30年後の世界予測と課題解決

9月22日の日経新聞、ジャック・アタリ元欧州復興開発銀行総裁の「30年後の課題解決、カギは個人に」から。

人類は太古から未来予測を試みてきた。旅立ち、種まき、出産、開戦などに適した時期を探り、自らの死期、計画の行方、企業や国家の運命を占ってきた。かつては動物の内臓、コーヒーカップに残る粉の形、落ち葉、薬物による錯乱状態などが用いられた。やがて科学的に天候などが占われるようになり、今日、地球と人類の未来は、かなり正確に予測できる。
2050年の世界人口、気候変動、自然環境は、ほぼ正確に予測できる。一方、技術進歩の未来予測では不確実性が高まり、医療、教育、食糧、水資源の利用、労働組織、地政学的な緊張、紛争の勃発、移民の動向、政治的イデオロギーや宗教的価値観などでは不確実性がさらに高まる。これから私の未来予測を披露したい。

まず、気候では30年後、南アジア、イラン、クウェート、オマーン、ソマリア、エジプト、エチオピアなどでは、猛暑で居住が困難になる。ブラジルとメキシコも同様だ。パキスタン、バングラデシュ、英国、オランダも洪水の頻発で住めなくなる。

教育ではデジタル技術の発展により、読み、書き、計算、プログラミングは、学ぶ必要がなくなる。神経科学の進歩に伴い、ゲーム感覚で独学できるようになり、アフリカやインドでは伝統的な学校制度が崩壊、富裕層の子弟向けの私立学校が増える。学校を経ず、まずはインターネット、次にホログラム、仮想空間などを経たデジタル教育が急速に普及する。

地政学と戦争では、国家や社会集団間の不平等が拡大し、水など不可欠な天然資源の利用に著しい格差が生じると緊張が高まる。その結果、ウクライナのような地域紛争が続発するかもしれない。特に台湾での紛争、イランや北朝鮮で独裁者の生き残りを賭けた行動が予想される。中国は世界の覇権を握れず、内政に専念せざるをえなくなり、軍事的な賭けに出る。
こうした流れを変えるような世界規模の行動が起こるとは考えにくい。世界政府も、何をなすべきかというコンセンサスも存在しないからだ。とはいえ、衛生、環境、政治に関する問題が続発すれば地球規模でなければ解決できないというコンセンサスができる。
解決のための目標設定は、世界よりも、国、企業、個人のレベルのほうが容易だ。意思決定の主体が小さいほど、また主体の将来への影響が大きいほど、目標設定は簡単になる。全員が一丸となって命の経済を目指すのなら、30年後の未来は明るいだろう。