カテゴリー別アーカイブ: 復興10年

復興庁の二つの顔

吉原直樹編著『東日本大震災と〈自立・支援〉の生活記録』(2020年、六花書房)に、菅野拓・大阪市立大学准教授執筆の「復興庁の二つの顔ー計画行政と再帰的ガバナンス」が載っています。

表題のように、復興庁の組織と運営を、二つの部分に分けて分析しています。
・・・結論から言えば、復興庁は復興特区制度を中心とした比較的フォーマルな政治過程を経て決定された「計画行政(一定の公の目標を設定し、その目標を達成するための手段を総合的に提示した計画に基づいて行われる行政)」を用いて復興関連の事業管理を行うという、主として行政向けの顔と、ソフト事業や当初から計画されていたわけではない事案の対処などを中心として、多様なアクターと情報をやり取りしながら観測結果に基づいて臨機応変に施策を調整・立案する「再帰的ガバナンス」を行う、主として多様なアクター向けの顔の両面を持つ組織として存在している・・・」(10ページ)

ご指摘の通りです。そこにも指摘されているように、理由は次のようなものです。
被災者生活支援本部と復興庁が行わなければならなかった仕事は、被災者支援と復興です。手法としては、既にある制度を利用する、ない場合は既存制度を改変する、やってくれそうな組織を探す、新しい制度をつくるでした。
1 既にある制度を使う場合や既存制度を改変する場合は、所管省庁や自治体にお願いすればよい、予算手当や法令改正をすればすみます。従来型行政です。
2 他方で、行政がやったことのない分野(被災者の孤立支援、避難所の生活環境改善、産業再開支援、コミュニティ再建支援)は、引き受けてくれる省庁があればお願いし、そうでないことは復興庁が直営しました。
直営と言っても、現場で課題を拾ってくる、その解決策を考えるのは、国の公務員より民間から来てくれた職員が主体になりました。産業再開支援は企業から来てくれた人たち、被災者支援関係は非営利団体から来てくれた人たちです。
各省から人を集めたのですが、とても足らないので民間からも来てもらいました。その人たちを配属するに当たって、自ずからそれらの分野になったのです。
初めてのことですから、手探りで進めました。関係者の理解があり、予算や法令を柔軟に対応できたので、これだけの仕事ができました。
さらに、企画はこの民間出身公務員が担いましたが、実施は市町村役場もできず、非営利団体などに担ってもらいました。
3 こうして、既存型政策は国家公務員が従来型行政手法で行い、新しい分野と手法の政策は民間出身公務員が現場の人たち(企業や非営利団体、住民)の意見を聞きながら作っていったのです。民間人が政府に入って、政策を立案し実行する、新しい形を作ることができたと思います。

ふくしま12市町村移住支援センター

福島県12市町村への移住・定住を促進するため、福島県は、ふくしま12市町村移住支援センターを設置しました。開所式
センター長には、藤沢烈さんが就任しました。よい人事ですね。行政と非営利団体(関係者)とが、協働する時代が来ました。

藤沢烈さんの「あいさつ」から。
・・・東日本大震災から10年が経ちました。原発事故からの避難地域12市町村では、少しずつ帰還が進んでいます。復興に向けた最大の課題の1つが、「地域の担い手」にこの地域に来て頂くことです。12市町村による移住の取組を支え、全国の皆さまに移住の情報を伝えることを目指し、「ふくしま12市町村移住支援センター」を開設しました。

移住を考える皆様には、「仕事」「生活」「制度」の三つの情報をお伝えしていきます。福島復興にむけて多様な仕事が生まれており、移住者の皆様への住宅と生活サービスも整いつつあります。こうした情報をお伝えするウェブサイトと相談窓口を運営していきます。

12市町村での復興と移住が進むためには、何より地域の皆さまの支えが欠かせません。帰還された方、そうでない方、先に移住された方が力を合わせて復興に取り組まれてきており、皆さまの支えによって移住者が地域の担い手になることができます。センターは、福島に関わる全ての皆さまに感謝の念をもち、12市町村の魅力を伝えていきます・・・

廃炉法制定を

7月8日の日経新聞「私見卓見」に、尾松亮・東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員が「福島第1原発に「廃炉法」制定を」書いておられました。

・・・東京電力福島第1原子力発電所の廃炉には「30~40年かかる」といわれ、東電と政府の工程表は2051年までの終了を目指している。しかし「どんな状態を達成したら廃炉が完了なのか」を定めた法律がなければ、住民の安全は担保できない。福島第1原発の廃炉にかかわる立法措置を訴えたい。
日本には事故を起こした原発について廃炉の完了要件を定めた法律がない。つまり政府・東電は51年になれば、福島第1原発の状態にかかわらず廃炉の終了宣言を出すことができる。さらに廃炉工程の安全性を定めた法律もないため、危険な作業の強行も可能だ。
1979年に事故を起こした米スリーマイル島原発や86年の旧ソ連・チェルノブイリ原発では、廃炉完了にの要件を法律や規則で定めていることを知ってほしい・・・

私も、その趣旨を含んだ提案をしています。「提言、原発事故復興基本法案

おいしくて安全な浪江町の水道水

福島県浪江町の水道水が、国際的な品質評価機関であるモンドセレクションで『金賞』を受賞しました。「町長の言葉

吉田町長は、次のように話しています。
・・・多くの方々が喜んでくださっているのは間違いありませんが、世間の注目度の高さは「風評」の裏返しという部分もあります。
ご承知の通り、水道水の取水場では放射性物質に対する監視を行い「測定限界値未満」であることを監視(24時間365日)していますし、万一、放射性物質が検出された場合は、自動的に弁が閉まる仕組みとなっておりますので、放射性物質が入った水道水が家庭に送られることはありません。(これまでそうした事態が起きた事はありません)
町では、このように安全性を確保し、水道水を提供しています・・・

一部に風評も残りますが、安全な事実の公表を続けて、理解してもらいましょう。

津波被災地での農業復興実績

東北農政局が、「みやぎの地域農業復興事例20 ~ふるさとを次世代につなぐ。挑戦し続けた10年の軌跡~」を作ってくれました。
大津波で、たくさんの農地が被災しました。がれきに覆われ、海水(塩水)に浸かり、地盤が沈下し、用水路が壊れたりしました。そして、従事者も減りました。

資料を見ていただくとわかりますが、次のような事例が紹介されています。
・法人化を通じた大規模土地利用型農業の実現
・最先端技術を駆使した施設園芸の展開
・多様な主体の活躍による地域農業の再生
単に元に戻すのではなく、被災を機に、新しい農業に取り組みました。兼業の米農家では、未来はないのです。
私も、この事例のいくつかを見に行きました。感じたのは、国の助成金も必要ですが、それ以上に必要なものがあります。
やる気のある従事者がいるかどうか、家業でなく事業として成り立つか、最先端の技術で日本いえ世界と勝負できるか、です。