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行政-行政機構

警察の縦割り弊害解消

8月5日の読売新聞解説欄に「警察の縦割り 弊害解消へ 運営新指針を公表」が載っていました。

・・・警察庁が7月、都道府県警に対し、組織運営の新たな指針を示した。SNSの「闇バイト」対策などを盛り込んだ。昨年7月の安倍晋三・元首相銃撃事件をきっかけに、問題となった要人警護だけでなく、全ての部門で社会情勢の変化に応じた見直しを進めていく方針だ。

警察庁が全部門にわたり具体的な業務内容を示して都道府県警に組織運営の指針を示すのは初めてだという。警察庁の露木康浩長官は7月6日の記者会見で「情勢の変化と組織の現状を分析し、警察力の最適化を図る」と説明した。
安倍元首相銃撃事件では、都道府県警が作成する警護計画を警察庁がチェックする仕組みになっていないなど、「安易な前例踏襲」が明らかになった。警察業務は元々、パトロールや交通取り締まりなど日々の繰り返しが多い。各部門で同様の前例踏襲による弊害が生じていないか――そうした問題意識で、指針が策定された。
新指針は、〈1〉部門を超えた人的資源の重点配置〈2〉能率的な組織運営〈3〉先端技術の活用〈4〉働きやすい職場環境――からなる。

このうち〈1〉では、組織内に残る「縦割り」による弊害の解消に重点を置いている。
都道府県警ではこれまで刑事、生活安全、警備、交通など部門ごとに課題に対処してきた。殺人が起きれば刑事部門が捜査を行い、防犯対策は生活安全部門が担う。テロであれば警備部門の担当だ。
だが近年、SNSの普及や暗号資産、ドローン、AI(人工知能)といった技術の発展によって社会が大きく変容し、縦割りでは対応しきれない事象が増えている。
例えば、SNSで強盗や特殊詐欺などの実行役を募る「闇バイト」では、互いに名前も知らない者同士がSNSでつながり、事件ごとにメンバーを替えながら犯罪を繰り返す。組織犯罪の側面を持ちつつも、暴力団など旧来の犯罪組織とは明らかに異なる。
各地の警察には犯罪集団の解明に当たる組織犯罪対策部門があるが、闇バイトについてはこれまで捜査は刑事部門、SNS対策はサイバーを担当する生活安全部門などとバラバラに対処してきた。
そこで、新指針ではSNSなど緩やかな結び付きで離合集散を繰り返す集団を「匿名・流動型犯罪グループ」と定義し、組織の解明と捜査を担う専従班を都道府県警に設置する。部門をまたいで捜査に参加し、闇バイト犯罪の撲滅を目指す。

組織に属さずにテロをもくろむ「ローン・オフェンダー(単独の攻撃者)」についても、部門間の連携を強化する。刑事部門の捜査や、地域部門の巡回などを通じて危険性のある人物の情報を入手した場合に、警備公安部門に集約する仕組みを取り入れる。
警察庁幹部は「闇バイトやローン・オフェンダーによる脅威は国民の『体感治安』の悪化に直結している。全部門の人員を活用して対策に取り組む」と話す・・・

「公文書を守れ」

月刊誌『文藝春秋』8月号に、「公文書を守れ 高市捏造発言、森友事件を叱る」という座談会が載っています。福田康夫・元首相、上川陽子・元公文書担当大臣、老川祥一・読売新聞会長、鎌田薫・国立公文書館長(前早稲田大学総長)、加藤丈夫・前国立国会図書館長(元富士電機会長)による座談会です。

福田総理が法案作成の決断をした理由、担当大臣に上川大臣を任命した理由などを話されているのも興味を引きますが、本年春の元総務大臣の「捏造」発言や重要裁判記録の廃棄問題、森友学園に関わる文書改ざんなどの近年の問題から、原爆開発や金大中事件、トランプ問題まで、実に幅広く文書に関する話題が取り上げられていて、充実した内容です。
そして、公文書は、国家がいまこうなっていることを説明するための資料だということ、これを作成・管理するのは公務員ですが、それを勝手に改ざんしたり捨てたりすることは言語道断であるとお叱りがあります。
詳細は原文をお読みいただかなければいけませんが、まずはこんな肩書や経歴の人たちが公文書についてこんなに心配していることに、驚きです。確かに国家や社会の仕組みを知り尽くした人たちの視点からみると、公文書の重要性がよく理解されるものなのでしょう。

二点、気のついたことを書きます。
一つは、アーキビストという専門職についての期待です。「自分たちの文書は自分たちが責任を持つ」というのが日本の官僚の基本的な姿勢でしょう。外部の専門家をうまく業務の中に取り込んでいけるのか、現状の風土では難しいと思います。とはいえ、公文書の改ざんや廃棄という問題が続くと、「公務員たち自身に任せておけない」との意見が強くなるでしょう。

もう一つは、これだけのメンバーがいながら、官僚出身者が一人もいません。この分野での役人の発言権が無いこと、発言しようとする者もいないことが、さびしいかぎりです。この対談の中に、実務の面から見た提案や将来像が入っていれば、充実していたと思います。関連した公文書管理の経験者などの発言を期待します。
情報公開法の制定や内閣法の改正、公文書管理法などによって、役人の仕事ぶりがどう変わったか変えられなかったなど実務者としての正直な経験を話したり、あるいは国民との共有の仕方についての提案をしてほしいのです。本来、文書を作り保管している役人こそが、発言と提案をしていくべき分野です。そういう提案ができるような雰囲気を少しづつでも作っていきたいと、わたし自身の問題として思いました。
なお、これに関連したことを、コメントライナー「行政文書は正確か」に書きました。

文化庁の京都移転

5月22日の朝日新聞文化欄「文化庁の京都移転を考える

井上章一・国際日本文化研究センター所長の発言から。
・・・私個人としては、文化庁の方々に、ややお気の毒だなという印象です。移転は地方創生事業の一環ですが、文化庁は様々な文化、芸術を担っており、東京のほうがメリットが大きいと言い続けました。移転が決まり、職員が何を思っているか。「なんで自分たちだけが都落ちしなければならないのか」という魂の叫び声が聞こえてきます。
京都側も抵抗したことがあります。京都は地方ではない。地方という言い方を変えてくれと。そういう京都側と、地方創生目的で移転した文化庁が、うまく折り合いをつけられるとは思えませんが、来てしまったので前向きに考えなければなりません。

霞が関の役人は、すべてを書類で判断します。京都では、文化が営まれている現場を目にして頂きたい。その楽しさ、おもしろさに目覚めてほしい。そうすれば、書類だけで動く霞が関文化が変えられるかもしれません。外交的な場での武器にもなるはずです・・・

河島伸子・同志社大学教授の発言から。
・・・文化庁の京都移転が「関西の活性化にどうつながりますか」とよく聞かれますが、京都の応援や関西の活性化のために文化庁が来たわけではありません。一番大事なのは、地方の視点を持つということです。
公演や展覧会といった文化のイベントや施設は、東京に集中しています。それぞれの地方に豊かにある文化への目配りが、今まではどうしても薄かったと思います。京都に移ることで、文化庁の職員も「地方都市とはこういうことか」と実感を持ってわかるのではないでしょうか・・・

長屋聡執筆「第二次臨調以降の行政改革施策」2

長屋聡・前総務省総務審議官が「第二次臨調以降の行政改革施策を振り返って(その1)」に続き、季刊『行政管理研究』3月号に、その2を書いています。

今回は、規制緩和・規制改革を扱っています。行政による社会経済への介入を削減することです。過度な介入を減らし、民間活動を活発にして、経済発展と国民生活の利益を上げようというものです。
主な規制改革の事例が、1990年代、2000年代、2010年代に分けて、表になっています。若い人は知らないでしょうから、よい資料になると思います。

行政改革が、かつてのような行政組織の改革から、それが行う作用の改革、社会への介入の改革に移っていることがわかります。

学校現場への文書半減の試み

4月20日の専門情報誌「官庁速報」が、「学校現場への文書半減=山梨県教委」を伝えていました。県の教育委員会から学校に、1年間で1500枚もの文書が送られているとのことです。
新型コロナウイルス感染症に関して、各省から自治体に膨大な数の文書が送られたことを、かつて紹介しました。役所で仕事をしているとき、送りつけられる大量の文書を「紙爆弾」と揶揄していました。あまりにたくさん来ると、処理できずに放置され「不発弾」のままで埋もれてしまいます。受け取る方の事情を知らずに、自分の方の都合だけで仕事をすると、こんなことが起きます。

・・・山梨県教育委員会は今年度から、市町村教委や学校現場へ送る文書を半減させる取り組みを始めた。国や各種団体からの通知を県教委が精査し、「送付しない」「市町村教委に留め置く」などと分類。共有の必要があるもののみ、要点をまとめた文面と共にグループウエアや校務支援システムで学校現場に送信する。
県教委によると、学校現場に送付される文書は年間1500枚以上に上る。事務負担を軽減し、教育の質向上を図る。教員の担い手確保にもつなげたい考えだ。

今後、国が行う調査やアンケートは、学校基本調査など法律に基づくものや、いじめ調査など児童生徒の命に関わるもの以外、県や市町村教委が分かる範囲で回答し、教員が対応する文書の数を減らす。
県による調査やアンケートは、必要性や方法を見直し、政策立案が目的の場合は必要最低限で実施。可能なものは標本抽出で行う。毎年定例的に行っている調査などは、2~3年に1回などに頻度を下げる・・・