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行政-行政機構

その4 行政管理と行政経営、地域経営

民間でのマネージメントは、行政では行政管理になります。その改革が、行政改革です。これまでは、行政改革は組織のスリム化・効率化に主眼がおかれていました。それは重要なのですが、マネージメントや市役所の経営という観点からは、スリム化だけでは狭いのです。「効率化」の他に、「有効性の向上」が必要なのです。それは、住民が欲しているサービスを提供しているかです。市役所の生産物である行政サービスが、顧客である住民の要求に応えているかが、問題なのです。今あるサービスをよりやすいコストで行うだけでなく、どのようなサービスを提供するかを問わなければなりません。
すると、行政管理という言葉は不適切になります。これは、決められたことを間違いなく実行することです。せいぜい効率化までしか、担当しません。顧客重視、成果重視になると、行政管理にとどまらず、行政経営という視点が必要になります。
さらに、市役所の経営だけでなく、地域の経営が課題になります。住民が求めるサービスは、行政サービスだけではありません。商店・文化・交通・娯楽、その他のサービス業などなど。民間のサービスをどう確保するかも、重要な問題です。そして、それらより先に、雇用の場をどう確保するかが重要です。これらは、市役所のスリム化や市役所組織の経営を考えているだけでは、でてきません。しかし、働く場がなくなって住民がいなくなったら、自治体は成り立たないのです。

ダム建設、有識者意見と国の結論

12日の日経新聞は、「淀川4ダム整備、不透明に。有識者会議がノー」を解説していました。国土交通省が計画する淀川水系の4つのダムについて、国交省の外部有識者会議が、見直しを求める意見書を出したのです。記事にもあるように、国がつくる有識者会議は通常、国の方針を追認することが多いのですが、これは極めて珍しいケースです。
実は2003年にも、この4ダムを含む5つのダムについて、委員会は建設抑制を提言しました。しかし、国は2007年夏に、建設案をつくったのです。元委員長は、「形式的な手続を踏むために、委員会を開いただけ」と批判しています。詳しくは、原文をお読みください。

その3 財政改革・行政改革・地域の経営

拙稿「地方財政の将来」(神野直彦編著『三位一体改革と地方行財政』(2006年、学陽書房)所収)に、今後の地域の行財政運営のあり方について書きました。
そこでは、財政運営だけでなく、市役所の経営や地域の経営にまで視野を広げて、議論しました。財政改革は必要ですが、財政は市役所運営の財政的裏付けでしかありません。市役所を経営体と考えれば、より広く行政改革が必要であり、さらには組織統治が必要なのです。ここで言う行政改革は、より小さなコストでよりよいサービスを目指すことです。組織統治(広義)は、民間企業での経営と対比したもので、事業の品質管理(クオリティー・アシュアランス)、法令順守(コンプライアンス)、企業統治(狭義、コーポレート・ガバナンス)の3つです。
さらに視野を広げれば、市役所もまた、よりよい地域を作るための道具でしかありません。すると、地域の経営、すなわちよりよい地域を作るにはどうしたらよいかを、考えなければなりません。そこでは、何が市役所の目標であるかを考え直すことと、行政の守備範囲(行政以外の公共サービスを提供する主体との連携)を考える必要があります。

その2 政府のパフォーマンスへの疑問

このように、マネージメントは組織(会社、政府)の内部に着目したものです。一方、ガバナンスは、その組織を作った者との関係まで視野を広げます。すなわち、組織を株主や国民から委託された代理人と見なして、どれだけ委託者(株主、国民)の意向を反映しているかを見るのです。
このような議論が始まったのは、次のような背景があります。企業にあっては、会社は株主のもの(アメリカ的考え)か、経営者と従業員などのもの(日本的考え)か、という議論がありました。所有と経営が分離された段階で、所有者(株主)と経営者(会社)との関係が、問題になったのです。オーナー社長の場合は、これが問題になりません。
政府にあっては、国王が国家・国民・政府の所有者である場合は、オーナー社長です。しかし、民主主義になって、国家と政府の所有者が国民になると、委託者である国民と受託者である政府の関係が問題になります。
政府にあってガバナンス論が大きくなったのは、政府の機能不全があります。1970年代まで、日本を筆頭に西欧先進諸国では、政府・経済・社会が蜜月時代にありました。好調な経済成長に支えられ、政府は行政サービスを拡大し、また国民から信頼されていました。しかし、その後、経済成長の低下とともに、財政赤字の拡大、政府の非効率が目立ち、政府のパフォーマンスに疑問が持たれるようになったのです。
行政改革、新自由主義的改革、NPMなど、いくつものアイデアが持ち込まれました。そして、行政機構内部の改革(スリム化・効率化)から出発して、政府の生産物(政策や行政サービス)を問うところまで議論が広がりました。スリム化は、現在のサービスを前提として、効率化を目指します。生産物を問う場合は、そもそも政策が国民の期待に応えているかが、問われます。顧客重視です。続く。