エマニュエル・トッドさん。大震災の位置づけ

2月24日の読売新聞解説欄「東日本大震災10年」、エマニュエル・トッドさんの発言「原発維持 意義ある決断」から。

大震災の位置づけについて
・・・原発の安全神話の瓦解を含め、3・11を太平洋戦争の敗北に続く「敗戦」とする声もあると聞きます。
私はそうは思わない。
戦後、驚異の復活を遂げた「無敵」の日本が失墜したのは1990年代初めのバブル崩壊です。日本は米国に追いつき・追い越せを標語に、右肩上がりの成長を続けた。金満になり、米国を追い越そうとした矢先にバブルがはじけ、弱点である硬直性を露呈した。日本単独では未来を創れないこと、新しい世界像を示せないことが判明した。日本の転換点でした。
これは中国が将来直面する事態でしょう。中国は米国と肩を並べたと思った途端に挫折するはずです。
日本はバブル崩壊後、謙虚になりました。成長は停滞しますが、科学技術の競争力を維持し、先進国・経済大国にとどまった。強靱さを身につけたのです。
3・11でも強靱さを示した。初動では混乱や過ちもあったのでしょうが、取り乱すことはなかった。
無論、廃炉や除染を含め、日本は「フクシマ」と共にあり続けなければなりません。唯一の被爆国にとって複雑で重い課題でしょう・・・

人口減少について
・・・とはいえ、日本の最大の問題は人口減少です。
私見では、日本はようやく移民受け入れに転じた。2019年施行の改正出入国管理・難民認定法で受け入れにカジを切った。既に流入は進んでいました。年間の流入人口から流出人口を引いた「純移動」は17年、約36万人で、フランスの2倍でした。大半が移民のはずです。
労働力不足に悩む経営者らは流入を支持している。移民は増え続けるでしょう。
人口危機は長い潜行の後、顕在化し、制御不能に陥る。世界一の高齢化社会の日本にとって移民は必須です。

助言が二つあります。
日本人の安寧は「日本人どうしでいること」です。異文化を尊重し、共生をめざす多文化主義は不向きです。移民を同化させる不断の努力が必要になります。
ただ移民受け入れだけでは不十分、やはり子供が多く生まれる必要がある。移民の子らが日本の子らと混じり合い、日本人らしくなるのが理想です。喫緊の課題は低い出生率を引き上げる抜本策を見いだすこと。女性の地位を巡る意識の転換が不可欠です。
3・11を機に人口減少が一層加速した被災地は日本の縮図です。日本の人口減少を制御できなければ、真の復興も成就できません・・・