数字は未来を語ってくれない

2026年1月24日   岡本全勝

日経新聞夕刊コラム「こころの玉手箱」、1月19日の宮原博昭・学研ホールディングス社長の「戦闘機のジャイロ」から。

・・・学研ホールディングス(HD)の社長に就任した際、防衛大学校の同級生だった親友の渡辺誠が祝いの品としてフランス軍戦闘機のジャイロを贈ってくれた。防衛大では、航空自衛隊のパイロットを志していた。社長として学研HDの操縦席に座ったばかりの自分にとって、ぴったりの贈り物だった。
ジャイロは戦闘機で最も大事な部品だ。機体の傾きを教えてくれる計器で、操縦席に備え付けてある。上空まで飛ぶと、目の前にある雲は斜めに見えるため、上下左右の方向が分からなくなることもある。
特に夜間や悪天候など視界が悪い時は、ジャイロが示す数字だけが頼りだ・・・

・・・学研HDの操縦席に座ったものの、視界の先は一筋の光もない真っ暗闇のような気持ちだった。社長に就いた2010年当時、学研HDは出版不況と少子化の打撃を受け、売り上げが20年間で半分ほどに減っていた。経営者として、1万人の社員とその家族を路頭に迷わせないことがいつも頭から離れなかった。
だが経営危機を乗り越える光が見当たらず、会社はもがいていた。ジャイロの数字だけを信じて戦闘機を操縦した経験は企業経営に大きく生きた。
客観的な数字に基づいて判断することは、戦闘機の操縦でも経営でも不可欠だ。決算資料の数字を何度も読み返し、経営再建という飛行プランを立てた。

数字は足元の状況を正確に教えてくれるが、未来は語ってくれない。だから現場の声やライバル会社の経営状況、社会情勢という外部の景色を見ることを忘れないようにしている。
少子高齢化という外部環境を分析してたどり着いた飛行プランは、当時の主力事業だった学習塾や出版と全く異なる介護事業の拡大だった。
社長就任後の3年間はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の新設に集中し、M&A(合併・買収)や学習塾の校舎新設をストップした。
暗闇の中でつかんだ介護という光は、今や売上高の約半分を占めるまでに成長した・・・