カテゴリー別アーカイブ: 政と官

行政-政と官

首相指示の失敗事例?その1

6月から、定額減税が始まりました。この政策については、問題が多いと指摘されています。いろんな人の話を聞くと、次のように整理できそうです。
一人4万円(所得税で3万円、住民税で1万円)減税になるのはうれしいでしょうが、巨額の借金を増やしていることを考えれば喜んでいてはいけないのでしょう。減税総額を上回る景気回復が起きればよいですが、そうでなければ将来の国民からは苦情が出るでしょう。

それはさておき、問題になっているのはその手法です。国民にわかりにくいこと、手法が複雑で担当者(事業所の給与支払者、市町村役場の担当者)からは恨みの声が聞こえます。
まず、4万円程度の一度きりの減税を喜ぶのは、低所得者です。しかし、4万円以上納めていない人にとっては、このような減税は効果がありません。低所得者対策なら、給付金が効率的です。
では、今回はどうするか。減税できない人、減税しきれない人には、別途給付金を配るのです。それなら初めから全員に給付金にすればよいのに。

減税の恩恵を受ける人も、実は実感がわきにくいのです。給与明細書に減税を明記するように政府は指示しているようですが、多くの人は源泉徴収は会社に任せてあって、毎月の給与明細書は見ていますが、よくわからないままに手取額を確認しています。これは源泉徴収制度の欠点です。自ら申告するなら、どれだけの税金を払うのか切実になるのですが。給付金なら、口座に4万円振り込まれる、あるいは現金でもらうと、実感がわきますよね。

なお、NHKの世論調査(6月)では「今月=6月から、1人あたり年間で、所得税が3万円、住民税が1万円減税されることへの評価」は、
「大いに評価する」7%、「ある程度評価する」33%、合計40%。
「あまり評価しない」34%、「まったく評価しない」18%、合計52%です。
この項続く

日本での政策の作られ方

2月10日の朝日新聞に、元アマゾンでロビイストをしておられた渡辺弘美さんの話「ロビイスト、企業が政策を動かす」が載っていました。

・・・ 企業の立場から政策を動かす「ロビイスト」への注目が高まっている。巨大IT企業が国家をしのぐ影響力を持ちはじめるなか、政策をゆがめる恐れはないのか。政府と企業の関係はどうあるべきなのか。霞が関から米アマゾンに移り、ロビイストの草分け的存在として長年、日本政府と向き合ってきた渡辺弘美氏に聞いた・・・

―ロビイングとは何でしょうか。
「私は政府の認識や理解、行動を正しい方向、多くの人がそうだと思う方向に補正する作業がロビイングだと考えています。これを利益誘導と混同しているロビイストが多い。私はアマゾンという企業と、社会の利益が一致するときにだけ動いてきました。会社から『何とか政府を説得しろ』と言われて、『できません』と断ったケースもいくつもあります」

―日本でのロビー活動は欧米と違いますか。
「欧米と日本では政策のつくられ方が違うため、ロビー活動の方法は異なります。米国などでは議員が多くのスタッフを抱え、影響力のある法律をつくるケースが少なくない。日本は、ほぼ霞が関の中央省庁が法律の原案や細かいルールを作ります。我々ロビイストも、霞が関の方との関係づくりや情報交換が重要になります」

―ロビイングは必要なのでしょうか。
「政府が100%スマートなら、ロビイングは必要ないと思います。しかし現実はそうなっていません。役所の職員は与党や官邸から飛んでくるボールを拾うだけで精いっぱいです。一部の学者がいくつもの審議会や有識者会議を兼務し、法に基づき企業がつくった報告書を読んでいるのか怪しいときがあるし、発言にバイアス(偏り)がかかっているように見えるときもある。政策の透明性が高まり開かれたものになるのなら、ロビイストの活動を規制してもよいと思います」

―企業が影響力を強めすぎると、民主主義をゆがめることになりませんか。
「それはその通りだと思います。でも、ぜんぶ官僚と政治家に任せればよいのでしょうか。私はそうは思いません。企業以外の人たちの声も、もっと政治に届けることが答えになると思います。欧米ではNGO(非政府組織)や消費者団体が熱心にロビー活動をしています」

かつての政と官

日経新聞「私の履歴書」1月は、元財務次官の武藤敏郎さんでした。

15日の「政官関係」に、次のような話が載っています。
・・・細川護熙非自民連立政権の1994年度予算編成の話を続ける。社会保障担当の主計局次長として、野党自民党きっての厚生族議員である橋本龍太郎政調会長に状況を報告しなくてはと考えた。自民党本部を訪ねると、閑散として人の出入りがほとんどない。
橋本さんは「我々は野党だから、次長さんのような偉い人がわざわざ来なくていいよ」と皮肉交じりの口調で話された。真顔に戻ると「僕は自民党と大蔵省は夫婦みたいな関係だと思っていたよ。だけど、いざ下野すると、役人どもは冷たいね」とつぶやかれた。
私は「官僚は時の政権に仕える立場なので・・・」と口ごもった。橋本さんは「それはきれい事だな」と納得されなかった。自民党が大蔵省に向ける視線は厳しかった・・・

20日の「主計局長」には、次のような話が載っています。
・・・私は2001年に情報公開法の施行を控え、予算編成の透明性の向上が重要な課題になると考えた。族議員や各省と密室で調整を重ねるばかりでは、財政再建にも限界がある。国民の理解を深めるオープンな情報発信の努力も必要だと思った・・・

「官僚は政治家の道具ではない」

12月24日の読売新聞、千正康裕氏の「官僚 政治家の道具ではない」から。

・・・官僚が外に出向く時間が取れない最大の要因は、国会対応です。「質問通告」では、国会の各委員会で質問に立つ議員から事前に内容を聞き取り、閣僚らの答弁を準備します。議員の質問通告が前日に届き、深夜残業することも日常茶飯事です。直前にならないと、実際に質問があるかどうかも分からないため、夜に予定を入れることはできません。現場に行きたくても、「行けるかどうか分からない」という前提では面会のアポイントをお願いできないのです。その結果、官僚の情報収集ルートは狭くなります。

国会では、これまでも質問通告の早期化を幾度となく申し合わせてきました。しかし、依然として改善は進んでいません。かけ声倒れに終わらないように、国会の委員会の開催が決定された日時と、各議員の質問通告時刻の公表をセットで行い、可視化する必要があります。官僚は、政治家が目的を達するための道具ではなく、公共財だと考えます。与野党が利害対立を乗り越えて協力し、国会改革を進めるべきです・・・

・・・官僚の業務は、国会対応以外にも増えています。その分、増員されるわけではないので、官僚の「労働密度」はおのずと高まります。こうした環境では、勉強時間が取れません。様々な現場を自分の目で見て、自分の足で歩き、自分の頭で政策を考えることがだんだんと難しくなる。政策立案能力を高めるために、もっと官僚に時間の余裕と裁量を与えるべきです。

そもそも深夜残業が前提の働き方では、自分自身の家族と過ごす時間も満足につくることができません。官僚も今の若手の多くは共働きです。昔の霞が関のように、家事や育児は家族に任せ、夜中までずっと職場にいても大丈夫だという人は少なくなりました。
理想は、ムダな仕事を排し、国会対応も効率化し、政策立案能力に優れた官僚と政治のリーダーシップが融合することです。僕の本意は「官僚に楽をさせてあげたい」のではなく、官僚が担っている政策立案機能は社会的に大切で、その機能が「壊れる」と国民が最終的に困るから止めたいのです・・・

政治主導と官僚制のあり方

10月2日と3日の日経新聞経済教室が「政治主導と官僚制の行方」を2回にわたって取り上げていました。

2日は嶋田博子・京都大学教授の「「誠実型」実現に国民関与を」です。政治家と官僚の関わり方を、「指示からの自律性」と「政策形成への関与度」の2軸で考察しています。
1960年代までの日本の官僚を高い自律と政策形成への高い関与であるとし、「国士型」と位置づけます。70年代からは、族議員の支援の下で活発な政策形成を行う、自律性はやや下がる「調整型」です。
2014年の幹部一元管理によって、政策関与度は高いままに自律性をなくす「家臣型」を目指したと評価します。一方で90年代以降、与えられた課業だけを行おうとする「吏員型」が出現しました。指示待ち官僚です。

3日は内山融・東京大学教授と藤田由紀子・学習院大学教授による「英、官僚の中立性を守る工夫」でした。
政治家が個別官僚の人事異動に関与すると、官僚の中立性が損なわれるとともに、官僚たちが萎縮する、あるいはごますりになる恐れがあります。それを防ぐために、イギリスがたどり着いた仕組みを紹介しています。

現在の官僚たちの不安と不満を踏まえると、この論点は重要なものです。詳しくは原文をお読みください。