カテゴリーアーカイブ:仕事の仕方

人工知能で国会答弁作成支援

2025年10月8日   岡本全勝

デジタル庁の人工知能の使用実績について発表がありました(8月29日)。
・・・デジタル庁では、本年5月以降、デジタル社会の実現に向けた重点計画(2025年6月13日 閣議決定)に基づき、デジタル庁の内部開発等により構築・展開する政府等におけるAI基盤である「ガバメントAI」に係る取組の一部として、デジタル庁全職員が利用できる生成AI利用環境(プロジェクト名:源内(げんない))を内製開発で構築しました。また、源内で国会答弁検索AIや法制度調査支援AIなど、行政実務を支援する複数のアプリケーションを提供することで、行政の現場での利用状況や課題を把握する検証を進めてきました。
このたび、源内の利用を開始してから3か月が経過したことを受け、デジタル庁職員による生成AIの利用実績を公表します・・・

これについて、9月30日の時事通信社「iJAMP」が解説していました「答弁準備もAI時代=デジ庁AI「源内」」。
・・・職員への利用アンケート結果によると、利用頻度では「週に数回」との回答が44.5%で最も多く、「毎日」も28.1%でした。業務効率化への寄与度については、「ある程度」が57.3%、「非常に」が21.8%で、全体の約8割が「寄与している」と答えました。
実際に利用した職員からは肯定的な反応が多かったようです。「行政文書を読む・整理する手間の省力化につながった」「情報検索に役立つ。さまざまな視点で気づきを与えてくれる」「システム情報を調べる際に役に立っている。マニュアルを確認する場合に比べて1回当たり30分、1時間の作業時間を削減できている」といった声が寄せられています。
国会答弁の準備作業での効果も目立ちました。これまでは、膨大な過去答弁や法令を人手で調べていましたが、国会答弁検索AIは、想定質問を入力すると過去の政府答弁を関連性の高い順に示し、URLや審議日時も併せて表示。短時間で関連資料を抽出し整理できるため、準備時間が大幅に短縮されました。法制度調査でも、複雑な条文や関連する通知をAIが要約し、以前より短時間で全体像を把握できたといいます・・・

この記述では、国会答弁作成そのものでなく、過去の答弁を調べるのに使っているようです。その作業に使うのなら、人工知能は得意です。職員は楽になります。しかし、上司が「あれもこれも、さまざまな答弁を調べよ」と指示すると、楽にはなりません。この項続く。

不測の事態の訓練

2025年9月26日   岡本全勝

日経新聞「私の履歴書」、9月は宇宙飛行士の向井千秋さんです。11日の「搭乗決定」に、次のような話が書かれています。
選ばれた有能な宇宙飛行士でも、このように訓練します。「火事場の馬鹿力」という表現もありますが、通常の人は異常事態が起きた場合に、想定したこと、訓練したことしか実行できません。いえ、訓練したこともできないのです。東京電力福島第一原発事故も、そうでした。

・・・訓練は大変でしょうとよく聞かれるが、このミッションではこういう実験をやると決まっていて、訓練の手順も決まっている。何回か訓練するとできることをやっていて、一歩一歩やっていって気がつくと打ちあげ当日になっている。NASAではそうした仕組みがしっかりできていて「すごい」と感心した。

大変なのは計画通りに行かないときだ。予定が狂ったときにどう対応するかが訓練のキモで、考えられる限りの異常事態を想定して対応する訓練を繰り返した。訓練の途中で不測の事態が発生したことを知らせる「グリーンカード」が差し入れられると、時間内に対策をとらねばならない。

例えばショウジョウバエ10匹を使う実験の訓練で「容器を開けると3匹しかはいっていない」といったカードが差し入れられる。真剣にやっているので実際の事故か訓練かの区別がつかなくなるほどで、訓練が終わるとぐったりしてしまった。打ちあげ前の2年間はこうした訓練をぶっ続けでやった・・・

間違っている上司にへつらう?

2025年8月24日   岡本全勝

8月20日の朝日新聞、ニューヨークタイムズ・コラムニストの眼、トーマス・フリードマン氏の「労働統計局長の解任 困難な正しさ、選ばない人々」から。ここではごく一部を紹介するので、関心ある方はぜひ全文をお読みください。

・・・ドナルド・トランプ氏が大統領として行ってきた数々の恐ろしい言動の中で、最も危険な出来事が8月1日に起こった。私たちが信頼し、独立している政府の経済統計機関に、トランプ氏は事実上、彼と同じくらいの大うそつきになるよう命じたのだ。
トランプ氏は、気に入らない経済ニュースを彼にもたらしたという理由で、上院で承認された労働統計局長エリカ・マッケンターファー氏を解雇した。そしてその数時間後に、2番目に危険なことが起こった。我が国の経済運営に最も責任を持つトランプ政権の高官たちが全員、それに同調したのだ。
彼らはトランプ氏にこう言うべきだった。「大統領、もしこの決定について考え直さないなら、つまり、悪い経済ニュースをもたらしたという理由で労働統計局のトップを解雇するなら、今後、その局がよいニュースを発表した時、誰が信頼するでしょうか」と。しかし、彼らは即座にトランプ氏をかばった。

ウォールストリート・ジャーナルが指摘したように、チャベスデレマー労働長官は1日朝、テレビに出演し、発表されたばかりの雇用統計が5月と6月は下方修正されたものの、「雇用はプラス成長を続けている」と宣言した。ところが、数時間後、トランプ氏が自身の直属である労働統計局長を解雇したというニュースを知ると、X(旧ツイッター)にこう投稿した。「雇用統計は公正かつ正確でなければならず、政治目的で操作されてはならないという大統領の見解に、私は心から賛成します」
ベッセント財務長官やハセット国家経済会議委員長、チャベスデレマー労働長官、グリア米通商代表部代表といったような上司の下で働くとき、彼らが自分を守ってくれないばかりか、職を守るためには生けにえとして自分をトランプ氏に差し出すだろうと知りながら、今後、どれだけの政府官僚が悪いニュースを伝える勇気を持てるだろうか・・・

と書いたら、肝冷斎が8月20日に「雲消雨霽」を書いていました。

人脈による仕事

2025年8月15日   岡本全勝

7月31日の日経新聞「基軸なき世界 プラザ合意40年 激変 外為市場㊦」は「変わる「通貨マフィア」の人脈 内輪の議論から多極間の交渉舞台へ」でした。

・・・米東部時間22日午後、米ホワイトハウスの大統領執務室。日本側は政府系金融機関を通じて4000億ドル(約58兆円)の投資支援の枠を設けると提案した。より巨額の投資を求めてきたトランプ大統領を前に、その場で支援の額を最大5500億ドル(約80兆円)に増やすことで合意した。
急転直下の合意にこぎ着けた立役者の一人が、財務省で国際業務を担当する三村淳財務官だ。「トランプ氏を納得させるためにはぎりぎりどこまで増額が可能なのか、三村氏がその場にいたからすぐに判断できた」。財務省幹部はこう語る。

省庁の次官級ポストでもある財務官の主業務は通貨政策で、通商分野での交渉は本来は担当外だ。だが、三村氏は日米関税交渉における事務方の中核の一人として、交渉役の赤沢亮正経済財政・再生相を支えた。合意までの渡米回数は8回。20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議など山積するほかの会議の合間をぬって、最後は食事を取る時間もままならない状況で交渉の詰めの作業に奔走した・・・

・・・金融市場の歴史的な転換点で、これまでも交渉や調整の最前線を担ってきた財務官。米国の財務長官や主要国の通貨当局の責任者らとかつては秘密裏に為替相場や通貨政策について議論していた名残から、「通貨マフィア」ともしばしば称される。
通貨マフィアたちが台頭したのは1970年代前半、米国の威信が揺らぎ、主要通貨が対ドル固定相場制から変動相場制に移ったころだ。石油ショックが起こり、インフレと経済不況に対応するために、主要国が討論する場として、米国、英国、フランス、西ドイツ、日本による「G5(主要5カ国)」の財務相らが集まった。為替変動の荒波のなかで、各国の通貨当局トップも頻繁に顔を合わせるようになった・・・

・・・だが、民主主義などの価値観を共有する内輪の集まりだった通貨マフィアたちの会合は、市場のグローバル化や新興国の台頭で急速に変貌した。97年のアジア通貨危機をきっかけに、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓のASEANプラス3の枠組みができ、99年にはG20財務相・中央銀行総裁会議が始まった。
2015年7月から過去最長となる4年間財務官を務めた浅川雅嗣氏は、「国際会議も増え、主要7カ国(G7)のように基本的な価値観を必ずしも共有していない国とのやりとりも増えた」と語る。為替市場へのインパクトはより見えにくくなった。

複雑化する市場との対話を円滑にするために問われたのが人脈の多様さだ。一例が2015年夏、突如起きた中国人民元の下落。「何が起きたのか」。中国人民銀行(中央銀行)からの公表もないなかで、浅川氏は日ごろから懇意にしていた中国財務当局や人民銀行の担当者に接触をはかり、人民元の切り下げを把握した。国際通貨基金(IMF)との議論も経て、多方面の情報から中国が人民元を国際的な主要通貨にしたいという意図を読み解いていった。
2022年、24年ぶりの円買い介入に踏み切り、国内外から注目を集めた前財務官の神田真人氏が注力したのも、市場の人脈の洗い出しと拡大だ。約1年かけて、海外の主要中銀・財務省の幹部やエコノミストらとの報告ラインを見直したほか、分散型金融(DeFi)経由で取引するプレーヤーなどとも関係を構築し、為替介入に備えた。
「市場は全く違うものになった。それに向けて通貨当局も常にアップデートする必要がある」と神田氏は当時語った・・・

1年や2年で交代する霞ヶ関幹部にあって、財務官は長く座ることが多い珍しい職です。人脈がものを言う、それも国内でなく国際金融の世界だからでしょう。
指導者論や管理職論で、組織内部の管理や指導が取り上げられますが、それと同様に重要なのが渉外です。いえ、内部管理は部下に任せることもできますが、外部との交渉は幹部でしかできないのです。そして、力量を発揮できるのが交渉ごとです。
それは、首相についても言えます。内政は官房長官や各大臣に任せることができますが、外交は首相が出かけなければなりません。

配電盤と集電盤

2025年7月24日   岡本全勝

司馬遼太郎さんは、明治時代の東京、特に東京大学(帝国大学)を、欧米文明を受け入れ地方に配る「配電盤」と表現しました。とてもわかりやすい表現です。霞ヶ関の行政機構も、欧米から輸入した行政サービスを、日本各地に行き渡らせる配電盤でした。

組織に置き換えると、ヒエラルキー(階統制)で、上位の職から下の職へ指示が下りることに似ています。
他方で、集電盤という仕組みがあります。配電盤が電気を分配するのに対し、集電盤は別々の電気を集めます。個別に発電された太陽光発電を、一つにまとめる場合とかです。
これを組織に当てはめると、ある知識や指示を「分配」するのではなく、別々の情報や知識を「集めて整理」することです。ところが、ただ単に集めただけでは「おもちゃ箱状態」になって利用できないので、一定の目的や基準で整理する必要があります。

この集電盤機能は、意外と難しい作業です。配電盤機能なら、受けたものをそのまま伝えるか、指示をかみ砕いて伝えればすみます。しかし集電盤機能は、ある目的のために、雑多な情報から必要なものを選び出し、分類を設定してそれら情報を整理し、それを上司や関係者に説明しなければなりません。
目的がはっきりしている場合、例えば上司から指示があった場合は、比較的簡単です。とはいえ、どのような分類にするのか、何を取り何を捨てるのか。難しい場合があります。東日本大震災では、全国に避難した避難者を(地域と施設別に)把握する際に、これに該当しました。

他方で、目的がはっきりしていない場合はもっと難しいです。例えば新たな課題と思われる事象が頻発していて、それを認知し対策を考える場合です。社会的問題で言えば、引きこもり、孤独死、子どもの貧困、虐待、家庭内暴力などが、それに当てはまったでしょう。それら問題の定義も範囲もはっきりしません。というか、それを決めるために事象を拾い上げ、分類するのです。初めから範囲と分類が決まっているのではなく、作業の過程で定まっていくのでしょう。
組織の幹部や管理職は、日々、このような状態に置かれています。人工知能には、できない作業だと思います。