岡本全勝 のすべての投稿

三位一体改革15

日々の三位一体改革
【躍り出た知事会】
最近の新聞の記事は、知事会が中心です。19日の日本経済新聞は、「知事会夏の陣」という見出しで、「結論先送り、合意点探る」でした。20日の東京新聞は、ずばり「闘う知事会」「補助金改革リストで主導権」「財源大幅削減怒りバネに結束」です。「国には判断能力がない」とも。
これほど、知事会や地方団体が政治の一面に躍り出たのは、初めてでしょう。優先順位をつけることができない官僚組織に対し、知事会が日本国の意思決定をするチャンスを得たのです。
国は、今月末に予算のシーリングを決めます。でも、それは「枠」でしかなく、地方団体の方が、実質を決めるということです。(7月20日)
【日本の行政の在り方の再検討】
22日付け読売新聞には、伊藤裕記者による解説「補助金削減」が載っていました。「地方自治体による補助金削減案の取りまとめが、中央省庁の抵抗と地方の足並みの乱れで難航している」というものです。「これまで『お願い知事会』だったので、現状では、国と対等に協議するだけの体制が整っていない」との指摘もあります。
しかし、「補助金は地方の個性を失わせ、各省縦割りの弊害の方が目立つ。補助金の見直しは、戦後日本の行政の在り方を再検討する意味がある」とハッパをかけています。そして、「小泉総理自身が、何のために今、この改革が必要なのかを、改めて国民に説明する必要があるだろう」と主張しています。(7月22日)
【補助金改革は制度改革と一体で】
23日付朝日新聞朝刊は、大きく、新藤宗幸千葉大教授と古川康佐賀県知事の対談「分権どうする、どうなる」でした。司会は、坪井ゆづる論説委員です。
「補助金の一部が一般財源化されても、霞が関は痛くもかゆくもない。制度改革案と一体で提案しなくちゃ」「義務教育を一般財源化・・と同時に、教育委員会をなくす」
「地方団体に国政参加の機会を設けようと、11年前に地方自治法を改正したのです。だから知事会はもはや単なる任意団体ではない。まともな意見を出したら、内閣はそれを法案化する政治責任が生じるし・・」などなど。
【史上初の霞が関パッシング(素通り)の予算編成】
日本経済新聞夕刊には、「ニュースなるほど」に「補助金削減リスト難航」という題で、中西晴史編集委員の解説が載っていました。
地方団体、正確には知事会の補助金削減案づくりの混乱振りを紹介した後、「全知事が、3兆円削減の優先順位をつけた案を示したらどうだろう」という提言です。そして、次のような指摘もあります。
「省益や権限保持の呪縛から逃れられない官僚たちが、補助金廃止の優先順位をつけるのは不可能だ。『史上初の霞が関パッシング(素通り)の予算編成』の幕が一部ながら開こうとしている意義を、知事たちは忘れてはなるまい」。
(7月23日)
【麻生大臣:中央集権、縦割り省庁では、優先順位はつけられない】
少し古くなりましたが、15日の全国知事会議での、麻生大臣の挨拶をもう少し詳しく紹介します。週刊「自治日報」7月23日号によります。そこには、知事のやり取りも載っています。
「本来、補助金削減は国が決めるべきだとの意見もあるが、時代は変わっている。・・補助金は、補助金を出している中央省庁の縦割り行政の中において、自分の地位、権力を維持するために必要な手段だ。それが必要か必要でないか、みなさんの方がよくご存じだから、・・決めるのはみなさんだというのが基本だと思う。」
「中央集権では、補助金が強力な武器であり、省庁縦割りでは、補助金廃止の優先順位をつけるのは難しい。その点で、知事会の力が問われている。ボールは総理の方から投げられている。地域主権、地方分権、地方自治などをすすめていく上で千載一遇のチャンスだ。ぜひ、取りまとめていただきたい。」(7月24日)
【小泉総理の発想:もっと出せ】
27日の閣議で、次のようなやり取りがあったそうです(28日付け朝日新聞など)。
金子大臣:地域再生のために補助金を統合簡素化して、自治体が使いやすくする。交付金にする。
麻生大臣:補助金統合は、補助金の温存に利用される懸念がある。
小泉総理:補助金廃止は、3兆円にとどまる必要はない。20兆円でもいい。中央官庁は、自らの権限を維持しようとして、地方への移譲を渋る動きも多い。それじゃあ、いけないんだ。自分の思想、考え方は、できるだけ仕事は地方にやってもらうということなんだ。
記者会見での細田官房長官の発言
総理は、「できるだけ仕事は地方にやってもらうんだ」ということを、強く発言しておられました。「20兆円でもいい」なんておっしゃっていましたけどね。まあ、それは勢いで言われたんでしょう。
心強いですね。総理は、「ぶれて」おられません。
ある人曰く、親父に「3万円分、買いたい本のリストを出せ」といわれた学生が、3万円分出しますか。私なら、親父に「本当はもっと買いたいんだけど、とりあえず」と言って、6万円分要求しますよ。(7月27日、28日)

世間の考え

毎日、新聞記者さんを始め、いろんな人が電話やメールをくださり、訪ねてきてくださいます。「喫茶全勝」と「岡本電話相談室」は、おおはやりです。全てにお相手するのは、結構大変なのですが、すごい「市場調査」になります。岡本の主張に「あれはいい」「わかりやすい」と言ってくださる人、「おまえの意見には賛成だけど、官僚がそこまで言っていいのか」と心配してくださる方、「あの点は反対だ」と異論を述べてくださる方。それぞれ、ありがたいです。
「各省の官僚が『ご進講』と称して(補助金存続の)説明に来るよ」とか、「この間、会った市の職員はぼやいていたよ」「生活保護は・・」「義務教育は・・」なども、とても参考になります。お話を聞くことと、こちらから説明することで、私自身の勉強・頭の整理になります。

時代遅れ

今日(20日)の朝日新聞夕刊東京版は、財務省の仮眠室「ホテルオークラ」が書かれていました。家に帰る時間を惜しんで、職員が仮眠するための部屋です。かつては、「エリート公務員記事」の定番でした。
よかったですね、残業がそれだけで価値だった時代は。「昔、貧乏な日本では、官僚も徹夜して・・」と、プロジェクトXの世界でしょうか。
しかし、残業時間を誇る時代は過ぎたと思います。それによって「どれだけ良い成果」が出たかを評価すべきでしょう。成果(アウトカム)を測定せず、残業時間(インプット)を自慢する。官僚のもっとも悪いことの一つです。
久しぶりにこんな記事がでて、びっくりしました。新聞はこんな記事を、いつまで書くんですかね。
私も、家に帰らず職場で仕事した、あるいは泊まり込んだことについては、人後に落ちないと思っています。1週間自治省ビルを出ず、2週間家に帰らず・・の記録を持っています。でも、今にして思えば・・・。

進む副業、なくなる自由時間

みなさん、3連休はいかがお過ごしだったでしょうか。災害に遭われた方は、避難や後片づけで大変だったと思います。お見舞い申し上げます。総務課は防災担当なので、職員は交代制で出勤です。私は、家で連絡を受けることですみますが(担当職員諸君、ありがとう)。
私は、「進む三位一体改革ーその評価と課題」の原稿書きでした。まとまった時間がとれたので、結構はかどりました。もっとも、他のことができない、ということですが。書きたいことがあって、どんどん増えています。「下」は、今年の進み具合とこれからの課題です。残る2年間だけでなく、その次の予測も書いてあります。そしてそれが、政治的にどのような意味を持つのかも。乞うご期待。

三位一体改革14

日々の三位一体改革続き
【政治過程における対等関係】
13日の日本経済新聞「経済教室」は、新藤宗幸千葉大教授の「道州制、まず広域連合で」でした。そこでも触れられていますが、道州制や市町村合併は、分権の「受け皿論」と呼ばれています。三位一体改革は、私の位置づけでは「第2次分権」です。そして、この次に「第3次分権」として規制の分権があります。それと合わせて、受け皿論が出てくるでしょう。
また、先生の論文では、道州制の試みとして北海道が取り上げられています。「北海道の構想力いかんによって、自治体主導の地方制度改革に重要な一石となり、政治もまた構想の具体化を図らざるをえなくなる」
そうです、3兆円の廃止補助金を地方団体に選んでもらう「骨太の方針2004」と同じように、今や国と地方は政治過程においても、上下から対等の関係になったのです(これは、第1次分権改革の想定していなかったことでしょうが)。そうなると、地方団体は単なるスローガンや要望だけでなく、自らどのような責任を引き受けるか、覚悟が試されています。(7月14日)
【給与の半額と教育の質】
14日の読売新聞朝刊には、青山彰久記者の解説「国の義務教育費負担」が載っていました。見出しは「廃止の是非、知事会で議論へ 教育の質向上へ包括的改革を」でした。
なぜ今回、義務教育負担金が廃止議論の対象になるのかが述べられています。さらに、「既得権を守る論争、権限争いに終止してはならない」ことを指摘しています。
特に次の主張が、重要です。「そもそも、教職員給与の半額を国が持つだけで、義務教育の質が維持できる訳でもない」。そうです、教育の議論を、職員の給料(しかも金額論争ですらなく、国が負担金で出すかどうか)の議論に矮小化してはいけません。
そして、「まずこの国庫負担金を税源移譲の対象にすることだ。・・都道府県の権限は、極力市町村に下ろす包括的な方向へ議論を進める必要がある。」と主張しています。
これだけはっきりした主張は、わかりやすいです。新聞の解説には、往々にして「・・は問題である。・・も問題である。みんなでよく考えなければならない」といった、結論のわからない記事も多いです。それに比べ、何とわかりやすいのでしょう。しかも、全国知事会で議論をする前日にです。ありがとうございます。(7月15日)
全国知事会議
(議論はまだまだ必要)
15日には全国知事会議が開かれ、補助金削減案づくりの議論をしました。席上、麻生大臣は「地方分権の千載一遇のチャンス。知事会の気概が問われている」とハッパをかけました(産経新聞など)。
新聞各紙が報道しているように、知事さんの間では、いろんな意見があって、まだまとまっていません。私も、そう簡単にまとまる話ではないと思います。「岡本は、三位一体改革の旗を振っていながら、無責任な」との批判を受けそうですが。
これは、霞ヶ関の役人でもまとまらない問題、経済諮問会議でもまとまらない問題、政治家でもまとまらない問題なのです。そして地方団体も、これまで「補助金廃止」というスローガンは唱えていましたが、具体的な議論は去年始まったばかりです。
また知事会は、これまでそのような難しいことを決めた経験がありません。多数決で決める、といったことをしたことがないのです。
これから十分議論をして、何が国の責任なのか、どこまでを地方が引き受けるのかを明らかにしてほしいです。でも、「一人でも反対があるなら進めない」というようでは、改革は進みませんわなあ。
(政治過程の変貌)
2000年の第1次分権改革で、国と地方は「上下」の関係から「対等」の関係になりました。それは機関委任事務制度廃止でした。今回、「補助金削減案を地方がつくる=国の予算を地方団体に決めてもらう」ということになりました。国の政治過程に、地方団体が正式に参加することになったのです。
分権改革でも想定していなかった、国の意思決定過程において、「国と地方が対等に」なったのです。第1次分権改革は、事務の執行過程における制度的改革でした。それに対し、今回は意思決定過程での変化、というか意図せざる改革です。そういう意味でも、今回の三位一体改革は、意義深いものです。
学者も、官僚も、政治家も想定していなかった、「日本の政治構造の改革」が進んでいるのです。月刊「地方財務」8月末号に、こういう分析も載せる予定です。(7月16日)
今回の地方団体による廃止補助金案決定が日本の政治に持つ意味については、日本の政治3も参照してください。