6月16日の朝日新聞オピニオン欄、竹内行夫・元外務事務次官のインタビュー「外交のプロが見る世界」から。
――政治家と官僚、政治と外交については体験が豊富ですね。
「自分が退官した後の日本外交の問題で、どうしても指摘せざるを得ないと思い詰めたのが、北方領土問題です。それはウクライナ侵攻よりもずっと前のことですが、プーチン・ロシアによるウクライナ侵攻と北方領土の不法占拠は、基本的には同じ問題です」
「私は北方四島帰属の問題の解決をうたった東京宣言から2島先行返還に方針を切り替えた安倍晋三首相について、平和時の外交交渉において『国家主権を自ら放棄した歴史上初めての宰相』になるかもしれない、と危惧しました。これはかなり厳しい言い方だと思いますが、思いとどまってほしいという切なる気持ちがそれほど強かったのです。当時、プロフェッショナルである外務省の後輩たちはどんな気持ちでいたのかといたたまれない思いがしました」
――もしも現役の外交官で、首相官邸がこうした政策変更を決断してきたらどうしましたか。
「どうでしょう。今回の北方領土をめぐる問題では、官邸の方針と異なる意見を出すと、仕事から外されてしまったという声も聞きました。政治と官僚の関係も、私が現役の頃とは、違っています。ただ、私自身、重要な政策について、たとえ『孤独な戦い』と分かっていても、自分の考えを文書にし、訴え続けるといったことをしたことがありました」
参考「竹内行夫さんの外交証言録」