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一人暮らしの高齢者を支える、フィンランド。その2

高橋絵里香著『ひとりで暮らす、ひとりを支える』の続きです。

本では、ディアコニという職業が紹介されています。フィンランド福音ルーテル派教会にある職です。社会サービスや援助活動をします。社会サービスの学位や看護の学位を持っています。

町のディアコニの事務所は、月曜から木曜の朝9時から10時が対応時間です。やってきた人たちは、椅子に座って順番を待ち、その日の担当者と話をします。
人生の悩みを打ち明けに来る人、血圧を測りに来る人、食料品をもらいに来る人など。どんな内容であれ、助けて欲しいことがあれば、ディアコニが相談窓口になっているようです。
血圧を測りに来る人も、食料品をもらいに来る人も、話し相手が欲しくて、それを理由に来ているようです。

福祉国家が成立する前は、地方でその役割を果たしていたのは、教会だったのです。医療などの身体的必要は行政が担うようになって、ディアコニは精神的、社会的支援を担うようになったのです。
前回紹介した、どのように死を迎えるかとともに、経済的支援と身体的サービスの次に求められるのは、このような精神的、社会的支援でしょう。
これをどのように実施していくのか、日本の行政の次の大きな課題だと思います。

「生きることの社会学」

川田 耕 著『生きることの社会学 人生をたどる12章』(2019年、世界思想社)を本屋で見つけて読みました。大学生向けの入門書です。

目次を見ていただくとわかるように、人生の各段階で出会う社会との関係を、わかりやすく説明しています。出生、学校、恋愛、子育て、仕事、老い、死・・・。
初学者には、この入り方は良いと思います。
私も地方行政を話す際に、朝起きてから寝るまで、生まれてから死ぬまで、どのように、どれだけ自治体の世話になっているかを説明して、自治体との関係を実感してもらっています。

第6章成長における幻想と文化、第7章攻撃性の社会学は、学生を対象とした本ならではの項目ですね。よく考えられています。
もちろん、このような構成で書かれていますから、社会一般や組織論は出て来ません。それは、次に勉強してもらうのが良いでしょう。

認知症の行方不明者1万7千人

6月20日の新聞各紙の夕刊が、「認知症の行方不明者1万7千人」を伝えていました。2018年に認知症が原因で、警察に行方不明届が出された人の数です。大変な数です。

71%の人は、届け出の当日に無事が確認されています。25%の人は2~7日以内に発見されて、全体の96%が受理から1週間以内に見つかっています。他方で、車にはねられるなど、死亡者は508人です。

変わる日本の労働慣行

6月18日の日経新聞企業欄に、「採用新時代 会社が変わる 背水の「適所適材」 スキル重視、「日本型」転換 人材争奪 世界の土俵で」が載っていました。新卒一括採用などの雇用慣行が変わりつつあることの報告です。

・・・「営業の仕事はしたくなかった」。三井住友海上火災保険に2019年春に入社した松下真彩さん(22)はこれまでの新入社員の常識とは違った言葉を口にする。
保険会社の新人は営業の基礎をたたき込まれるのが一般的だ。同社に今春入社した約450人の新卒の多くも営業職として社会人のスタートを切った。ところが松下さんが配属されたのは債券や為替などの金融商品に投資する「投資部」。専門分野に配属されたのは15人という狭き門だ・・・
・・・三井住友海上は保険商品を設計するアクチュアリー(保険数理人)など専門4分野を対象に「スペシャリスト採用」を始めた。京都大学や留学でファイナンスなどを学んだ松下さんは大手商社の総合職の内定も獲得した。三井住友海上を選んだのは「確実に投資部門に配属される」からだ。
給与や残業もあり得る働き方など、松下さんの処遇は他の総合職と大きく変わらない。しかし希望し続ける限り投資に関連した部署に在籍する。同社は「スペシャリスト採用の枠を広げることを検討する」という・・・

・・・経団連が推進するのが「ジョブ型」雇用だ。働く人が専門性やスキルを基に仕事内容や勤務場所を決める欧米で主流の制度だ。会社の仕組みをジョブ型に転換する動きも広がり始めている。
オリンパスは4月、国内にいる約1800人の全ての管理職を対象にジョブ型人事制度を導入した。管理職への30代の抜てきや外国人社員が日本の本社の事業責任者級に就く例が目に見えて増えてきたという・・・
・・・欧米のジョブ型雇用にならい、個人の役割や必要なスキルを大まかに記したジョブディスクリプション(職務記述書)も定めた。報酬は職務で決まり、必ずしも給与は右肩上がりではなくなった。年功序列時代とはまた違った緊張感が社内に生まれているようだ・・・

そうですよね。みんながみんな総合職や一般職である必要はないですよね。いままでが、おかしかったのではないでしょうか。
役所でも、事務官と技官(技官の中は細かく別れています)、上級職と中級・初級職といった、分野別の区別が昔からあります。
もっと、専門分化してもよいと思います。採用時から、あるいは一括採用してからです。「何でもこなす」では、この時代に生きていけません。

一人暮らしの高齢者を支える、フィンランド

高橋絵里香著『ひとりで暮らす、ひとりを支える』(2019年、青土社)が、勉強になりました。文化人類学者による、フィンランドの高齢者ケアの体験と分析です。

欧米は、日本に比べ、家族が一緒に住まない、一人暮らしが多いと聞きます。では、その場合の高齢者介護は、どうしているのか。著者は、ある町を調査対象として、実際に高齢者ケアに参加し、日本との比較をします。

元気なうちは良いのですが、誰しも衰えが来ます。その際に、どのような援助をするか。なるべく本人の意向を実現するようにします。すなわち、高齢夫婦だけの暮らしや一人暮らしを、町が支援するのです。

日本では2000年に介護保険制度を実施し、高齢者への介護サービスは充実してきました。また、予想以上に利用されています。
その次の課題が、最後(死)の迎え方だと思います。この本では、蘇生措置拒否が紹介されています。本人のほか医師も、蘇生措置拒否を決定することができます。
多くの人に、その決定がされているとのことです。体調を崩した場合、拒否していない人は病院に運ばれ、拒否者は緩和ケアになります。
この項続く