1月4日の朝日新聞オピニオン欄、板橋拓己・東大教授の「2度目の大戦を招いた「戦間期」と今の類似点 何に再び失敗したのか」から。
――現在の国際情勢は、二つの世界大戦の間の「戦間期」に似ているともいわれます。
「今のロシアを、戦間期ドイツのワイマール共和国と重ねる見方は多いですね。巨大な国家が解体した後に帝国意識が残存したという点、いったん経済的に破綻(はたん)しかかったという点で共通しています。ワイマールは1920年代にハイパーインフレと大恐慌を経験し、ナチスが台頭した。ロシアも90年代に経済的に大きく混乱し、その後プーチン氏が強大な権力を握りました」
「もちろん戦間期と現代で、全体状況は大きく違います。その中で、あえて現在と似ている点を探すとすれば、大きな戦争後の『秩序構築』に失敗したことと、社会が極度に分断されていることです」
――「秩序構築の失敗」とは。
「欧州諸国が血みどろの戦いを繰り広げた第1次世界大戦は、世界に大きな傷痕を残しました。その戦後の秩序構築が、戦間期の20年間の課題でした。冷戦終結後の30年間も、大きな『戦争』の後の秩序構築という側面がある点では似ています」
「しかし、戦間期の秩序構築は失敗でした。第1次大戦後に成立したベルサイユ体制やワシントン体制は、勝者側の論理で作られた国際秩序でした。やがて、ドイツ、イタリア、日本のような現状打破を目指す国の挑戦を受けることになった」
――冷戦終結の後はどうだったのでしょうか。
「米国の歴史家サロッティは、冷戦後の欧州の秩序は『プレハブ構造』だと指摘しています。NATO(北大西洋条約機構)などの西側の秩序は、冷戦のためにつくられたものです。冷戦終結後、根本的につくり替えてもよかったはずですが、実際にできたのは西側の秩序を建て増したプレハブでした。基本的な構造は変わらないまま、NATOとEUが東に拡大していった」
「旧社会主義国の人々を、冷戦に負けたという屈辱感なしにどうやって国際社会に包摂するか。90年代に模索は重ねられましたが、うまくいかなかった。その反動としてプーチン氏のような人が出てきた。冷戦後の秩序構築の失敗の結果として、今回のロシア・ウクライナ戦争を捉えることもできるかもしれません」
この項続く。