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社会

「ドイツがわかる」

岩村 偉史著『ドイツがわかる─歴史的・文化的背景から読み解く』(2019年、三修社)が、勉強になりました。現代ドイツ社会の解説書です。宣伝文には、次のようなことが書かれています。
「ドイツ人の考え方と価値観を歴史的・文化的背景から読み解き、さまざまな変化に対処していく姿を描く。
第1章では、日常から社会の多様性を取り上げ、彼らの信条や価値観を探る。
第2章では、連邦共和国、キリスト教文化、社会福祉国家、多民族国家、EUをキーワードに解説する。」

歴史や政治制度の解説ではなく、ドイツ人の暮らしの解説です。制度を知ることも有用ですが、暮らしの実態の方が、より興味深いですよね。学問の対象も、制度や政治家の歴史ではなく、国民の実態と歴史に移ってきているようです。特に歴史学です。

国によって国民性、気風が違いますねえ。国際化が進んだといっても、お国柄はまだまだ変わりません。もちろん、多様性が進むこの時代に、「ドイツ人の暮らし」と一括りにすることは難しいでしょうが。
特に、働き方、宗教、移民などが、勉強になりました。そして、ドイツ社会も大きく変化していることがわかります。
いずれ日本も、いくつかの分野において、似た変化に直面することになるのでしょう。

移民の日本社会への統合

是川夕・国立社会保障人口問題研究所 人口動向研究部第三室長の「移民受け入れと社会的統合のリアリティ――現代日本における移民の階層的地位と社会学的課題」(2019年12月2日、シノドス)が勉強になりました。是川さんの著書(2019年、勁草書房)の解説です。

日本が既に移民受け入れ国になっていることを指摘した上で、日本に来た移民たちがどのように日本社会に統合しているかを、数値を基に明らかにします。
これまでのマスコミ報道では、フィリピンパブで働く女性、農村での外国人花嫁、技能実習生の過酷な労働、コンビニや飲食店でのアルバイトなど、社会の底辺で働く外国人労働者という印象が強いです。そして、学校になじめない子供たちも。

是川さんは、そのような定番の見方を覆します。労働、女性、世代の視点から、私たちの想像とは違った、日本社会への統合が行われていることを明らかにします。
詳しくは原文、または原著を読んでいただくとして。著者の視点は、移民の日本社会での状況とともに、それを生み出す「日本社会の側」を明らかにします。
コンビニでのアルバイトや農村や工場での肉体労働だけでない、管理職、専門職、ブルーワーカーなどが、どのように会社で出世していくか。そこに、技能によって評価される専門職と、途中採用では出世できない管理職や正規職が見出されます。それは、日本型雇用慣行です。
女性にあっては、日本女性の日本社会における位置づけが、移民女性の日本社会への受け入れを規定しています。そこに、日本社会での女性の地位が浮き彫りになります。

原著を読めば良いのですが、たぶん届かないと思うので、この解説が良かったです。砂原庸介教授のブログで知りました。

移植できない言葉の背景

日本語の脱亜入欧」の続きです。

言葉は、常に変化します。
そして日本は、1500年ほど前から中国と朝鮮を憧れ、漢字を輸入した国です。明治以来の西欧語の取り込みは、第二の国語変革期とも言えます。
しかし、千年以上慣れ親しんだ漢字は、日本語の基本になっています。そこに、系統の違う、語源が違う欧米系の単語や、表記方法と発音が決まっていない(学校で教えてもらえない)アルファベット語が入ると、日本人も外国人も困るのです。

言葉は、社会的背景、歴史を背負っています。それを切り離して、単語だけ輸入しても、日本語の文章の中に、しっくりと収まらないのです。
例えば「インターネット」という言葉。「インター」「ネット」それぞれに、英語としての故事来歴があります。日本語ではふだん使われている、高速道路のインターとかゴルフ練習場のネットを思い浮かべる人が多いでしょう。この2つを想像する限りは、インターネットが何か、思い至りません。
「電網」なら、なんとなく想像できます。しかもこの方が、文字数も少ないのです。もっともこの単語では、配電線網も想像しますが。

その点、日本語にある単語から取った言葉なら、その単語の背景を知っているので、おぼろげにでも理解できます。漢字で表した単語なら、漢字が表意文字なので、さらに意味がわかりやすいです。例えば、水や食といった漢字を含んでいると、何に関するものが想像がつきます。
四文字熟語などなら、その起源である漢文や日本の古典を知っています。しかし、私たちの多くは、シェークスピアや古代ローマのキケロなどの、西欧の教養を知らないのです。

すっかり変わった日本の農村

朝日新聞社の言論サイト「論座」。山下一仁・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の「あなたの知らない農村~養豚農家は所得2千万円!現代日本の農村に「おしん」はいない」(2019年12月27日)が、分かりやすかったです。特に、図表がよいです。

まず、作物別の農家所得比較です。
水田は500万円ほど、しかもそのうち農業所得は100万円もありません。年金収入が半分を占めています。
野菜で約600万円、牛肉で800万円、ブロイラーになると1,200万円、酪農は1,700万円、養豚では2,000万円になります。
米作りの多くは、サラリーマンの兼業か、高齢者です。他方で、大規模営農をしている人もいます。畜産関係は企業経営でしょう。
ここでの問題は、家業(家内労働)でなく、企業(事業)にならないと、所得は上がらないということです。これは、商工業と共通することです。農「家」問題と農「業」問題は、別です。

なぜ、稲作は農業にならず農家で続いたか。それも、図表で示されています。
稲作は、手間がかからないのです。さらに、兼業でもできるのです。
10アール(1反)当たりの年間労働時間は、1951年の200時間から、現在では30時間に満ちません。8時間労働だと4日かかりません。
1ヘクタール(10反)だと、251日から29日に激減しています。大規模営農だと、もっと効率的です。
圃場整備、水利、農薬、田植機と稲刈り機の発達で、こんなに楽になったのです。休日に働くだけで、できます。野菜や畜産は、そうはいきません。毎日作業があります。

農家も減りました。戦後、日本の就業者の5割は1次産業でした。現在では、4%です。
農村での状況が、図になっています。1970年に農家が7割以上の集落は6割ありました。農家が5割以上を占める集落は、8割近くありました。農業集落は、ほとんどが農家でした。
現在では、農家が7割以上を占めている集落は7%、農家が5割以上の集落で見ても23%です。

日本の農村、農家、農業の姿は、この半世紀ですっかり変わりました。

日本語の脱亜入欧

アルファベット日本語」の続きです。
カタカナ語やアルファベット日本語は、主に英語などから取られます。アジアの言葉からは、まずは取られません。ここに、欧米を憧れ近づこうとした、近代日本の意識が反映されています。
そしてそのような言葉を使うことで、欧米に近づいたという気持ちになります。他方で、アジアの人たちは、私たちの視野に入っていないのです。

京都や浅草に来た外国人は、カタカナ英語やアルファベット表記の店名の店を、日本らしいと選ぶでしょうか。
彼らは、日本に日本らしさを求めてやってきています。英語表記の店名の店より、日本語の店に入るでしょう。たぶん、訪日外国人を相手にしている商店は、このことに気づいているでしょう。
そのうちに、カタカナ英語表記やアルファベット日本語は「恥ずかしいものだ」という意識が、広まれば良いのですが。

しかも悪いことに、日本人が英語と思っているカタカナ語は、その発音では外国人に伝わらないことが多いのです。
先日、地下鉄の動画広告で、次のような場面を見ました。英会話学校の宣伝です。日本人が、外国人と英語で話しています。二人が意外な関係にあったことがわかります。外国人が言った言葉が、日本人には「いつ相撲終わる」と聞こえます。吹き出しには、It’s a small world.と出ています(地下鉄の広告とウエッブの動画とは、少し違うようです)。参考「東武アーバンパークライン
この項続く