6月26日の朝日新聞「追い詰められる女性たち第2部1」「年2万人「消えたい」と感じさせる社会 清水康之氏に聞く」から。
・・・日本では毎年2万人超が自殺で亡くなっている。主要7カ国(G7)の中で自殺率が高く、女性の自殺者数はトップだ。その背景や自殺対策の現在地などについて、NPO法人「ライフリンク」の清水康之代表に聞いた。
――昨年の自殺者数は2万1881人でした。1日に60人弱の方が死を選んでいます。現状をどうみますか?
2003年に自殺で亡くなる人は、3万4千人と最多になり、06年に自殺対策基本法ができて、その後2万人台まで減りましたが、下げ止まっている状況です。
日本社会に、「死にたい」「消えたい」と思わせるような悪い意味での条件が整っている。この視点を強調して発信し続けなければならないと思っています。
――ライフリンクによる自殺者523人の実態調査から見えてきたこととは?
その多くが「追い込まれた死」でした。自ら死を積極的に選んでいるわけではない実態が見えてきました。その人らしく生きるための条件が失われていたのです。
自殺で亡くなった人は平均で四つの悩みや課題を抱えていた。理由が複合的であることも分かりました。と同時に、じわじわと自殺に向かって追い詰められている。自殺の行為だけでみると瞬間的ですが、そこに追い込まれていく過程をみるという捉え直しが必要なのです。
さらに重要な発見は、職業や立場によって、自殺に追い込まれる状況には一定の規則性があることです。例えば失業者であれば、失業したことで生活苦に陥り、借金を抱え、精神的に追い込まれて自殺に至る。働く人なら、配置転換などの職場環境の変化で過労に陥り、人間関係の悪化も重なりうつになり自殺に至るといったものです。
こうした自殺の典型的な危機経路が明らかになってきました。原因が社会性を帯びているのです。自殺は個人的な問題であると同時に社会的な問題として捉えるべきです。
毎年2万人台前半が自殺で亡くなっています。1年間、この社会をこのまま回していくと、2万人が「もう生きていられない」状況に追い込まれる社会構造とも言えます。
――国内の自殺対策の現在地は今どこになりますか?
10をゴールとすれば、今は5だと思います。06年に自殺対策基本法が施行され、16年の大改正で都道府県と市町村で地域自殺対策計画をつくることが義務づけられました。
市町村単位で自殺者の性別、年代、職業、原因、同居人の有無など細かいデータを把握することができ、それに基づき計画をつくり、関係機関が連携して対策にあたるようになりました。研修も行い、首長がその旗振り役を担うという自覚も生まれています。計画を策定しているのは都道府県すべてですし、市町村も95%にのぼります。
検証も進められ、自殺総合対策大綱が見直される度に地域自殺対策計画策定のガイドラインも見直されることになっており、ようやく日本の自殺対策のPDCA(計画・実行・評価・改善)が循環する状態まできました。
ただ自殺者は下がる傾向とはいえ、2万人台です。まず、課題としては、子どもの自殺の実態解明をして、それに基づき総合戦略を立て、関係機関が連携し、対策を推進する流れをつくらなければいけません。もう一つの課題は、社会全体の自殺リスクを減らすために、社会保障や介護制度など大枠の制度も変える流れに持っていく必要があると思っています。
まだ2万人を超える人が亡くなり、子どもの自殺が増えています。そこの課題が残る5の部分だと思っています。
自殺というのは孤立というより、生きる場所がないということが大きな問題だと思っています。そこにアプローチできる社会にしていかなければなりません・・・