7月18日の朝日新聞「少子化を考える 山田昌弘・中央大教授に聞く」「若者の経済不安、見つめなかった対策」から。
日本の少子化が止まらない。1990年、前年の出生率が過去最低の「1・57ショック」が社会を揺るがし、少子化問題が大きくクローズアップされた。しかし、30年以上経ったいま、状況は悪化している。対策のどこがまずかったのか。中央大の山田昌弘教授(家族社会学)に話を聞いた。
――6月に発表された人口動態統計で、2023年に生まれた日本人は過去最少、「合計特殊出生率」も1・20と過去最低だったことが分かりました。少子化の要因は何だと思いますか。
少子化の要因が「未婚化」ということは、私を含む多くの学者が何十年も前から唱えていることです。ただ、いまの若者も結婚への意欲が衰えているとは思いません。未婚化には結婚の経済的側面が影響していると考えます。
――将来にわたってリスクを回避できる見通しがないと、結婚や出産を控える若者が多いのですね。
30~40年前の若者たちの場合、「日本経済はこの先も大丈夫」「子どもを豊かな環境で育てられる」と信じることができた。人並み以上の生活が送れるということを疑わなかったから結婚に踏み切ることができたのです。
ところが、1990年代初頭にバブルが崩壊。日本経済は停滞し、非正規社員が増えるなど若者の間で格差が広がりました。中流生活から転落するという不安が強まり、「親のような豊かな生活は築けない」「子どもに惨めな思いをさせたくない」と考える若者が増え、結婚や出産を控えるようになったとみています。
――人口減少が深刻な地方では、若い女性が進学・就職時に都会に出てしまうことも少子化の要因の一つと指摘されています。
ここ10年ほどの大きな変化として、地方から東京に出てくる若者は男性より女性の方が多くなりました。働き方や地域社会の因習を女性を差別しないかたちで変えていかない限り、若い女性は地元に残らず都会に出て行き、地元で生まれる子どもも増えません。
――少子化問題は30年以上も前に認識されながら、なぜ有効な対策を打てなかったのでしょうか。
非正規雇用者の増大という現実を見ずに、結局、政府の少子化対策が「大卒、大都市居住、大企業勤務」の若者を想定したものだったからです。私は東京23区では対策は有効だったと評価しています。東京23区では2006年ごろから子どもの数が上昇に転じ、約10年間は増え続けた。夫婦2人が正社員で共働きしながら子どもを育てるというモデルが定着しつつあったのだと考えます。
一方、他の地域では失敗しました。日本の若者のうち、かなりの部分を占めている自営業、フリーランス、非正規雇用や中小企業に勤める若者たちの実態を踏まえた対策ではなかったからです。