三位一体改革69

28日の読売新聞「時代の証言者」石原信雄さん「国と地方」は、「功罪あったふるさと創生」でした。
「たしかに、ふるさと創生事業には功と罪があります。補助金中心でやってきた自治体には、自分の発想で地域づくりをする習慣に乏しかったが、この政策が、地域の問題を自分たちで考えるきっかけになりました。しかし、この財源で金塊を買ったり温泉を掘るだけになったりしたところもあります。地方に希望を与えたと同時に、やりすぎてしまったのです。結局、その後、地方交付税に依存して無駄遣いを助長したと批判されることになりました」
ふるさと創生については、当時「地方交付税-仕組と機能」p235~に方法と意義を解説しました。また、「新地方自治入門」p58にも、少し評価を書きました。私の考えは、日を改めて書きましょう。(3月28日)
30日の日経新聞経済教室は、神野直彦教授の「分権時代の交付税、地方共有税への刷新急げ」でした。
「・・・地方財政にとっての固有財源であり、間接課徴形態の地方税ともいわれてきた交付税は、地方自治体が相互協力のもとに財政力の地域間格差を是正する地方自治体の『共有』財源として明確に位置づけられなければならない。つまり、交付税は『地方共有税』に改め、地方『共有』財源を管理するために新設する『地方共有税特別会計』に直入すべきである。さらに、地方共有税をそれぞれの自治体に配分するにあたっても、地方自治体の参加のもとに決定される必要がある」
詳しくは、原文をお読みください。
29日の経済財政諮問会議に、竹中大臣が資料を提出されました。30日の朝日新聞で、松田京平記者が解説していました。
「竹中総務相は・・・地方交付税の削減目標として、2011年度までに最大6兆円程度の削減が可能との試算を示した。06年度に交付される地方交付税の総額は15兆9千億円で、最大4割近いカットとなる。地方の意見を代弁してきた総務相が厳しい数字を示したことで、大幅削減の方向で論議が進む可能性が出てきた。・・・地方自治体や総務省は反発しているが、竹中氏の提示をきっかけに、財務省が削減を強く主張することは確実だ」(3月30日)
3月29日の経済財政諮問会議の議事要旨が、HPに載っています。竹中大臣の資料についての説明は、p10からです。(4月5日)
30日に、地方6団体の第5回新地方分権構想検討委員会が開かれました。「分権型社会の実現に向けた具体的手」が議論されました。項目は、次の通り。詳しくは、原文をご覧ください。
1地方税の充実強化 、2地方交付税の改革、3国庫補助負担金の見直し、4財政規律を促す規制の強化、5(仮)地方行財政会議の設置、6国・地方を通じた行財政改革の推進、7(仮)新・地方分権推進法の制定
(3月31日)
 
3日の日経新聞で中西晴史編集員が、「分権改革第2ラウンド」「交付税議論ヤマ場へ。地方苦戦、政治の場に活路」を書いておられれました。「竹中資料に騒然」「及び腰の自治体」「世論喚起が課題」という中見出しです。(4月3日)
紹介が遅くなりましたが、東京大学社会科学研究所編「失われた10年を超えてⅡ:小泉改革への時代」(東京大学出版会、2006年2月)が出版されました。第6章に、北村亘先生の「三位一体改革による中央地方関係の変容-3すくみの対立、2段階の進展、1つの帰結」が載っています。
三位一体改革のプロセスについての、政治学からの分析です。ポイントは、
1 今回の改革が、従来の日本政治や行政から見て極めて異質であること。
2 「地方6団体と総務省が反対する地方交付税改革・削減」「族議員と事業省庁が反対する国庫補助金削減」「財務省が反対する税源移譲」という三すくみの構図が打破された。
3 それは、交付税改革・削減については経済財政諮問会議を利用することで、国庫補助金削減と税源移譲については地方団体を協議の場に引き入れることで進んだ。
4 それらの前提として、与党議員に対する首相の優位が選挙制度改革で進んでいたことなどを、指摘しています。
ご関心ある方は、是非ご一読ください。小生も資料提供者として、名前を挙げていただきました。先生、ありがとうございました。(4月5日)
8日の毎日新聞社説は、今松英悦論説委員の「不健全な財源で地域の自立はできない」でした。
「三位一体改革などで税源移譲は進められてはいるが、大半の自治体の財政力は十分ではない。04年度決算では地方交付税不交付団体が全体の約4%に過ぎない。地方の自立性を高める改革が魅力的なのは当然だ。国が徴収する基幹的な税目から、ある割合を財源が不足している自治体に分配する仕組みを、財政調整という。地方財政改革はこの財政調整の必要性を低下させることに狙いがある。では、一連の改革で将来的に自治体が補助金や地方交付税に頼らないですむだろうか。それは不可能だろう」
「そこで、まず、やらなければならないことは、三位一体改革の核心である地方に権限を移譲した事務にかかわる財源移譲である。憲法が保障している社会サービスや行政サービスの財源保障も、財政力の弱い自治体には不可欠だ。ただ、その調整の手法は国から地方という流れである必要はない。「地方にできることは地方に」という以上、広範な税源の移譲を行い、広域地域ごとに地方共同税として徴収、留保し、自治体の財政状況に基づき、配分する方が分権の実を上げられる・・・」(4月10日)
11日の日経新聞連載「財政、見えてきた争点」中は、「すくみあう国と地方。財源争奪、制度論置き去り」でした。(4月11日)
13日の日経新聞は、「交付税配分巡り対立。地方、共有税化を提言。政府、総額圧縮に重点」を解説していました。(4月13日)
日本地方財政学会の今年度の大会は、5月27、28日に東洋大学で開かれます。そのプログラムが発表になりました。会員でなくても参加できます。今もっとも熱い学問分野の一つでしょう。どうぞご参加ください。(4月7日)
地方6団体の「新地方分権構想検討委員会」は、17日に「分権型社会のビジョン」の中間報告素案を議論しました。
18日の朝日新聞では、松田京平記者が、「問われる国の仕送り。地方交付税改革、分権論議の柱に」を大きく解説していました。「全国均一サービスのための格差調整」「色濃い第二補助金の役割」「改革のカギ握る税源移譲」など、現在議論になっている点を、明確に分析していました。小規模町村の状況、大都市の状況、交付税の必要性・機能などをわかりやすく説明しています。
これだけの紙面があれば、正しくまたわかりやすく、実例を入れて記事が書けますね。もっとも、これだけを一人で書くのは、大変だと思います。ありがとうございます。記者クラブにいて、省庁の出す資料をもとに、「ご用記事」を書くのとは大違いです。
ただし、一か所、間違いがあります。最後の部分で「・・交付税の財源について、自治体間の格差が開きやすい法人関係税から消費税に重点を移す・・」とあるのは、「地方税について、自治体間の格差が開きやすい法人関係税から消費税に重点を移す」、あるいは「交付税の財源について、消費税から自治体間の格差が開きやすい法人関係税に重点を移す」の間違いでしょう。(4月18日)
「地方財政の資料」
平成18年度版「地方交付税のあらまし」(地方財務協会、税込み800円)ができました。地方交付税と地方財政について、最新の数字を入れて解説した図表・資料集です。三位一体改革など最近の議論も、盛り込んであります。(4月23日)
小泉政権5年を迎え、各紙がその評価をしています。26日の朝日新聞では、星浩編集委員が「まわした歯車、成果と誤算」を書いておられました。「確かに、時代の歯車を回した。が、進路が定まらずに軌道を外れた歯車もある-小泉政権の5年間を、こう評することができる」
「・・・地方分権の三位一体改革は悲惨な結末だった。中央官庁の抵抗で、税財源の移譲は大きな進展がなかった。増田寛也岩手県知事はこう分析する。『首相は分権という総論を唱えたが、各論は丸投げだった。官僚たちは各論で小競り合いに持ち込めば、改革を骨抜きにできるという手法を覚えた。地方自治体には疲労感が漂っている』」(4月26日)