7月31日の日経新聞経済教室「SNSと現代社会」、前嶋和弘・上智大学教授の「共感と分断を同時に加速」から。
・・・SNS(交流サイト)が米国政治を大きく変貌させている。ツイッター、フェイスブックなどの各種プラットフォームが普及し出してから10年強にすぎないと考えると、変化の大きさには改めて驚く。これは、ちょうど米国政治の中で保守とリベラルが大きく分かれていく「政治的分極化(両極化)」が進展した時代とも重なっている。
トランプ大統領はSNSを巧みに操り、党派性を徹底的にあおりながら自分の主張を展開し、支持固めに直結させている。同氏のツイッターのアカウントは2020年7月下旬現在、8371万人超のフォロワー(登録者)を持つ・・・
・・・ただ、内容は極めて特異だ。「敵と味方」をしゅん別し、敵を徹底的に否定し、味方をほめちぎるのが基本姿勢だ。この姿勢は16年の大統領選挙のころから全く変わっていない。そう考えると、トランプ政権はSNSが生み、育てている初めての政権と言ってもいいのかもしれない・・・
・・・ここで、SNSというメディアの特徴について立ち戻ってみたい。論点は3つある。
まず第1に、SNSは基本的に共感を呼ぶメディアである。米国で一気に拡散した人種差別反対運動については、残忍な白人警官のやり方に対して、写真や映像とともに憤りの言葉がSNS上に拡散し、参加の渦が広がっていった。運動のピークとみられる6月半ばに2600万人もの人々が参加する、過去最大といわれる社会運動に広がっていく(数字はカイザー家族財団の推計、6月8日から14日調査)。
第2の性質は、自分と違う立場の意見とは没交渉になる点だ。SNSや検索サイトでは、アルゴリズムで利用者の関心が高いとみられる情報が優先表示される。見えないフィルターがかかり、まるで泡の中にいるように自分と反対の立場や不都合な情報が見えなくなってしまう。共感できるものと共感できないものが分かれ、見えない壁ができる「フィルターバブル」現象が目立っていく。そのため、SNSは社会の分断をさらに加速化させている、という見方も少なくない・・・
3番目は、技術的な脆弱性である。7月15日には、11月の次期大統領選で民主党の指名獲得を確実にしたバイデン前副大統領や、オバマ前大統領などの複数のツイッターアカウントが何者かに一時的に乗っ取られた。被害はなかったというが、トランプ大統領のアカウントも当然、狙われていたと推測される・・・