地仙ちゃんはよほどおナカが減っていたのでしょう、チマキを包んでいたササの葉まで食べてしまいました。そこで、その食いっぷりを見ていたほかのお客さんたちが、
「なかなかいい食いっぷりだね」と喜んでたくさんクイモノをくれます。
「うふふ。大きな船に乗るといいことありまちゅ」と言いながら地仙ちゃんは、たちまちのうちにすべて食べ尽くしてしまいました。
「もっと食べたいのー。・・・あちょこのコドモのアタマでも食べちゃおうかちら」とか言い出しているので、これはいけません。
地仙ちゃんの目をクイモノから反らすために、先生は船酔いを押しておハナシを続けないとなりません。
「ち、地仙ちゃん、み、見てごらん、長江というのは大きな川だろう」
「え? ちょうでちゅね。・・・大きな川だから、おチャカナもいっぱいいるの?」
「そうだよ、いろいろいるよ」
「あ、ヘンなのいまちゅ」地仙ちゃんが波間を指差しました。
「ああ、あれは・・・ヨウスコウイルカだね・・・。チュウゴクで「河豚」と書くとあのヨウスコウイルカのことなんだよ。ちなみに海のイルカが「海豚」だ」
「へー。「河豚」はフグではないのね。イルカ、まるまる肥ってておいちちょう。・・・また何か食べたくなってきたの。あのおばさんのおチリ齧っちゃおうかちら」
「あ、いや、地仙ちゃん、あのヨウスコウイルカはエラいんだよ。季節の変化に敏感に対応して春になると必ず現れるので、約束を守るシンボルとされているんだ」
「どうして季節の変化に敏感に対応ちゅるの?」
「それは・・・水温とかタベモノの関係じゃないかなあ・・・」
「タベモノ? 地仙ちゃんも敏感でちゅ。あの赤ンボウのお手テ、おいちちょう・・・」
「あわわ・・・ち、地仙ちゃん、アレ、あんなのもいるよ」
先生は波間にいるワニを指差します。
「あれはヨウスコウワニだ。大昔から強いドウブツとしてひとびとの崇拝の対象で、竜のモデルのひとつとされているんだ。最近の発見でも、古い墳墓の中から、死んだひとの東側にヨウスコウワニ、西側にトラそっくりの石を並べた図が出てきたんだ。東方の守り神蒼龍と西方の守り神白虎と考えられている。またワニの皮で聖なる太鼓を作ったことも記録にある。ヨウスコウワニのことを「ダ」と言い、①がその字だ。カッコイイだろう」
地仙ちゃんは強いモノが大スキなので、ヨウスコウワニを夢中で見ています。先生はとりあえずほっとしたのですが、しばらくすると地仙ちゃんが、「ヨウスコウワニ、カッコイイの。どういうモノ食べるとあんなに強そうになれるの?」と質問してきました。
先生がどう答えていいか悩んでいるうちに、
「なんでも食べれば強くなれるのかちら。ニンゲンも食べた方がいいのかちら・・・」とか言い出していますので、先生は大慌てです。
「船が着いた後でニンゲン以外のモノなら何でも食べさせてあげるから、ニンゲン食べるのだけはカンベンしてくれ~」
と約束しなければなりませんでした。