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社会

日本語の中のアルファベット

アルファベット日本語」の続きです。
私たちが意識せずに日本語の中で使っている、アルファベット語。IR、IT、NHK、JRなどなど。これを、逆に置き換えてみると、おかしさがわかります。すなわち、英文の中に、日本語由来の言葉を、漢字とカタカナで入れるのです。

英文の中に、日本語由来の言葉を、アルファベットで入れることは、さほどおかしくありません。sushi、tenpura、などなど。それは、日本語の文章の中に、外国由来の言葉をカタカナで入れることと同じです。

しかし、英文の中に、日本語由来の言葉を、漢字やカタカナのままで入れることはないと思います。”I like sushi.”はあっても、”I like 寿司.”とは表記しないでしょう。まず、英文のワープロに、漢字とカタカナは備えていないでしょう。

中国では、漢字表記の中国語に、アルファベット語を入れることはあるのでしょうか。韓国では、ハングル文字の中に、アルファベット語を入れることはあるのでしょうか。

 

 

小熊英二著『日本社会のしくみ』

小熊英二著『日本社会のしくみ  雇用・教育・福祉の歴史社会学』(2019年、講談社現代新書)が、勉強になりました。
その表題の通り、日本型雇用を通して日本社会を分析したものです。どのようにして、日本独特と言われる雇用慣行ができあがったか。その歴史的経緯と、要因とを分析しています。説得力があります。

「新卒一括採用、年功序列、終身雇用」が、昔からのものでなかったこと。経営者の意図で、または意図に反して、このような慣行が普及します。
もっとも、このような都市の大企業に代表されるような勤め人は、3割弱です。3割は地方から離れない人(農業、自営業、地方公務員、地場産業)、3割はその他(非正規労働者、中小企業で転職する人)です。

日本は「企業のメンバーシップ」型、ドイツは「職種のメンバーシップ」型、アメリカは「制度化された自由労働市場」型が支配的です。
日本以外では、企業内では社員は三層構造になります。上級職員、下級職員、現場労働者。そして企業を横断して、職務内容により採用や昇進がされます。企業内では差別があり、企業を超えた職務の平等があります。下級職員や現場労働者は、勤務評価がありません。
それに対し日本では、職務による差別を避け、社員の平等を目指しました。他方で、企業ごとに差別ができます。企業内では職務内容による差別がない代わりに、社内での頑張りで評価されます。

日本の仕組みは、官庁や軍隊から企業に広がり、戦後の経済成長に行き渡ります。戦後民主主義の日本的「平等観」(会社内で差別しない)、職務給より家族の生活を保障する生活給が、その背景にあります。学歴の向上(高卒、そして大卒へ)が、残っていた三層構造を壊し(大卒が現業の仕事をする)、社内平等を進めます。そのひずみは、出向、非正規雇用、女性に来ます。
この雇用の形が、日本社会のさまざまな分野を規定していきます。

ただし、新書版で600ページなる大部のものです。学術書と言えるほど、内容は緻密ですし、注の数も膨大です。この内容を新書で発表するのは、やや難があると思います。
NHKのインタビュー「小熊英二さん「もうもたない!? 社会のしくみを変えるには」」(掲載年月日不詳)が、簡潔でわかりやすいです。

「ドイツがわかる」

岩村 偉史著『ドイツがわかる─歴史的・文化的背景から読み解く』(2019年、三修社)が、勉強になりました。現代ドイツ社会の解説書です。宣伝文には、次のようなことが書かれています。
「ドイツ人の考え方と価値観を歴史的・文化的背景から読み解き、さまざまな変化に対処していく姿を描く。
第1章では、日常から社会の多様性を取り上げ、彼らの信条や価値観を探る。
第2章では、連邦共和国、キリスト教文化、社会福祉国家、多民族国家、EUをキーワードに解説する。」

歴史や政治制度の解説ではなく、ドイツ人の暮らしの解説です。制度を知ることも有用ですが、暮らしの実態の方が、より興味深いですよね。学問の対象も、制度や政治家の歴史ではなく、国民の実態と歴史に移ってきているようです。特に歴史学です。

国によって国民性、気風が違いますねえ。国際化が進んだといっても、お国柄はまだまだ変わりません。もちろん、多様性が進むこの時代に、「ドイツ人の暮らし」と一括りにすることは難しいでしょうが。
特に、働き方、宗教、移民などが、勉強になりました。そして、ドイツ社会も大きく変化していることがわかります。
いずれ日本も、いくつかの分野において、似た変化に直面することになるのでしょう。

移民の日本社会への統合

是川夕・国立社会保障人口問題研究所 人口動向研究部第三室長の「移民受け入れと社会的統合のリアリティ――現代日本における移民の階層的地位と社会学的課題」(2019年12月2日、シノドス)が勉強になりました。是川さんの著書(2019年、勁草書房)の解説です。

日本が既に移民受け入れ国になっていることを指摘した上で、日本に来た移民たちがどのように日本社会に統合しているかを、数値を基に明らかにします。
これまでのマスコミ報道では、フィリピンパブで働く女性、農村での外国人花嫁、技能実習生の過酷な労働、コンビニや飲食店でのアルバイトなど、社会の底辺で働く外国人労働者という印象が強いです。そして、学校になじめない子供たちも。

是川さんは、そのような定番の見方を覆します。労働、女性、世代の視点から、私たちの想像とは違った、日本社会への統合が行われていることを明らかにします。
詳しくは原文、または原著を読んでいただくとして。著者の視点は、移民の日本社会での状況とともに、それを生み出す「日本社会の側」を明らかにします。
コンビニでのアルバイトや農村や工場での肉体労働だけでない、管理職、専門職、ブルーワーカーなどが、どのように会社で出世していくか。そこに、技能によって評価される専門職と、途中採用では出世できない管理職や正規職が見出されます。それは、日本型雇用慣行です。
女性にあっては、日本女性の日本社会における位置づけが、移民女性の日本社会への受け入れを規定しています。そこに、日本社会での女性の地位が浮き彫りになります。

原著を読めば良いのですが、たぶん届かないと思うので、この解説が良かったです。砂原庸介教授のブログで知りました。

移植できない言葉の背景

日本語の脱亜入欧」の続きです。

言葉は、常に変化します。
そして日本は、1500年ほど前から中国と朝鮮を憧れ、漢字を輸入した国です。明治以来の西欧語の取り込みは、第二の国語変革期とも言えます。
しかし、千年以上慣れ親しんだ漢字は、日本語の基本になっています。そこに、系統の違う、語源が違う欧米系の単語や、表記方法と発音が決まっていない(学校で教えてもらえない)アルファベット語が入ると、日本人も外国人も困るのです。

言葉は、社会的背景、歴史を背負っています。それを切り離して、単語だけ輸入しても、日本語の文章の中に、しっくりと収まらないのです。
例えば「インターネット」という言葉。「インター」「ネット」それぞれに、英語としての故事来歴があります。日本語ではふだん使われている、高速道路のインターとかゴルフ練習場のネットを思い浮かべる人が多いでしょう。この2つを想像する限りは、インターネットが何か、思い至りません。
「電網」なら、なんとなく想像できます。しかもこの方が、文字数も少ないのです。もっともこの単語では、配電線網も想像しますが。

その点、日本語にある単語から取った言葉なら、その単語の背景を知っているので、おぼろげにでも理解できます。漢字で表した単語なら、漢字が表意文字なので、さらに意味がわかりやすいです。例えば、水や食といった漢字を含んでいると、何に関するものが想像がつきます。
四文字熟語などなら、その起源である漢文や日本の古典を知っています。しかし、私たちの多くは、シェークスピアや古代ローマのキケロなどの、西欧の教養を知らないのです。