カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

日本の政治は機能している

12月16日の読売新聞が、日本とアメリカの共同世論調査結果を載せていました。中国や韓国との信頼関係が大きく取り上げられていますが、次の点が興味深かったです。
すなわち、自国の政治システムがどの程度機能しているかを聞いた問です。
日本では、機能しているが52%、機能していないが45%です。無党派層でも41%が機能していると答えています。他方、アメリカでは、機能していないが68%にもなり、機能しているは31%です。
これまで、何となく日本の政治は機能していないと批判され、アメリカはよいと言われてきましたが、意外な結果になっています。「欧米は進んでいる。日本は遅れている」といった100年続いてきた「定型批評」に、変化が出ているのでしょうか。

国際経済秩序

飯田敬輔著『経済覇権のゆくえ―米中伯仲時代と日本の針路』(2013年、中公新書)が、わかりやすかったです。この本では、国際経済秩序に意思と活力を与えるのが「経済覇権国」である、と定義しています。戦後にそれを担ってきたのが、もちろんアメリカです。アメリカ1国では足りないときは、米英協調・米欧協調でした。国際経済秩序は、いくつかの部位(レジーム)から成り立っています。本書では、通商(貿易、国家間のモノとサービスの取引)、通貨レジーム、金融レジームの3つの他に、開発レジームを加えて解説しています。
戦後、圧倒的な経済力とそれを基礎とした軍事力で、アメリカが世界秩序を維持しました。その後、ヨーロッパ各国と日本が戦後復興と経済成長に成功し、アメリカの一国覇権を脅かしました。もっとも、アメリカに取って代わることはありませんでした。
近年は、中国と新興国の発展がめざましく、特に中国は人口の大きさもあり、このまま発展するといずれアメリカを抜くという予測もあります。また、リーマン・ショックが、高度に自由化・国際化した金融と世界経済を揺るがす事態を引き起こしました。
中国が今後どのような思想を押し出すか不明ですが、現時点では、戦後アメリカや西欧が作り上げた自由貿易体制を崩すことはないようです。覇権の揺らぎについて詳しくは、本書をお読みください(中国は軍事的にも、別途いくつか、戦後秩序に挑戦しているようにも見えます)。
覇権という視点で見ると、どの国が主張を押しつけるか=どの国の思想や経済界の考えや都合がまかり通るかという「争い・権利」の面と、混乱が起きたときに誰が責任を持って収めるかという「収拾・義務」の面があります。かつては、戦争にしろ貿易にしろ一国が勝てば良かったのですが、これだけ世界経済が緊密化し、金融が国際化すると、一国だけが身勝手に勝ち誇ることはできなくなりました。逆に、危機になった国が出た場合や世界経済が不況になったとき、危機が発生したときに、その経済力で事態を収拾する・手をさしのべる義務が大きくなりました。
1929年の大恐慌と違い、2008年の世界金融危機は第二の大恐慌を回避しました。それは、先進各国が協調して、事に当たったからです。もっとも、その後の世界同時不況には、苦しめられています。また、貿易の自由化については、全世界を対象としたWTOは遅々として進んでいません。他方、2国間や地域でのFTAは進んでいます。
経済活動は、長期的な国内の社会変動と国際秩序の変化をもたらすとともに、短期的にも景気変動や市場の混乱を生みます。それを、政治がどのように制御するか。国際社会は、その実験をしています。

シリア、欧米の介入主義は終わったか

オバマ大統領が、化学兵器を使ったシリアを武力攻撃すると表明しながら実行しなかったことについて、「欧米諸国による他国への軍事介入の時代が終わったのか」と指摘する声があります。
これに対して、鶴岡路人・東京財団研究員は、違った見方を紹介しておられます。「実は、イギリス議会で少人数が反対か棄権に回っただけで、結果大きく違っていたのではないか。与党保守党と野党労働党の党内事情が少し違っていたら、軍事介入は成されたのではないか」とです。
詳しくは、原文「米欧による介入主義は消滅したのか ―シリア危機と欧州」(10月29日配信)をお読みください。

アメリカのシリア攻撃断念。物事には裏がある。勝ったのはロシアかアメリカか

今年の8月、シリアで化学兵器の使用が確認され、オバマ政権が制裁のために武力行使を表明しました。しかし、議会の賛成を条件にしたことで、弱さを見せたと評価されました。さらに、議会の承認に手間取るうちに、ロシアの仲介で、シリアのアサド政権が化学兵器の放棄を表明し、武力衝突が回避されました。これで、ロシアの評価が上がり、アメリカの敗北とみる見方が多いようです。
ところが、実はアメリカが勝って、ロシアとシリアが負けたという見方もあるのだそうです。日経新聞、高坂哲朗編集委員の「敗れたのはロシア、シリア化学兵器問題の裏」(日経電子版10月24日配信、ニュースこう読む)。
それによると、「シリアは冷戦時代から自国軍人を旧ソ連に留学させて化学戦の技法を習得させ、冷戦後もロシアはシリアの化学兵器研究機関に物資や機材を提供していた。1997年の化学兵器禁止条約の発効後、ロシアは事実上シリアに化学兵器開発を代行させてきた。仮に攻撃があればシリアとの化学兵器協力が明らかになり、ロシアはメンツを失っていた。長年続いてきたロシアとシリアの化学兵器共同体を、一発のミサイルも撃たずに解体に追い込んだオバマ氏の手法は、なかなかにしたたかだ」なのだそうです。
では、なぜ、オバマ氏がロシアとシリアの化学兵器協力の詳細を暴露せず、あえてロシアに花を持たせたのか。それは原文をお読みください。

改革を望まないドイツ国民。良いときには改革はできない

10月20日の日経新聞「日曜に考える。メルケル首相3選、欧州の安定は」、ドイツの新聞ツァイト紙の共同発行人、ヨーゼフ・ヨッフェさんの発言から。
「選挙結果の評価について」
・・現職首相の陣営の得票率が前回より8ポイントも伸びたのは歴史的だ・・議会はかつてなく同質になる。首相会派から左派党まで4政党が左寄りの社会民主主義だ。
強く面倒見のいい国を求める合意が社会に芽ばえ、競争重視で小さな政府や低税率を追うリベラル主義の理念の選択肢が大きく埋没した。現状維持を求め、急激な変化や10年前のような構造改革を望まない国民感情がある・・
「メルケル首相の人気について」
・・まさに有権者が望む存在だからだ。冷静と安定を絵に描いたような女性で冒険も方向転換もしない。ムティー(お母ちゃん)と呼ばれるような人柄だ・・
「ドイツに改革は不要なのか」
・・2020年代を見据えた改革は当然必要だ。生産性上昇が停滞し、輸出に頼る中国のようにいびつな経済構造で、補助金頼みの雇用も多すぎるからだ。債務水準も高すぎる。いまやドイツの大学は世界50位が最高。イノベーションの能力も高くない・・
・・だが次の政権が行動を起こすのは疑わしい。現状維持こそ素晴らしいのだ。ドイツは幸運児。失業率は低く、太平でよく運営されている。良いときに変えようとは思わないのが問題だ。危機意識からしか変化は生まれない・・