コロナ経済危機、雇用調整助成金と失業保険

7月22日の日経新聞経済教室、八代尚宏・昭和女子大学副学長の「休業手当より失業給付重視を あるべき雇用政策」から。

・・・今回のコロナ危機では、2008年のリーマン・ショック時と比べ、失業者の増加が著しく抑制されていることが特徴だ。政府の自粛要請に基づくサービス業主体の中小企業の休業増加に対応して、従業員への休業手当を補助し、解雇を防ぐ雇用調整助成金が大幅に拡充された要因が大きい。
具体的には対象事業主の拡大や受給要件の緩和と、中小企業への休業手当の助成率を100%近くまで引き上げたことなどだ。この結果、コロナ不況の影響が最初に表れた20年4月の失業率は前年同月比0.2ポイントの上昇にとどまった。
代わりに休業者数が前年比420万人も増えるという異常な状況が生じた(図参照)。仮に19年平均を上回る休業者の増加数がすべて失業者になっていれば、失業率(図の修正失業率)は9%台に達していた・・・

・・・もっとも、これは雇用調整助成金内での整合性にすぎず、肝心の職を失った労働者が直接申請する失業給付との間には大きな不均衡がある。現行の失業給付は、低賃金労働者を除けば、ほぼ賃金の5割で日額8330円(月額18万円)が上限と、休業者への直接給付の半分程度だ。
つまり類似の生活保障給付なのに、政府の自粛要請で休業中の従業員と、企業の倒産・廃業で失業した従業員との間には、2倍もの格差がある。もともと雇用調整助成金による休業手当と失業給付の上限額は同じだったが、失業率に影響しない休業者の増加を優先するという政治判断によって新たな不均衡が生じた。
また企業に代わり、その従業員が政府に休業手当を申請できることは、事業主にとって、休業手当を支払わなくてもよいというモラルハザード(倫理の欠如)を誘発する・・・

・・・今回、雇用調整助成金の対象範囲を拡大し、本来の雇用保険の被保険者でない短時間労働者の休業も対象にしたことは注目される。これは現行の雇用保険の枠組みを用いて、より多くの非正規労働者を救済し、その費用は国庫から補填するという現実的な工夫だ。
もっとも、外的な経済ショックに現行の雇用保険だけで対応するには限界がある。コロナ危機で所得水準が前年より大きく落ち込んだ個人を対象とした当初の30万円の給付金は、補完的な所得補償を目的としたものだった。だが全国民を対象とした一律10万円の定額給付金に置き換えられたため、膨大な財政コストと不毛な行政事務を招いた。
こうした財政の浪費を繰り返さないためにも、欧州の動向に倣い、フリーランスや学生アルバイトなどにも幅広く失業給付の対象を拡大することで、より普遍的な雇用維持策の機能拡大を図る必要がある。
コロナ危機は継続する可能性が高い。一方で、企業に依存しない働き方の多様化も広がっている。今後は「企業が雇用を守り、その企業を政府が守る」という労働者保護と企業保護が混在した雇用調整助成金の政策目的を、本来の労働者保護に徹底させるべきだ・・・

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