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社会

大企業の2割が博士採用なし 

2月17日の日経新聞に「大企業の2割「博士採用ゼロ」 経団連調査、競争力低下も」が載っていました。

・・・日本企業で博士人材の活用が進んでいない。経団連が16日発表した調査によると、2022年度に博士課程修了者の採用数がゼロだった企業が23.7%に上った。能力に見合った仕事や待遇に向けた環境整備が遅れている。欧米に比べ高度人材の不足が目立ち、競争力が劣後する恐れがある・・・
・・・文部科学省などの調査では、博士号の取得者数を米国や中国など主要7カ国で比べると、人口100万人あたりで日本は20年度に123人だった。ドイツ(315人)や英国(313人)の4割にとどまる。
企業の博士号保持者は日本が2万5386人(22年)で米国は20万1750人(21年)と大きな開きがある。
米国では巨大IT(情報技術)企業群「GAFA」が博士人材を大量採用し、新技術を生み出している。アサヒグループホールディングスの小路明善会長は「博士人材は環境変化の激しい時代に新規事業の開発などで活躍できる。日本の産業強化に不可欠だ」と話す・・・

これまでの日本の労働慣行、特に事務系では、新卒を一括採用し、さまざまな部署を経験させて育てていくことが基本でしたから、大学院卒を採用する利点がありませんでした。
大学に教えに行っていたときに、公務員志望の学生から「大学院に行った方が良いでしょうか」と相談を受けることがありました。「悪くはないけど、特に勉強したいことがないなら、大卒で公務員になって、それから自分の分野を深めたらどうですか」と答えていました。
大学院卒を採用して、どのような仕事でその能力を発揮してもらうかをはっきりしないと、この状況は変わらないでしょう。

幼少からの英語熱、異常な状態

2月22日の朝日新聞「早期教育へのギモン3」「幼少からの英語熱「異常な状態」 認知科学者・大津由紀雄さんに聞く」から。

グローバル化に日本経済の衰退。子どもの将来を思って「英語を身につけさせたい」と考える保護者は多いです。英語の早期教育の広がりに、言語の認知科学が専門の大津由紀雄・慶応大名誉教授は「異常な状態」と警鐘を鳴らします。

――英語を使って未就学児の保育を行うプリスクールに子どもを通わせる親も増えています。
母語がまだ確立されておらず、自分で母語をコントロールできない子どもに、大人が英語だけの環境を人為的に与えるのはどう考えてもおかしな話です。(英語教育の過熱ぶりは)率直に言って、異常な状態だと思っています。
「子どものために」といいますが、親の傲慢ではないですか。人為的に英語環境に置くことが子どもにとっていいことなのか、親は冷静に考えるべきです。子どもの心の発達にとって重要な時期を、英語でかき乱されてしまうのは子どもも親もかわいそうです。

――外国語を本格的に学び始めるのは、母語をコントロールできるようになってからでも遅くはないということですか。
決して遅くはありません。極端な話ですが、ただただ英語を話せるようになってほしいという親には「一刻も早く英語圏に移住してください」と助言します。子育て中の親で「英語を話せればそれでいい」と考える人はいないと思いますが。
小学校では、日本語で書かれた本を通じ、言葉の仕組みや働きを理解することが重要です。言語学習の基礎ができたら、今度は外国語の文法の仕組みや働きを学ぶ。外国語を本格的に学び始めるのは、中学校からでも遅くはありません。

高校生、まじめ化進み安定志向に

2月20日の日経新聞教育欄に、尾嶋史章・同志社大学教授の「高校生像、40年間の変化 「まじめ化」進み安定志向に」が載っていました。詳しくは記事を読んでいただくとして。
真面目になっているのですね。もう一つ、学校への不満が少なくなっています。ほかの居場所を持てるようになったからということ、学校側の対応も変わったからとのことです。

・・・兵庫県内の高校十数校の3年生を対象とした調査を1981年から40年以上継続し、東京大学の多喜弘文准教授や広島大学の白川俊之准教授らとともに分析を進めている。その結果から読み取れる高校生の変化について、4回続けて調査できた8校のデータ分析を通して考えてみたい。
調査は81年に始まり第2次が97年、第3次が2011年、そして第4次が22年に実施された。第1次と第2次の間にはファストフード店やコンビニエンスストアが街に広がり、ポケベル・PHSという情報ツールの普及で生徒は親や教師から逃れ、自分たちの居場所を持てるようになった。
そのことと学校の生徒対応の変化が相まって生徒の学校への強い不満を中和させ、自己実現や自分らしさを表現できる場へと高校生活を変えていった。

第3次調査以降にみられた90年代からの大きな変化は、それ以前の高校生とは異なる姿だ。勉強や部活動に熱心で、クラスメートとも協調して物事に臨む「優等生的」な生徒が増えた。
第1次・第2次調査では「授業や勉強に熱心である」と回答した生徒は3割台にすぎなかったが第3次では56%に達し、第4次でも5割以上を保っている。
授業に充実感が「いつもある」「しばしばある」という生徒も第2次以前は2割程度だったが、第3次以降は半数近くまで増えた。部活動に熱心な生徒が増加し、遅刻や校則違反をするような生徒は減少した・・・

・・・もう一つ、第4次調査からみえてきたのは進学動機の変化だ。大学進学希望者に限ってみてみると「学生生活を楽しむ」や「自分の進路や生活を考えるための時間」を選択する生徒が減少し、「希望する職業に必要」や「進学する方が就職に有利」を選択する生徒が増えている・・・

教員の精神疾患対策

2月20日の朝日新聞教育欄に「先生のための「心の保健室」を 休職6000人超 メンタルヘルス対策、刀禰真之介さんに聞く」が載っていました。詳しくは記事を読んでいただくとして。

・・・文科省の調査では、「精神疾患で病気休職をしたり1カ月以上病気休暇を取ったりした教員」の割合は20年度に全体の1・03%だったが、22年度には1・33%に増えた。一方、厚生労働省の調査によると「1年間にメンタルヘルス不調で連続1カ月以上休職した労働者又は退職した労働者」の割合は、1千人以上の事業所では20年の0・8%から22年には1・2%になった。
いずれも割合が増えたのはコロナ禍の影響だろう。職場に行けなかったりマスクでコミュニケーションがとりにくかったりという環境の変化が主要因と考えている。教員の場合、一般の労働者より精神疾患の割合が高いのは、心の健康への取り組みの水準が極めて低いからだとみている・・・

・・・一般企業は労働安全衛生を守る意識が浸透しつつあるが、学校はその意識が乏しい。新たに休職する人や復帰後再び休職する人を減らす仕組みが不十分にみえる。例えば文科省の有識者会議がまとめた「教職員のメンタルヘルス対策について」によると、校長は休職中の教員に定期的に連絡をとり状況を把握し、復帰の時期を検討する。校長が中心の「一本足打法」といえる。この方法では校長の負担が増え、教員側は管理職の面談をたびたび受けなければならずプレッシャーになる・・・

・・・ キーワードは「信頼」。教員と産業保健職との信頼関係をつくることだ。メンタルヘルスの研修は産業医や産業保健師が行う▽心身の状態が悪くなったとき、同じ医師や保健師に話を聞いてもらえるようにする▽休職中に状態を話す面談もその保健師が担うという仕組みを考えている。「教職員のための保健室」が機能するようにしたい。
少子化が進めば、必要となる教員が少なくなり、採用倍率が高くなる――。そんな考え方は甘いと言わざるを得ない。人手不足で労働力の獲得に各業種がしのぎをけずる時代。病気休職が増え続ける職場を若者が選ぶとは思えない。下がり続ける教員採用試験の倍率を上げ、教育の水準を高めるには精神疾患の問題の解決が欠かせない・・・

ボーゲル氏が指摘した日本社会のリスク

3月5日の日経新聞に、小竹洋之・コメンテーターの「さらばJTC、今度こそ 株高を経済再生の追い風に」が載っていました。
・・・「アフター2.22」――。日経平均株価が34年ぶりに最高値を更新したその日に、日本は生まれ変わったかのような喧噪ぶりである。ユーフォリア(陶酔)とは言わないまでも、どこか浮ついたムードが漂う。
企業の稼ぐ力や経営効率が高まり、世界の投資家から一定の評価を得ているのは喜ばしい。賃金と物価の上昇にも好循環の兆しが見られ、バブル崩壊後の長き経済停滞から抜け出すチャンスをつかみかけているのは確かだ。
それでも旧態依然の伝統的な企業を「JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)」と揶揄する声はやまない。国内総生産(GDP)で世界4位に後退した「ジャパン・アズ・ナンバーフォー」の現実が、一夜にして覆るわけではない・・・

原文をお読みいただくとして、ここでは、最後についている警告を紹介します。
・・・米社会学者のエズラ・ボーゲル氏が1979年に出版した「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は、日本の戦後復興の秘訣を明らかにするとともに、そこから米国が学ぶ際のリスクにも言及していた。①個性や創造性の圧迫②異端者や少数者の冷遇③転職や離婚が招く苦難④外国の製品や人材を締め出す愛国主義⑤完全な合意形成を求めるが故の膠着――である。
私たちにとっては、今も耳が痛い指摘ばかりだ。日本の再生に求められるのは、企業の変革だけではあるまい。広い意味でのJTC、つまり「ジャパニーズ・トラディショナル・カルチャー」のあしき部分との決別ではないのか・・・