オトコの依頼

オトコの依頼
「む、むぎゅうん」
 地仙ちゃんが耳を突っついたので、気絶していたオトコがうなりました。
「地仙ちゃん、そのひとはコワいひとかも知れないから放っておいた方が・・・」と先生は忠告しましたが、地仙ちゃんにコワいモノなどあるはずがありません。
「動きまちたね。うふふ、今度はこっちはどうでちょ」
地仙ちゃんが鼻を突っつきます。
「うひ、うへ、はっくちょん」
 オトコは大きくクシャミをして起き上がりました。
「起きまちた~」
 オトコは起き上がって、にこにこしている地仙ちゃんと先生の姿を見ます。
「あ、あなたがたがおタスケくだすったのですか・・・」
「いや、タスケたというかどういうか・・・、それよりアンタ、わたしたちの後をつけていたのではないか。どういうネライがあるのですか」
「ちょうでちゅ。地仙ちゃんのファンのひとならちょう言いなちゃい。地仙ちゃんの作った文字でチャインちてあげるから」
という地仙ちゃんの発言は無視されて、オトコは先生の質問に答えました。
「・・・わたしは先ほどお二人が食事をなさいました港町の食堂連盟のモノなのです。実はこちらのオジョウサマにお願いごとがございまして・・・」
 オジョウサマだそうです。地仙ちゃんは勝ち誇ったように、ニコニコをしています。
「毎年、金陵の都市で「江南大食い大会」が開かれるのですが、ここ十年ほど金陵の代表が連続して優勝しておりまして、わたしどもの町は食堂のクイモノがマズいので大食いが育たないのだ、と言われております。わたしどもも優勝者を出して地域興しのアピールをしたいのですが、金陵の町は高いおカネを積んで大食いを雇ってまいりますので歯が立ちません。しかし、先ほどのオジョウサマの食いっぷりを見ていまして、「これならいける」と思いまして・・・。どうかわたしどもの代表として大食い選手権に御出場ください」
というハナシです。
「オオグイ? どれだけ食べてもいいの?」
 地仙ちゃんは乗り気です。こうなりますと先生が、
「地仙ちゃん、あまりヘンなことに顔を突っ込まない方がいいよ」
と忠告しても聞くはずありませんね。そこで先生はオトコの方に忠告です。
「えー、ニンゲンを指すのに一般に使われる①「人」ですけど、実はこの字は膝を曲げて屈服しているひとを横から見たカタチになっていまして、もともとは降伏した異民族を表していたという説があります。
②「民」もメをつぶした奴隷を意味する(アの部分が目でイの部分が針)と言われています。というように、漢字の発生期には「ニンゲン」という一般的な概念はなく、被支配階級や降伏異民族を指すコトバから「ニンゲン」一般を指す漢字ができた、ということが言えましょう。・・・で、ハナシはかわりますが、このコはニンゲンではないんですけど、オオグイ大会に出してもいいんですか」
「さっきの食いっぷりを見ていたら、誰でもニンゲンじゃないとわかりますよ」
 食堂連盟のオトコは平然と答えました。