勢力均衡や覇権でない国際秩序・その2

引き続き、ジョン・アイケンベリー教授の主張です。
リベラルで民主主義的な世界秩序は、戦勝国アメリカが主導したものです。それは、いくつかの原則によって成り立っています。
1つは、経済の開放性です。1930年代のイギリス、ドイツ、日本によるブロック経済と世界経済の崩壊を、再び起こさないためです。平和で安定的な世界秩序のために、経済の開放性は必須だとアメリカは考えました。
2つめは、西側政治経済秩序を共同で管理するという原則です。これも、1930年代の経験から学びました。一国による押しつけや、相互の敵対的競争ではなく、制度やルールを作り、参加各国によって共同管理するのです。
教授はまだいくつかの原則を挙げていますが、ここでは主要な2つを紹介しておきます。

そして教授は、戦後アメリカの国際的なパワーは、一方的な力の行使ではなかったと主張します。
すなわち、リベラルで民主主義的な世界秩序は、西側各国の参加による共同の管理によって成り立っています。制度やルールづくりがアメリカによって主導されたのは事実ですが、多国間の条約による安全保障と貿易、多くの国が参加するいくつもの国際機関によって成り立つこの秩序は、大国にとっては「面倒くさい」ことです。小さな国も、超大国アメリカと一応は対等の立場に立って、交渉します。
しかし、超大国がその力を背景に一方的に押しつける秩序は、相手国に不安と不満を生みます。それよりは、双方の合意による秩序は、強固です。戦後、圧倒的はパワーを持ったアメリカは、使おうとすればできたパワーを抑制し、西側各国を安心させ、味方につけたのです。
勢力均衡や覇権主義でない、共同管理の秩序であり、ルールによる支配です。そのルールを、参加各国が作ります。小さな国にも、発言権があります。もちろん、すべて平等ではなく、大国が拒否権を持ったりします。この手続きには、手間暇がかかります。
武力や経済力による「力の押しつけ」ではなく、「制度や場」による権力です。スーザン・ストレンジが提唱した「関係的権力」と「構造的権力」と、同様の見方です。
権力が一元化した「世界政府」がない、主権国家の集まりである現在の世界政治では、これが最良の策なのでしょう。

とこで、この本では、日本とドイツは「半主権的な限定的大国」と位置づけられています。NATOや日米安保条約によって、この2国は、国際条約の下で行動や軍備に制限を受けます。それによって、戦前のような軍国主義・冒険主義に走ることを防いでいます。
その見返りとして、アメリカは両国の防衛を一部肩代わりし、安全を保障します。それは日本とドイツにとってのメリットだけでなく、アメリカとともに、日独の周辺国にも安全をもたらします。そのような見方もあるということですね。