4日の朝日新聞beで、「させていただく」という表現を、取り上げていました。事例として、「この辺は、朝は渋滞しますか?」と尋ねたら、「朝はかなり渋滞させていただきます」と答えた住宅メーカーの社員。取引先からの電話に「○○はお休みさせていただいております」と言ったら、「ならすぐ連絡を取れ」と怒鳴られた例が出ていました。
私は、この言葉が嫌いです。テレビやデパートなどの放送で「・・させていただきます」という表現があると、「させたらへんわ」(させてあげないよ)と、答えてしまいます(笑い)。
この表現は、相手の許可を求めているのですから、目の前に許可権者がいる場合は、理解できます。食堂で、「空いたお皿を下げさせていただきます」というのは、許せます。こちらも、「ちょっと待って」と言えますから。しかし、相手が拒否できないのに、「させていただきます」と言うのは、へりくだっていることにはなりません。こちらが「いやです」と言っても、実行するのですから、ずるいですね。本当の主語(主体)を隠し、責任の所在を不明確にします。英語に翻訳するとしたら、どう訳するのでしょうね。
電車の車掌が「ドアを閉めさせていただきます」と言うのも、「ドアを閉めます」と言えばいいのです。いちいち乗客に許可を求めていては、いつまでたっても発車できません。ドアを閉める権限は、車掌にあるのです。
さらに、先に紹介した「渋滞の例」は、自らが行う行為でもないのに、「渋滞させていただきます」は、はっきりとした間違いです。
類似した表現で、「させていただいた」があります。「皆さんの投票のおかげで、当選させていただきました」。さらに、それほど直接ではなくても、仏様のおかげで「今日一日無事に過ごさせていただいた」とか、皆さんのおかげで「このような立派な成績を取らせていただいた」という、感謝の表現です。これは、通じる表現、正しい表現です。しかし、これから行う行為や、うまくいっていない現象に関しては、「させていただいた」は使えないでしょう。
たぶん「させていただきます」の誤用は、この「させていただきました」の感謝を、間違って転用したのだと思います。
今日、地下鉄の中で、次のような広告を見かけました。この冬に閉店するデパートの広告です。「このたび、閉店させていただくことになりました」。誰が許可したのか、誰に許可を求めたのか、誰のために閉店に追い込まれたのか、誰が閉店を決めたのか・・。主語(主体)を不明確にする表現ですよね。
主語がお客なら、「あなたたちお客が我がデパートで物を買ってくれないので、閉店させていただくことになった」となってしまい、変ですよ。「仏様のおかげで・・」だと、なお悪いです。主語は私たち経営者であって、「営業がうまくいかないので、閉店することを決めました」でしょう。どうしても「させていただいた」を使うなら、「今日まで営業させていただきました。ありがとうございました。しかし、閉店を決めました」です。