日本の雇用、労働法制の問題点を勉強するべく、八代尚宏著「雇用改革の時代-働き方はどう変わるか」(中公新書、1999年)を読みました。勉強になりました。私は労働関係の専門家でないので、先生の指摘がすべて正しいかどうかは分かりません。しかし、日本が労働関係の面でも、これまで発展途上国・高度成長期に適合した仕組みが、成熟国・低成長期に足かせになっていることについて、目から鱗が落ちました。
今の労働法制が、結果として企業の正社員優遇となっていて、それ以外の働き方、特にパート・派遣・女性・中途採用・転職者に不利になっていることは、ここでも何回か指摘しました。
これまでの日本の労働法制は、過去の雇用形態・社会意識を背景にしたものでした。それは、未熟練労働者があぶれていて、その「弱者」を守ってやらなければならない社会、労働者は大企業で一生働き昇進することを望み、妻は家庭を守るのでそれを養うだけの給与をもらうことが理想とされた時代の産物でした。そして、それはうまくかみ合ったのでした。もちろん、この理想型に乗らない人も多かったのですが、みんないつかはそうなるとあこがれて努力したのです。
長期不況と言うより低成長に入って、正社員以外の働き方が増えてきたこと、すると日本の雇用は非正社員にはとても冷たいことが見えてきたのです。また、会社は永遠のものでなく倒産することもあること、すると年功序列と退職金を期待していては損をすることがあること、また中途採用者に冷たいことが見えてきたのです。
これまでの日本型社会は、「ムラ社会」と呼ばれます。それは、身内には優しく、外部の人(よそもん)には冷たいという性格を持っていました。またその構成員は、戸主であって婦女子は正メンバーではありません。大企業の終身雇用を理想とする雇用形態も、これですね。
(諸制度のビッグバン)
このように日本が成熟国・低成長期になったことに従い、これまで適合的だった諸制度が大きく改革を迫られています。経済で見ると、国内で威張っていた会社も、国際的に生き残れるか試練に立たされています。それに勝ち残った会社だけが、生き残るのでしょう(実は国際的な企業は、日本人には日本型給与制度を適用し、外国人にはそうでない給与制度を適用しているのです)。経済界に君臨していた銀行はいくつも倒産し、生き残ったものは大再編を経験し、さらに新しい金融モデルを模索しています。
公共の面でも、例えば司法制度が、大改革を進めつつあります。介護保険を導入し、年金制度も大改正を迫られています。市町村は大合併を行い、公共事業を大幅に削減し、また事務を民間へ大胆に委託を始めました。もう右肩上がりではないのです。
後世、この前後20年は、大変革の時代と評価されるでしょう。その方向は、これまで官と民が仕切られた業界ごとに拡大と保護を目指したのに対し、新しい時代は海外との競争で仕切りが低くなり、業界ではなく顧客・国民を相手にしなければなりません。また、画一大量でなく多様な要求に答えなければならず、拡大ではなく維持と質の勝負です。
国内の仕切られた競争・成長の時代から、仕切りの低い質の競争への転換です。「ビッグバンの時代」と言って良いでしょう。この変化を先取りし改革したものが、勝ち残り、あるいは国民に評価されるでしょう。過去の成功にとらわれていると、傷口を広げ、国民の負担を増やすのです。その象徴は財政で、公共事業拡大と国債増発でした。行政分野では、ここで取り上げた労働法制以外では、教育・農業などが心配です。そして、公務員制度、霞ヶ関も転換に遅れています。