児童相談所、自治体業務の現場

朝日新聞夕刊「現場へ」は、8月23日から「変革期の東京・児童相談所」を連載しています。
23日は「あの虐待死、もし関わるなら」です。
・・・「もういいだろ。子どもは寝ている。帰れ!」。6月中旬、東京都千代田区のJR秋葉原駅近くにあるビルの一室で、男性の野太い声が響いた。
「お子様の様子だけでも確認させてください」。児童福祉司の2人が穏やかな口調で食い下がる。虐待を隠そうとする父親はいらだち、何度も声を荒らげた。
これは東京23区の職員を対象とした児童虐待への対応の研修風景だ。両親役と児童福祉司役には、家族の事情やこれまでの経緯が記されたシナリオが渡される。演じている様子はほかの研修生がタブレット端末で撮影した。役を演じることで、それぞれの当事者目線を学ぶことが目的だという・・・

・・・シナリオは、2018年3月に東京都目黒区で起きた船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)の虐待死事件を担当した都の児童相談所(児相)から招かれた職員が用意した。職員は「内容は目黒の事件を意識した。実際の現場では難しい判断が迫られる。どう対応するかを考えてほしい」と語った。またこの日の午後には、千葉県野田市で19年1月に起きた栗原心愛(みあ)さん(同10歳)の虐待死事件を踏まえて、家族との面接の演習も行われた。
研修を企画したのは、23区の共同事務を扱う特別区人事・厚生事務組合「特別区職員研修所」だ。「23区に対するアンケートでも、より実践的で、即戦力を育てる内容が求められている」と担当の桜井安名教務課長(47)は話す・・・

・・・喫緊の課題が人手不足と人材育成だ。研修を取材した6月中旬は、都内に新型コロナウイルスの「緊急事態宣言」が発令されていたが、オンラインではなく、研修生たちはマスクの上にフェースシールドをつけて実地研修に臨んだ。「会話や表情など微妙なニュアンスはオンラインで伝えるのは難しい。実際に自分で感じないと理解できない部分も多い」と、桜井課長は説明する。
研修生は若手職員が大半を占めているが、ベテラン職員も交じっていた。都内では、ほかの自治体で児相の職員として経験していた人の採用も進み始めている。東京の児相にくわしい職員は「児相新設の水面下で、ヘッドハンティングもあると聞く」と打ち明ける・・・