承認欲求とどう付き合うか

7月2日の朝日新聞、西尾潤さんの「承認欲求とどう付き合う?」から。

・・・誰かに褒められると、自分が認められたようでうれしくなる。子どもの時だけでなく、30代になった今でもそうだ。一方、期待したほどの評価が得られず、悩み苦しむこともある。そんな「承認欲求」と、どう付き合っていけばいいのか。マルチ商法の世界で認められたいともがき、堕(お)ちていく主人公を描いた小説「マルチの子」の作者、西尾潤さんに聞いた・・・

――承認欲求について、今はどう考えていますか。
自分のことを認められない、自信がないから、他者からの承認を求めてしまう、ということだと思っています。でも、褒められたらうれしいという気持ちは、誰しもあるものじゃないですか?
承認欲求って、人間が社会の中に「よりよくいよう」と思うからこそ出てくるものだと思います。
たとえばSNS。多くの「いいね」がうれしくて、Xに気の利いた言葉を載せる、インスタグラムに楽しそうな写真をアップする。でも、いい言葉を探すのは悪いことではないし、楽しそうなふりをしていたら本当に楽しくなるかもしれない。
ただ、それが“自分軸”ではなく“他人軸”になってしまうと、しんどくなるんじゃないかと思います。

――他人軸、ですか。
承認欲求には、どうしても「他人と比べてしまう」という側面があります。私もありますよ。自分よりあとにデビューした作家が一気に売れて賞を取ったりすると、「私はなんでできないんだろう」と苦しくなることもあります。
でも、比べる対象を過去の自分や未来の理想にしたら、ずいぶん気持ちが楽になりました。過去の自分と比べると、今の自分はすごく進んでいるんですよ。デビュー前の、新人賞に応募した小説が引っかからなくて、「私の作品、読まれていないのでは」と落ち込んでいた頃と比べると、今こうして取材を受けていること自体、すごい進歩です。
今はSNSで他人の動向や評価が可視化されてしまうから、まったく比べないというのは難しいかもしれない。でも今まさに承認欲求で苦しんでいる人がいるなら、「比べない努力をしながら、一緒にやっていきましょう」と言いたいですね。