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慶応大学2008春学期

2008年春学期
行政学特論Ⅰ「行政管理論日本の行政と官僚」土曜日第2時限(10:45~12:15)
2007年度に引き続き、行政管理論を講義します。内容は大きくは変わりませんが、組み立てなどを変更します。
講義の狙い
日本の統治は、中央政府と地方政府で分担されています。中央政府にあっては、執政(executive)を担うのは内閣(政治家)であり、執行(administration)を担うのは各府省(公務員)です。地方政府にあっては、前者は首長で、後者は市役所(公務員)などです。
行政管理論は、この執行についての学問です。つい最近まで、日本の公務員は世界一優秀であると評価されていました。しかし近年、大きな批判にさらされています。なぜこのように、評価が急激に変化したのでしょうか。ここに、行政と官僚だけでなく、それを包含した日本の政治や社会の転換が表れているのです。
この講義では、日本の行政機構と官僚制を解説するとともに、転換を求められている日本の官僚制と行政について、同時代的視点から分析します。
授業計画
第1章 日本行政の成功と失敗
1 私たちの成功
2 私たちの失敗
第2章 行政機構と官僚制
1 日本の行政機構
2 日本の官僚制
3 官僚の失敗への批判
4 官僚制の限界
5 責任の所在と対応策
第3章 政治の役割と行政の役割
1 政治の機構と担い手 
2 官僚主導から政治主導へ
3 政治の役割
第4章行政構造改革
1 行政改革の進化 
2 行政の構造改革
授業予定
4月12日 開講、ガイダンス、はじめに(1 分析の視角)
4月19日 (2 行政と行政学)、第1章(1 私たちの成功)
4月26日 第1章(2 私たちの失敗)
5月10日 第1章続き。小レポート提出期限
5月17日 第2章(1 日本の行政機構、2 日本の官僚制)
5月24日 第2章続き
5月31日 休講
6月 7日 第2章(3 官僚の失敗への批判、4 官僚制の限界)
6月14日 第2章続き(5 責任の所在と対応策)
6月21日 第2章残り、第3章(1 政治の機構と担い手、2 官僚主導から政治主導へ)
6月28日 第3章続き(3 政治の役割)
7月 5日 第3章残り、第4章(1 行政改革の進化)
7月12日 第4章残り
配付資料
レジュメ p1~5(4月12日)、p6~8(4月19日、p8は小レポートの課題)、p9~12(4月26日)、p13・14(5月14日)、p15・16(6月21日)、p17・18、レポートの課題(6月28日)
資料 1-1~1-3(4月19日)、日経新聞小冊子(4月26日)、2-1~10、人事院パンフレット、国家公務員Ⅰ種ガイド、受験案内、内閣府パンフレット(5月10日)、厚労省パンフレット(5月17日)、2-11、厚労省パンフレット、総務省パンフレット2種類(5月24日)、3-1~3-5(6月14日)、4-1・4-2(6月28日)、4-3~4-6(7月5日)
参考
昨年の講義を基に、「行政構造改革-日本の行政と官僚の未来」を、月刊『地方財務』に連載中です。
また、「新地方自治入門-行政の現在と未来」(2003年、ぎょうせい)が、参考になります。

講評

今日、66人の成績評価を終えました。一人ひとりの学生にとっては、重大なことですから、私としても真剣・慎重になります。一通り読んで点数をつけた後、何度か読み返します。減点主義だと低くなりがちなので、良いところを探して、引き上げます。授業を理解していない(聞いていない)レポートが出てくると、悲しくなります。一方、学生がこれだけのものを調べて書いているのかと、感心するのもあります。この人は、文句なくA。
多くの人は、分量や内容に関して「良くこれだけ書いたな」と思うくらい、努力の跡が見えました(一部の人を除きます)。また、地方制度の現状や分権の課題などについて、十分理解してもらえているようです。この点については、安心しました。以下、講評を述べます。
1 テーマ
第1課題「地方公共団体への議院内閣制導入の是非」を選んだ人は10人、第2課題「道州制」を選んだ人は49人、第3課題「その他」を選んだ人は7人でした。
2 形式など
課題のペーパーに「評価の基準」として、「外してはいけない要素」「体裁」などを指示しておきました。これを守っていないレポートは、当然、評価は低いです。結論またはポイントを書いていないもの、長所短所を書いていないものです。
数人ですが、誤字のとてつもないもの、白紙が挟まっているもの、文章の途中で活字の大きさが変わるもの、「ですます」と「である」が混在しているものがありました。研究者の論文を引用する際に、氏名を間違えているものも。提出する前には、読み返してください。
3 道州制について
道州制についての理解は、ほぼ全員できていました(一部の人を除く)。
評価が低いのは、次のようなものです。
私の授業を無視して、議論を展開するもの。例えば、授業で取り上げ資料も配った「第28次地方制度調査会答申」に言及せず、第27次答申で議論するもの。都道府県・市町村の上に、さらに道州制を載せるものとして議論をするもの。それも一つの考えですが、その際には、なぜ都道府県を存続させるのかを、述べておくべきでしょう。
行政論を述べず、区割りだけを議論するもの。「立法権を付与する」と書いて、その内容や問題点を書かないもの。理由なく、長所短所を羅列するだけのもの。
道州制を導入すると、財政再建ができ、分権が進み、住民が自立するなど、考察もなくバラ色の社会を描くもの。国との対比をするだけで、現在の都道府県がどう変わるかを述べないもの。
評価が高いのは、次のようなものです。
バランス良く論点に言及しているもの。あるいは、論点が多いので、ある点に絞って深く考察しているもの。このテーマは論点が広く、それに言及し出すと、分量が大変になります。よって、論点を絞ることが望ましいでしょう。例えば、基礎自治体との関係に絞った人、経済に絞った人、行政分野を分けてメリットを分析した人などです。
4 議院内閣制と首長制について
制度と運用を、区別しない議論が多かったです。例えば、地方議員の資質が低いので、議院内閣制は導入すべきでないとか、議員立法が少ないから議院内閣制は導入すべきでないなど。また、首長制の方が市長が強いリーダーシップを発揮できるというのもありました。予算や条例を成立させるためには、議会の同意が必要です。小泉内閣を見ても、「議院内閣制だからリーダーシップが弱い」とは、言えません。
5 第3課題について
これを選んだ人は、それぞれのテーマについて、それなりに勉強していました。文献を読んで勉強していることは評価できるのですが、本人の意見・分析となると、何人かを除いて、踏み込みは少なかったです。
6 そのほか
授業の内容を、そのままレポートにしたのもありました。それはうれしいのですが、課題には「あなたの意見を書きなさい」と入れてあります。また、文献の書き写し=要約もありました。よく勉強しているのはわかりますが、これも、Aを上げるわけにはいきません。
私の授業では、地方自治の基本的知識と現在の問題を理解すること、そして日本の行財政に関心を持ってもらうこと、できればニュースを見て自分としての判断ができるような能力を身につけること、を目指しています。その意味もあって、テストでなく、レポートで採点しています。レポートを書くことで、あるテーマについて、授業を超えてさらに自ら勉強してもらえるからです。これからも、関心を持ち、自らの判断でニュースを見るようにしてもらえれば、幸いです。

レポートの採点

大学から、学生のレポートが送られてきました。これから66人の力作を、読ませてもらいます。レポートを読んで採点するのって、結構な労働なんですよ。
読みやすくするために、最初に要約か結論を書き、見出しをつけることを指示してあります。これがあるのとないのとでは、大違いなのです。私が読みやすい、だけではありません。書いている本人も、何を言いたいのか、整理できます。

秋学期の授業終了

今日で、秋学期の授業は終了。予定した内容を、講義し終えることができました。もちろん、まだまだお話ししたいことはあるのですが。
授業って、難しいですね。本に書いてあることをしゃべるだけなら、「本を読んでください」ですみますし、学生からすれば「それは本で読みました」になります。とはいえ、学部生への講義ですから、一通りの基礎知識も教授しなければなりません。しかし、それだけではつまらないですよね。もう少し掘り下げた難しいことも、話さなければ。大学院なら、問題点についての講義ですむのですが。
基礎知識については、全体像をいかにわかりやすく教えるかがポイントです。時間が限られているので、詳しい内容まで説明できません。重要な事項を、地方自治の全体像の中でどこに位置するかがわかるように、お話ししました。課題については、その背景と現在の動向をお話ししました。その際には、最新の資料を配りました。この資料の準備は、結構大変なのですよ。もっとも、これも実務家教員のセールスポイントです。
「地方行政って、こうなっているんだ」と理解してもらい、「こんな問題があるのだ」と知ってもらえれば、成功です。
基本的知識を習得してもらい、問題点を知ってもらう。そして、興味があれば、自分でさらなる勉強をしてもらう。これが、大学の授業でしょう。そして、ものの見方を身につけてもらえれば、満点ですね。
その点、秋学期の地方自治論は、バランス良く講義できたと、自己評価をしています。もちろん、自己満足でなく、学生たちの意見を聞かなければなりませんが。授業終了後に、拍手をもらいました。儀礼であっても、うれしいですね。
最後まで出席してくれた学生たちに、お礼を言います。特に、少々難しい話の時に目を輝かせて食らいついてきた学生と、笑って欲しい小話の時に笑ってくれた学生に。

授業再開

冬休みも終わり、大学の授業を再開。といっても、来週で終わりですが。今日は、第8章地方財政の課題です。ここは、私の本業分野です。1学期間でも話しきれないほど、話すことがあります。でもそれを、1時間半に収めるのです。そこで、ごくごくポイントを絞って、話しました。資料もわかりやすいのを用意したので、理解してもらえたと思います。
全体像とポイント、現在の仕組みと問題点、それとわかりやすい実例。これがうまくいくと、わかりやすい話になります。今日は、満足。