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地方行財政-三位一体改革

三位一体改革76

全国知事会と市長会が、「新たなセーフティネットの提案」をとりまとめました。これは、三位一体改革の過程で、厚生労働省が生活保護の国庫負担率引き下げを提案し、それに対し地方団体が制度のあり方を議論しようと逆提案したことから始まりました。厚労省は協議を一方的に打ち切ったのですが、知事会等は学識経験者や実務者とで検討を続けてきました。これがその成果です。
私は、単に生活保護費を地方がいくら負担するかではなく、制度のあり方を、地方団体が企画・提案すべきだと主張してきました。地方団体が内政の主役になるためには、それが必要なのです。国より、実情を知っている地方団体が、実行だけでなく、制度設計にも責任を持つべきです。
今回の提案の内容は、本文を読んでいただくとして、次の3つからなっています。
1 稼働世代には、就労自立を目指し、自立ための期限付きの保護制度とする。
2 高齢者は就労自立は無理なので、救貧的な保護制度とする。
3 ボーダーライン層は、被保護世帯にならないよう就労支援をする。
うーん、これは、再チャレンジ施策にもつながりますね。副題にも「保護する制度から再チャレンジする人に手を差し伸べる制度へ」とあります。(10月27、29日)
政府は27日に、地方分権改革推進法案を閣議決定し、国会に提出しました。28日の読売新聞は、「地方分権、遠いゴール」「官僚猛反発必死、自治体にも温度差」を大きく解説していました。「問題は政治主導で改革する仕組みが明確に示されていないことだ」。
各紙の社説も、これを取り上げていました。28日の日経新聞は「分権改革は首相の指導力で」、毎日新聞は「道州制を目指した具体論を」、30日の朝日新聞は「強い政治力を」、読売新聞は「第2次改革への険しい道のり」、東京新聞は「効率より住民の視点で」です。
政府は、三位一体改革はひとまずおいて、別の分権推進の道を選んだようです。これまで、この表紙で「三位一体改革」を項目だてしてきましが、そろそろこれも店じまいですかね。(10月30日)
(税源移譲で田舎の税収が激減?)
31日の読売新聞なるほど経済では、「安倍政権、地方財政論議スタート」「新型交付税、配分に焦点。自治体側、減額を警戒」を取り上げていました。詳しくは原文を読んでいただくとして、一か所間違いを指摘しておきます。「尾身財務相は諮問会議で、三位一体改革での税源移譲の結果『人口の多い東京の税収はものすごく増えて、少ない田舎は激減した』と強調・・」とある部分です。
大臣発言の、まず後段についてですが、国から地方へ税源移譲をして、「田舎が激減する」ことはあり得ません。3兆円もの金額を、地方に渡したのですから。これは、誰が考えても分かることです。
ただし、市町村の中には、減収となった団体もあります。なぜかというと、税率を累進課税から一定税率にしたからです。すなわち、市町村にあっては、これまで3、8、10%の3段階であったものを、6%としました。多くの人は3%に属していたので、また8や10%を納める人もそれは限界税率で低い所得は3%で納めているので、それが6%になると、ほとんどの市町村は増収になります。所得の低い人ばかりの村があると、税収は倍になります(実際には1.6倍程度が最高だそうです)。しかし、金持ちが住んでいる町は、3%から6%への増収分より、8または10%から6%への減収分が大きく、合計で減収になる町もあります。例えば、東京都港区、芦屋市、鎌倉市などです。もっとも、全国で20数団体でしかありませんし、田舎には滅多にありません。
次に、大臣発言の前段です。東京都の税収はものすごく増えていません。今説明した、一定税率化が利いているのです。都の税収(都分+市区町村分)の全国シェアは、これまでの17%から11%へ減っています。それで、沖縄県との差は、3.2倍から2.7倍に縮小したのです。(2006年10月31日、11月1日))
三位一体改革も、第1期はひとまず終了したようです。このHPでの、実況中継も終わりです。
簡単な解説は「三位一体改革の基本解説」を、年表は「三位一体改革の経緯(簡略版)」「三位一体改革の目標と実」をご覧ください。
この間の詳しい解説と評価は、連載「進む三位一体改革ーその評価と課題」「続・進む三位一体改革」に整理してあります。三位一体改革を勉強したい方は、これをお読みください。
関連リンク
地方団体の主張などは三位一体改革推進ネット

三位一体改革75

5日の読売新聞「ポスト小泉を考える・地方分権」は、新藤宗幸教授と浅野史郎前知事でした。
「一部に、95年の地方分権推進法にならった法律を制定し、内閣府に諮問委員会を設けて取り組むべきとの意見がある。だが、次期政権に政治主導体制への熱意があるならば、10年も前の方式をとる必要はない。首相自らが長となり主要閣僚ならびに地方代表からなる改革会議を設置して、国庫補助負担金の廃止や国税の地方移譲、新たな中央・地方財政調整システムの改革に取り組むべきである」
「総裁選に出馬する3人の言葉を聞く限り、地方分権が、いつの間にか『地方間の格差縮小』に変わってしまったかのように見える・・」
このほか、いろいろな論点が指摘されています。(9月5日)
全国知事会は、自民党総裁選候補者に公開質問状を出し、9月14日に回答を公開しました。
また、15日には地方6団体が地方分権改革推進法」(骨子案)を総務大臣に提出しました。(9月16日)
18日の日経新聞社説は、「06総裁選政策課題を問う。柔軟な発想で公教育の再生を図れ」でした。
「教育改革をめぐるもう一つの大きな論点は、国が責任を持つ部分と現場の裁量に任せる部分をどう切り分けるかである。
戦後、文科省は学習指導要領で教育内容を事細かに拘束し、教員養成も一元化してきた。この結果、教育界には画一主義がはびこり、地域や学校の創意工夫を阻害している。私たちはこうした認識から、指導要領の簡素化・大綱化などにより現場での競い合いを促すべきだと提唱してきた。どんな教育改革を進めるにせよ、分権の方向性は時代の要請であることを強調しておきたい・・・」。
長くなるので、原文をお読みください。(9月18日)
18日の毎日新聞「闘論」は、松沢成文神奈川県知事と、片山善博鳥取県知事の「地方から見た小泉改革」でした。松沢知事は、国と闘う姿勢促した、既得権益破壊も意義という主張で、片山知事は、理念先行のまがい物、地域格差の拡大招くという主張でした。(9月19日)
19日の日経新聞社説は、「16年総裁選政策課題を問う」「道州制の導入含め、地方分権に本腰を」でした。原文をお読みください。(9月19日)
(分権の進捗と交付税の機能)
 地方分権が進むと、交付税(財源調整機能や財源保障機能)がなくなるかのような議論をする人がいます。ちょっと待ってください。地方団体の財政の自由度を上げるために、財源調整や財源保障をゆるめることは正しいです。しかし、分権が進んでも、この機能はなくならないのです。それは、次のようなことです。
現代の福祉国家にあっては、教育、福祉、衛生、安全などの分野において、国は国民に対し、等しくサービスを提供する義務を負いました。それを国が直接執行するのなら、交付税制度は要りません。国立学校には、交付税措置は要らないのです。しかし、分権によって、多くの事務を地方団体を通じて行うことになります。
各地方団体が、その経費を自前でまかなえれば、問題はありません。税源移譲や地方税の増税で、不交付団体が増えます。交付税に頼らない団体が多くなります。しかし、すべての団体が地方税で運営できるようになることは、今の日本の地域経済の状況では、無理でしょう。
そのような経費が増加する一方で、経済は、ますます偏在的に発展します。すると、責任者である国は、地方団体に対し、それらの事務にかかる経費を、財源保障する必要があります。このように、福祉国家において地方分権が進展すると、交付税の必要性はなくならないのです。
もちろん、連邦制になって、福祉の基準も税の基本も各州が決めるようになると、連邦と州との財政調整は要りません。でも、州政府と市町村との間の、財政調整が必要です。(9月21日)
先日に引き続き、分権と財政についての考察です。
(国の役割再考-ナショナル・ミニマムの内容)
国庫補助金の役割を見直していくと、地方団体が行う事務に対する国の関与の問題に行き着きます。国が関心を持ち、責任を持つ部分が、「ナショナル・ミニマム」です。この言葉も、あいまいです。しかし、事務を分類する考え方としては有用だと思います。
ところで、これまでは、どの事務がナショナル・ミニマムで、どの事務はそうでないか、対象事務の切り分けが、議論の中心でした。わたしは、これからは、ナショナル・ミニマムの内容を議論すべきだと思います。すなわち、ある事務がナショナル・ミニマムだとして、国家が国民に対して何について責任を持つかということです。
(何を保障するか)
義務教育で、考えてみましょう。これは、ナショナル・ミニマムでしょう。では、国家が保障すべき義務教育とは何でしょうか。これまでは、教職員の数と給与、校舎の建設でした。しかし、これが「国家が保障する教育」でしょうか。私は、違うと思います。国民が期待するナショナル・ミニマムとしての教育は、教育を受ける機会均等とその内容でしょう。教職員の給与は、機会均等のための一つの手段でしかありません。
発展途上国であって学校がないとか教員がいないというなら、教員と施設を整えることが、国家に期待されるでしょう。しかし、それらを整えた場合、国家に期待されることは、教育の内容でしょう。かつては、教員と施設をそろえることが、ナショナル・ミニマムでした。しかし現在では、そうではないのです。国民が教育に期待しているのは、先生の給料をどう払うかでなく、どのような教育を子弟に授けてくれるかです。
ここには、ナショナル・ミニマムに関して、3つの間違いがあります。一つは、国家が保障すべきはお金でなく、教育内容であるということ。もう一つは、保障する相手は地方団体ではなく、生徒や保護者であること。そして最後に、予算という入力でなく、教育結果という結果で測る必要があるということです(これは「続・進む三位一体改革」に書きました)。
(行政の役割変化)
この議論の基底には、行政の役割変化があります。一つは、行政の目的が、金でできることからよりソフトなものになったこと。二つは、対象者が、業界でなく消費者になったこと。三つに、評価は、インプット(予算)でなくアウトカム(品質)で測るべきであるということです。(9月23日)
25日の日経新聞は、「安倍政権あす発足。地方分権どう描く」「具体論、所信表明を注視」を大きく書いていました。(9月25日)
3日の読売新聞「安倍新政権に望む」は、高橋はるみ北海道知事の「国と地方、役割分担に道筋を」でした。
地方交付税の改革で、安倍首相は定年退職者の活用など、地方の努力に応じて交付税の配分を積み増す考えを示しているがとの問に対して、
「地方交付税は、地域の活性化のために地方が自由に使っている財源だ。安倍首相は(配分の算定基準などで)いろいろアイデアがあるようだが、できる限り地方の裁量に任せてほしい。算定方式は客観的な指標を中心とし、国民誰でも理解できるものにするべきだ」
「国の歳出削減のため交付税の総額をいかに減らすかという議論がさかんに行われているが、『ちょっと待って』と言いたい。10年ほど前に景気対策と称して公共事業をたくさんやった時、国は地方にも借金するように求め『返済は交付税で面倒見る』と言った。それを受けた地方にも責任はあるが・・・」
「・・・ムダな補助金の事業をやめれば歳出削減の余地はまだまだある。地方は『国が補助してくれるのだからちょっとムダがあっても』と考えてしまう。国と地方は補助金のやりとりの過程でモラルハザードを起こしている。歳出削減が地方分権の目的ではないが、地方分権を進めれば歳出は削減できる」(10月3日)
5日の日経新聞経済教室「政治の統治改革考」は、新藤宗幸教授の「三位一体改革第二次を」「真の分権国家創造。霞ヶ関、高次の課題に特化」でした。
「1990年代初頭から、政官関係の見直しが、政治のアジェンダとされてきた。2001年1月の行政改革にもとづく内閣法4条改正による首相発議権の法制化、内閣府新設、内閣官房機能の強化などは、こうしたアジェンダに応えたものだ。とはいえ、割拠的な各省官僚機構の改革は手つかずのままである」
「問われているのは、官から民へなどのスローガンのもと政府事業の一部を民営化することではない・・・官のリストラと再チャレンジ社会の創造は、どちらも地方分権改革と表裏の関係にある・・・官僚機構の役割を高次の政策課題に関する政権の補佐・補助機能に純化し、内政事項の多くを自治体に移管する分権改革こそが、官のリストラを促進する」
「改革続行をいう政権は、こうした結果を総括した上で、第2期三位一体改革に着手すべきである・・だが、大規模な国庫補助負担金廃止は、機関委任事務制度の廃止以上に官僚機構の抵抗が伴う。それだけに安倍政権は、95年の地方分権推進委員会のような外部の学識者からなる諮問機関を設置し、その検討に委ねるのでなく、政権主導で立ち向かわねばなるまい」(10月5日)
同じく日経新聞「安倍政権、経済政策の課題」は「揺れる地方財政。カギは分権、壁は中央」でした。「がんばる地方応援プログラム・・・少子化対策などで一定の成果をあげた自治体に交付税を上乗せ配分する案が有力だ。交付税に一種の成果主義を採り入れる試みだが、手法次第では新型交付税で収入が減る自治体への穴埋めに使われる恐れがないわけではない。国による政策誘導の色が強まれば、交付税が第二の補助金と化し、地方の自由度がかえって低下する可能性もある」
「これまでの分権改革は中央省庁の抵抗で骨抜きになった歴史の繰り返し。小泉政権での国と地方の税財政改革(三位一体改革)も霞ヶ関との利害対立で中途半端に終わった。地方の悲鳴に揺れる地方財政改革だが、最大の壁は中央にあるのかもしれない」(10月5日)

三位一体改革74

1日の朝日新聞連載「検証構造改革」は、辻陽明記者の「地方分権かけ声倒れ、ムダ生む構造なお温存」でした。
補助金削減といっても、国の権限を残したまま補助率を引き下げたりで、自治体の裁量範囲はほとんど広がらなかった。地方への負担の押しつけもあった。
所得税が3兆円税源移譲されたが、交付税率を変えなかったので、交付税は1兆円削減となっている。補助金削減4兆円と税源移譲3兆円との差額1兆円と併せ、地方は2兆円損をした、との解説です。
「歴代政権が手を付けなかった難題に数値目標を設けて挑もうとした首相に、地方自治体は当初、期待した。だが、最終局面で詳細な設計を官僚任せにした改革は、不発に終わったと言ってもいい」と厳しい評価がされています。こう言われても仕方がない部分もありますが、3兆円の税源移譲は評価して欲しいですね。どうでしょうか、辻さん。
6月7日の経済財政諮問会議。地方6団体の代表からの意見聴取後、改革を振り返った小泉首相の発言は、敗北宣言とも受け取れるものだった。「地方が自由にできることをやってあげないといけないが、全部の府省が抵抗している」との記述もあります。重い発言ですね。
東京新聞1日の社説は、「地方分権、流れを止めてはならぬ」でした。(8月1日)
4日の産経新聞は、「ポスト小泉、三位一体改革どう継承」を書いていました。「破綻への道?新型交付税、危ぶむ地方」「参院選で一人区反乱?おびえる自民」です。(8月4日)
(今後の進め方)
三位一体改革の今後の進め方を、学陽書房の本(9月刊行予定)に書きました。詳しくはそれを読んでもらうとして、ここでは少し違った角度から、政治学的に分析してみましょう。
三位一体改革には、二つの意図がありました。「財政の分権」と、「財政の再建」です。この二つは、全く方向の違ったものですから、別々に考える必要があります。そして、それぞれ、「主たる担い手」「内容」「手続き」を考える必要があります。
1 担い手
まず、担い手です。分権は、国(各省)は反対です。総務省の力だけでは、無理でしょう。進めるとしたら、地方から働きかけるしかありません。
再建は、地方も担う必要があります。しかし、交付税と地方歳出削減によって国の歳出削減を進めようとするなら、国が地方に働きかける必要があります。
2 内容
次に、実現を目指す内容、すなわち相手方に提案する内容です。
(分権ー具体リスト)
分権にあっては、廃止する補助金リストと金額、移譲してもらう税源の税目と金額を、地方から提示しなければ進みません。もちろん、このような補助金廃止・税源移譲といった財源の分権でなく、規制の緩和を当面の目標にすることも考えられます。その場合は、どのような項目について規制を廃止・緩和してもらいたいのか、そのリストを提示する必要があるでしょう。いずれにしても、具体的項目を提示しないと、議論は進みません。
(再建ー国が率先して行革)
再建にあっては、国と地方を含めた、歳出削減項目と金額(削減割合)を、国が提示すべきでしょう。この点、「骨太の方針2006」では歳出歳入一体改革を示し、2011年までに必要な対応額(歳出削減か、さもなくば増税)を示しました。今後、それぞれの歳出項目で、具体化されるでしょう。
その際に、「地方歳出を削減せよ」と言っても、地方団体は納得しません。地方団体は、国以上に職員数削減や給与カットをし、国がやっていない配置転換や出先の統廃合もしています。「国は地方を見習って、もっとやったらどうですか」という首長も多いです。全体的には、「国と同一歩調で進めます」がせいぜいのところでしょう。国は「国はこれだけも削減したから、地方もつきあってくれ」と範を示すべきだと思います。
3 手続き
(分権ー政治主導)
分権については、地方団体は意見書「七つの項目」を内閣と国会に提出しました。今のところ、はかばかしい回答ではないようです。その中で、「新分権推進法」が具体化に入っています。これがどのようなものになるか。もっとも、力学的には、総務省をのぞく全霞ヶ関が反対ですから、通常の法案作成手順では実のある内容は期待できません。三位一体改革は、官僚をパスし、政治主導で進んだのです。どのような政治主導が発揮されるか、そのような道筋をつけるかが課題でしょう。
(再建ー信頼と参加)
再建については、地方団体をどれだけその気にさせるかです。もちろん、地方団体の意向を無視して進めることも可能でしょうが、長期的に見て良い手法とは考えられません。政治的には愚策です。一回は強引に進めることができても、次が進みません。相手が喜んで取り組むことは無理としても、「信頼関係」の上に進める方が上策です。
その際には、内容以上に手続きが重要です。簡単に言えば、「発言と責任」です。歳出削減と増税は、誰だっていやなことです。どんな内容であっても、反対者がでるでしょう。その際には、その決定過程に地方団体にも参加してもらうのです。
内容に不満があっても、手続きに参加したら、人間は納得します。内容による正統化以上に、手続きによる正統化が重要だと思います。これは、民主主義の基本であり、負担の配分の際の王道です。「代表なくして課税なし」です。具体的には、「国と地方の場」の格上げでしょう。(8月24日)
昨日、今後の進め方を書きました。その続きで、分権推進法について書きます。平成7年に分権推進法が定められ、その一部は第一次分権改革として成就しました。今回、新分権推進法を定めるとすると、どのような点がポイントとなるかです。
私は、旧分権法の功績は、分権の理念を法律に定めることで分権を国家の政策と定めたこと=動かなかった分権を動かしたこと、そして推進委員会で基本計画を定め機関委任事務を廃止したことだと思います。では、これと比べると、新分権法はどうか。
分権の理念は、その後分権が進んだこともあり、共有されています。事態は進展して、理念から実行の段階を進んでいます。地方六団体は、「7つの提言」をまとめ、国に意見書として出しました。この項目を、どれから順に、どの程度実現するかが問題となっています。
次に、第三者機関=審議会方式です。第一次分権はこの方式で成功したのですが、その後継機関である地方分権改革推進会議は、失敗でした。三位一体改革の過程で見えたのは、官僚に任せては進まない、第三者機関でも進まない、責任ある政治家が決断しないと進まないと言うことでした。
新法をつくるには、旧法のうち何が残されているのか、項目を洗い直すことと、どのような手法をとったら進むのかを検討すること、この二つが重要になると思います。(8月26日)
19年度地方財政計画の試算が発表されました。現時点での見通しです。骨太の方針に則り、いくつかの推計を置いた数字です。うーん、これが総務省の地方財政のHPからは、たどり着かないのですよね。(8月31日)
9月1日の朝日新聞社説は「自治体の破綻、自己責任を問うなら」でした。
「自己責任を問うのならば、やるべきことがある。 まずは自治体に権限や税源をもっと移し、自立できる基盤をつくることだ。それなしに責任だけ求めるのでは筋が通らない。分権を進めつつ、自立に見合った責任を問う破綻(はたん)処理策をつくってゆく手順が欠かせない。 自治体の場合、破綻したからといって日々の行政サービスを止めるわけにはいかない。会社更生法のような再生型の制度にするのは当たり前だ」 (9月1日)
持田信樹先生編の「地方分権と財政調整制度-改革の国際的潮流」(東大出版会)が出版されました。財政調整制度改革の動きが先進国共通の潮流であり、交付税改革もその中で位置づけるべきだという考えから、編まれた論文集です。10か国との比較と、それを踏まえた地方交付税のあり方が論じられています。
日本の交付税改革では、国の歳出削減のための改革論や、事務の義務づけを無視した人口面積での配分を論じる人がいます。私は「諸外国を学べ」という主義者ではありません。しかし、世界的な、21世紀の福祉国家、新自由主義主潮の中に交付税を位置づけ、相対化して考えるのは良いことだと思います。そうすることによって、単純に歳出削減のために交付税を改革するという主張がおかしいこと、逆に交付税を「死守する」という発想もおかしいことがわかると思います。
私も、少しだけお手伝いをしました。ご関心ある方は、お読みください。(9月3日)

三位一体改革の目標と実績

                                    (単位:兆円)
補助金改革
税源移譲
交付税改革
平成14
年度
交付税総額0.8減
段階補正・事業費補正
縮小開始

「三位一体改革の方針決定」
(骨太の方針2002)
15年度
 芽だし 0.6

「目標設定 4.0」
(骨太の方針2003)
              0.2
総額1.5減
県分留保財源引き上げ
16年度
           1.0


「地方に案を考えても
らう」
(骨太の方針2004)


「H17・18分地方案3.2」
政府案2.8
             0.5
    
 

「目標設定 3.0」
(骨太の方針2004)

「H17・18分地方案 3.0」
「政府案1.7+α
総額1.2減
臨時財政対策債を含め2.9の減
17年度
1.8
「残る0.6分の地方案1.0」
「政府案1.2」
1.1.
「政府案0.6」
総額は前年並み
臨財債含め1.0の減
計画と決算の乖離是正
18年度
1.8
(H16決定分0.6、
H17決定分1.2)
1.2
(H16決定分0.6、
H17決定分0.6)
総額は1.0減
臨財債含め1.3の減
計画と決算の乖離是正
合 計
           4.7
(15年度分を含まない)
          3.0
(15年度分を含む)
5.1抑制
(16~18年度、
臨時財政対策債を含む)
補助金改革と税源移譲については、順次、数値目標が設定されたが(表中「」で示した)、交付税改革には数値目標は設定されていない。
税源移譲は、平成19年度に所得税から住民税へ移譲され、それまでは所得譲与税、税源移譲予定交付金で一般財源化されていた。
総務省の発表では、平成16~18年度の国庫補助負担金改革総額は、4兆6,661億円(平成15年度分を除く)。税源移譲に結びつく補助金改革額は3兆1,176億円(平成15年度改革分を含む)。税源移譲額は3兆94億円、となっている。

三位一体改革73

13日の日経新聞経済教室は、佐藤主光一橋大学助教授の「交付税は財政調整に特化」「補助金で財源保障、機能分離の視点を明確に」でした。(6月13日)
原稿の校正をしていて、HPの間違いを見つけました。「地方案の実現度」の表です。17年秋に官房長官が各省に補助金廃止の割り当て(合計6,300億円)をしました。各省はほとんどそれに答えなかったのですが、いくつかの省が回答しました(合計1,178億円)。もっとも、その中には地方団体が求めていなかったもの(166億円)が含まれていました。それをこの表でどう表示するか、悩ましいのです。例えば、総務省は10億円の割り当てに対し、10億円の満額を回答しました。しかし、そもそも地方団体の要求に、総務省分はなかったのです。今回、各省回答数字を改め、地方案以外は括弧書きにしました。(6月19日)
今日20日の日経新聞は、連載「分権のデザイン、財政から描く」を書いていました。「地方交付税見直し。我田引税、改革遠く」という内容です。夕張市の財政再建団体への記事も、載せていました。(6月20日)
21日の日経新聞は、連載「分権のデザイン、財政から描く」で「自治体の起債自由化、道半ばの市場原理」でした。(6月21日)
21日の日経新聞連載「分権のデザイン、財政から描く」は、人件費の削減でした。(6月22日)
23日の日経新聞連載「分権のデザイン、財政から描く」は、破綻寸前の過疎地でした。(6月23日)
22日の朝日新聞は、坪井ゆづる論説委員と松田京平記者が「骨太、分権置き去り」「作業大詰め、届かぬ地方の声。財政再建に追いやられ」を大きく解説していました。
「昨年までの骨太作りと大きく違う。三位一体改革で論じられた分権の影が薄いのだ。巻き返しを図る自治体側は12年ぶりに、内閣と国会に意見書を提出し、新地方分権推進法の制定を求めるが、地方交付税の減額といった財政再建の大合唱にかき消されている」。ぜひ原文をお読みください。(6月22日)
毎日新聞6月25日の「発言席」は、交付税の削減に関して、井戸敏三兵庫県知事の「過疎地に住むな、なのか」でした。(6月26日)
三位一体改革によって、国と地方の税収配分がどう変わるかを表にして、「国と地方の税源配分」に載せました。また、税目別の国と地方の取り分を図示したものも載せました。どの税金が大きいか、どの税金で地方の取り分が小さいかがよく分かります。「続・進む三位一体改革4」の原稿用に作った表です。自治税務局寺崎補佐の協力を得ました。ご利用ください。(6月23日)
27日から日経新聞で、神野直彦東大教授による「やさしい経済学-地方財政改革」の連載が始まりました。(6月27日)
2日の日経新聞ニュース入門は、地方交付税改革を大きく解説していました。(7月2日)
28日の日経新聞夕刊は、知事に対する地方交付税に関するアンケート結果を載せていました。改革で重視すべき点は、1番が行政サービス維持に必要な財源保障機能の維持、2番が算定・総額決定への自治体の参画、3番が国が特定の事業に誘導する算定方法の廃止、4番が特別会計への直接繰り入れでした。(7月1日)
3日の朝日新聞は、交付税アンケートを大きく載せていました。「削減、小自治体に打撃」です。この記事の当否は別として、近年の交付税の削減は、小規模自治体にきつく利いているはずです。
まず、小さな自治体の方が、交付税依存が大きいのです。同じように交付税が削減されても、財政力の強い団体と弱い団体とでは、効果が違うのです。東京都、名古屋市、過疎の町を比較してみてください。東京都はそもそも交付税をもらっていない、名古屋市は少ししかもらっていないから減っても影響は少ない。ここでは、小さな町=財政力の弱い町と考えています。次に、近年、段階補正と事業費補正を削減しました。これらの補正は全国的な制度ですが、小さな町に大きく利いています。その削減は結果として、小さな町に削減が大きいのです。
この記事では別に、「身にしみる負担」が取り上げられていました。もっとも、これまでその町が独自で行ってきた優遇策が削減されるのなら、それは致し方ないことです。そのための財源を、他の事業を縮小するか増税するかで、確保するしかないのです。どこからも、お金は降ってきません。(7月3日)
(続三位一体改革は?)
7日に、「骨太の方針2006」が閣議決定されました。各紙が、歳出歳入一体改革の具体的方針を決めたことを伝えています。しかし、地方財政・地方交付税については、総額の抑制などが議論になっているだけで、三位一体改革その2や分権については、ほとんど取り上げられていません。8日の日経新聞地方面が、交付税総額減額を回避したことを、いくつかの知事の意見とともに紹介していました。(7月8日)
7日の朝日新聞は、地方交付税に関する全国市区町村アンケート結果を大きく解説していました。小自治体に削減の大波。検診やごみ収集有料化、行政の役割問う機会に。公共事業、実質ゼロも。柱は職員数カット、などの見出しです。(7月7日)
月刊『地方財務』2006年7月号が発行されました。拙稿「続・進む三位一体改革」4が載っています。
早速訂正です。p114資料37の注4で「30.094億円」とあるのは「30,094億円」の間違い、注5で「7.393億円」とあるのは「7,393億円」の間違いです。(7月4日)
遅ればせながら、留守中の記事などを紹介します。
(骨太の方針2006)
11日の朝日新聞では、松田京平記者らが「分権、役割論議から」「骨太方針に一括法見直し。カネの攻防一休み」「闘う知事会、色あせ」を詳しく解説していました。
11日の日経新聞は「財政、次への課題・上」で、地方財政を取り上げていました。「かみ合わぬ国と地方」として、骨太の方針2006で地方財政改革が不十分だった点を指摘しています。「財政優先か地方分権優先かの水掛け論をしている余裕はない。税源と権限を地方に移す基本に沿って、国と地方の関係を一体的に見直し、制度を再設計することが求められている」。
12日の日経新聞経済教室「正念場の財政再建、小泉後の課題2」では、小西左砂夫教授が「地方は財政責任果たせ」「国依存から自立を、相互扶助を軸に収支均衡」を書いておられました。骨太の方針と地方財政の将来像について、バランスよく解説しておられます。ぜひご一読ください。
(全国知事会議)
12、13日と松江市で、全国知事会議が開かれました。
13日の日経新聞地方面では、中西晴史編集委員が、これについて「分権改革、論議今ひとつ」と解説しておられました。「三位一体改革推進も闘う知事会議も消えた。12日の全国知事会議最大のテーマは国・地方の税財政改革(三位一体改革)の第1ラウンドを終えた来年度以降の分権改革の進め方だったが、論議は迫力を欠いた・・」。17日の日経新聞は「全国知事会の研究・上」を載せていました。「色あせる闘う姿勢」「陳情復活、目立つ形骸化」です。(7月17日)
11日の読売新聞「論陣論客」では、増田寛也岩手県知事と堺屋太一さんが、「骨太方針、見えぬ分権改革」のインタビューに答えておられました。14日の読売新聞では青山彰久記者が「岐路に立つ闘う知事会」「分権改革の議論停滞。歳出削減圧力に防戦一方」を解説しておられました。(7月18日)
21日に政府は、先に地方6団体が提出した意見書に対する回答を閣議決定し、全国知事会長らに渡しました。回答は、まだ関係のHPには載っていません。日経新聞21日夕刊などによると、回答は「骨太の方針2006」の引用に終始し、事実上のゼロ回答だということです。(7月23日)
24日の日経新聞は、谷隆徳記者の「全国知事会の研究・下」「かすむ分権の理念。市町村に配慮、守りに腐心」を載せていました。「最近の知事会の議論は低調だ・・」「各県トップが一堂に会する知事会議は本来、もう一つの政府である。国のかたちを論議するふさわしい場だ。地方から矢継ぎ早に改革案を突き付けないと、分権改革は小休止になりかねない。知事会の真価が問われている」(7月24日)
産経新聞は25日から、「小泉構造改革の決算」を連載しています。第1回は、規制緩和でした。第2回の今日は、三位一体改革です。「三位一体改革は、地元に補助金を運ぶ代わりに票を集めた地方選出議員にとって最も痛い改革になった」「三位一体改革は、地方財政が抱える問題点を浮き彫りにした。しかし、地方の自立に向けた処方箋は示されていない」。(7月26日)
地方6団体の三位一体改革推進ネットに、6団体からの意見書に対する内閣総理大臣の回答と、それに対する6団体の評価が載っています。(7月26日)
28日の毎日新聞連載「縦並び社会、格差克服への提言」では、「地方の自立へ向けて」として、長野県栄村村長が「交付税を本来の姿に」、石原信雄さんが「経済の原則を抑えると活力がなくなるが、放置すると地域格差が大きくなる。その格差に政治がどうかかわるかが重要だ。ある程度の地域格差はしかたがない。しかし、東京一極集中を放っておくと地方の購買力が低下し、企業の経営や経済全体にも跳ね返ってくる・・・東京に本店のある企業が納める法人税などは、全国で上げた利益によってもたらされる。都会が地方に税金を回すのは当然だ・・・中央省庁が持つ経済政策の権限を道州制で地方に移し、地域が企業にとって魅力ある施策を打ち出せるようにすることも不可欠だ・・」といった趣旨のことを主張しておられます。(7月30日)