、詳細は政省令に委ねることが多いです。しかし、単純に政省令に委ねるのではなく、国会がそれを監視するのです。

・・・法で大枠を定め、詳細は政府が定める政省令に委ねる政策が増えているのは各国に共通の傾向だ。ただ、欧米では議会が政省令を審査し、不適切と判断すれば拒否できる制度がある。一般に「議会拒否権」と呼ばれている・・・

・・・この制度に詳しい田中祥貴・桃山学院大教授(憲法)によると、その仕組みや経緯は次のようなものだ。
例えば、改正入管法には外国人労働者の受け入れ業種などを含め「法務省令で定める」との記述が約30カ所もある。議会拒否権制度のもとでは、法の根幹にかかわる政省令を発効させるには議会の承認が必要だとあらかじめ条文に書き込んでおく。重要度が低い政省令は、一定期間内に議会が否決しなければ自動的に発効を認める。

なぜこんな制度があるのか。英国では20世紀初頭から政府が定める政省令が急激に増加。これに伴う政府の権限拡大は議会制民主主義を形骸化させ、政府による「新たな専制」につながりかねないとの警戒感が議会に強まった。議会がこれを克服する工夫を重ね、第2次大戦後に制度として確立したという。

「改正法の関連省令を国会で審査するのは一歩前進だ。ただ、日本社会のありようや外国人労働者の人権にかかわる重要法であることを考えれば、省令を成立・発効させるには国会承認を要件とするなど、もう一歩踏み込むべきだった」と田中教授は話す・・・

『公卿会議』

2018年12月16日   岡本全勝

美川圭著『公卿会議―論戦する宮廷貴族たち』(2018年、中公新書)を読みました。平安貴族たちが、どのように議論をし、国政を動かしていたかです。

天皇制、律令国家の時代です。建前は律令に従い、天皇が決裁します。三権が分立していませんから、立法・行政・司法のすべてを所管します。もちろん重要な案件は、徴税であり、治安であり、貴族たちの昇任です。
しかし、日本の天皇制は多くの場合、天皇独裁ではなく、その部下たちがおおむね決めて、天皇が裁可します。法皇が権力を持つ場合もあります。
すると、その部下たちと天皇との力関係、さらには部下の中での権力の所在が問題になります。摂政・関白が大きな力を持つのか、この本で取り上げられた公卿会議が機能するのか。そして、武家が入ってきます。

その力関係の変化が、解説されています。千年も前の資料が、よく残っていたものです。欲を言えば、具体の会議の内容を知りたかったです。ある案件を取り上げて、どのように会議が進められたかです。もっとも、資料の制約があります。

誰が、何を、どのようにして、決めているか。これは、政治学や歴史学の大きなテーマです。
現在の日本では、日本国憲法に従い、国会が国権の最高機関です。しかし、国会議事録を読んでも、実際の政策の決定過程はわかりません。また、閣議が内閣の決定の場ですが、この記録を見ても、現実の政策決定過程はわかりません。
会議の多くも、そうでしょう。議事録を見ても、誰がその課題を議題に載せたか、事前にどのような調整がされたのか、誰の意見が通ったのかは、わからないのです。会議に載らなかった重要案件も、大きな意味をもちます。
制度と運営の実態は、別物です。

倒産防止かゾンビ企業延命策か

2018年12月11日   岡本全勝

12月9日の朝日新聞連載「平成経済 リーマンの衝撃12」「大変革迫られた中小企業」から。

・・・政府は中小の倒産を防ぐために、手厚い政策をとった。その一つが、2009年に施行した中小や住宅ローン利用者の借金の返済猶予を促す「中小企業金融円滑化法」だ。中小からの求めがあれば、貸し付け条件の変更に応じるよう金融機関に求めた。13年までの間、約30万~40万社が貸し付け条件の変更などをしたとされ、全国の中小の約1割にあたる。

「運転資金としてお金を借りるのは初めての経験。『禁断の実』に手をつける気持ちやった」。工作機械や航空機部品をつくる「大阪工作所」(東大阪市)の高田克己会長(74)は振り返る。1億5千万円の機械を購入できるほど業績は安定していたが、リーマン後は赤字続きで、金融機関から約1億円を借り入れた。「国に助けてもらえなければ、消えていたかもしれない」。新入社員の採用を再開するなど、経営は軌道にのりつつある。

08~09年に1万5千件を超えた倒産件数は、17年には8400件まで減った。円滑化法の効果があったとされる一方で、政府が技術力もない中小を延命させたという「ゾンビ企業」批判もつきまとった。
関西の中小企業団体幹部は「企業数が温存され、業界によっては消耗戦が続く。力のある企業の競争力を奪っており、ゾンビ企業が残った弊害だ」と指摘する・・・

難しいところです。各種の政策には、副作用もあります。それは、薬も同じです。その際に、どれだけ副作用を小さくするかが、課題になります。
また、緊急時は、副作用を知りつつ、強行する必要がある場合もあります。しかし、平時になっても、緊急時と同じことをしていると、批判が出ます。
アダム・スミスの時代のように、経済や産業に国家が介入しない時代なら、こんな問題は生じなかったのですが。国家と経済の関係、国がどこまで介入するかは、永遠の課題です。

税金を逃れる国民

2018年12月7日   岡本全勝

日経新聞12月5日のオピニオン欄、The Economistの翻訳「中国、所得課税強化の皮算用」から。
「「もちろん払っていませんよ。私はバカじゃありませんから」。個人所得税を納めたことがあるかと聞かれて、北京の運転手リュウ・ヨンリ氏(仮名)はこう答えた。同氏の所得は納税が免除される水準を大きく超えているが、税逃れをしていてもとがめられたことはない、としゃあしゃあと語った」という書き出しです。

・・・中国の昨年の全税収に占める個人所得税収は、わずか8%にとどまった。彼のような強い思い込みをしている人が少なくないことがその一因かもしれない。ちなみに一定規模の経済国家のグループである経済協力開発機構(OECD)加盟国における個人所得税収の全税収に占める比率の平均は24%だ。

中国財政省の推計では、個人所得税を納めるべき国民は1億8700万人に上る。だが2015年に実際に個人所得税を納めたのは2800万人と全人口の2%にすぎないと財政省のある元職員は言う。中国政府は現在、中国共産党機関紙「人民日報」によれば歴史的に「最も抜本的」な個人所得税改革を進めている。だが、その抜本改革は理論的には税収基盤を拡大するのではなく、縮小するものだ。

10月1日から所得税の課税最低限を月収3500元(約5万7000円)から5000元に引き上げたのだ。この結果、財政省は課税対象者が6400万人に減ると見込んでいる。その一方で、財政省は、納税義務が生じる国民には確実に納税させる決意を固めているようだ。政府のこの方針転換は、政治的に極めて大きな意味を持つ可能性がある・・・

膨大な赤字財政の責任

2018年11月21日   岡本全勝

11月21日の日経新聞、坂口幸裕記者の「財制審、消費増税の必要性訴え」から。

・・・財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は20日にまとめた2019年度予算への提言で、19年10月に確実に消費税率を10%に引き上げるべきだと訴えた。増税対策に万全を期す必要性を訴えつつ、将来の財政膨張にクギを刺した。一方、財政が悪化した平成の30年間を「受益の拡大と負担の軽減・先送りを求める圧力にあらがえなかった時代」と総括。財制審には悔悟と無力感が漂う。
「税財政運営にかかわったもの全てに責任がある」。財制審の榊原定征会長(前経団連会長)は20日、提言した後の記者会見で、財政再建が遠のく現状に無念さをにじませた。「警鐘を鳴らし続けながらも、このような財政状態に至ってしまったことは反省しなければならない」とも語った・・・

・・・借金以外に財源の裏付けがないのに歳出が積み上がる財政構造になって久しい。1989年に始まった平成は国の借金が膨れあがった30年間だった。90年度に大蔵省(現財務省)の悲願だった「赤字国債発行からの脱却」をいったん実現したが、わずか4年で終わった。国の借金はいま900兆円の目前だ・・・

財政制度等審議会の提言はこちら