カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

ニクソンとキッシンジャー外交

大嶽秀夫先生の『ニクソンとキッシンジャー 現実主義外交とは何か』(2013年、中公新書)を紹介します。
私は若いとき、ニクソン外交、特に米中和解(1971年)を見て、これはすごいと感心しました。当時は、キッシンジャーがやっているものだと、思っていたのですが。
その後、ニクソンは、ウォーターゲート事件で失脚します。しかし、ニクソン著『指導者とは』を読んで、さらに感心しました。拙著『明るい係長講座』で、『指導者とは』を引用したこともあります。なお、『指導者とは』は、文春学藝ライブラリー文庫で、復刊されました。
ニクソンとキッシンジャーが展開した現実主義外交の内容は、本書を読んでいただくとして。当時、米ソ対立・共産主義対資本主義という構図でとらえられていた国際政治構造を、米ソ中の対立構造に変えたのです。これには、世界中がびっくりしました。誰にも知らせない秘密外交が、その衝撃を大きく演出しました。
国際政治でいうと、その後、1989年のベルリンの壁の崩壊と共産主義の崩壊も、予想していなかったので、びっくりしました。
ところが、このように、現実の世界では、予想もしていないこと、できっこないと信じていることが、起きるのです。もちろん、そこにはそれを仕掛ける人がいて、それを成り立たせるだけの経済政治社会条件がある(後でわかる)のですが。
また、2人は、泥沼のベトナム戦争から撤退します。これには、相手(北ベトナムや南ベトナムなど)のほかに、国内対策も困難な要素でした。それを、どのように乗り越えていったか。2人の作戦を、読んでください。
この項続く。

御厨貴先生の研究録

御厨貴先生が、『知の格闘―掟破りの政治学講義』(2014年、ちくま新書)を出されました。2011年9月から12年2月まで、6回に分けて行われた、東大最終講義の記録です。
いや~、おもしろいです。といったら失礼になりますが、先生は許してくださるでしょう。一気に読み終えてしまいました。
先生による、40年近くに及ぶ学者生活の「自叙伝」です。次のように、先生のこれまでの活動が、整理されています。
1 権力者の素顔に迫る―オーラル・ヒストリー
2 政治の最前線に躍り込む―公共政策
3 近現代からの現場中継―政治史
4 進撃!歴代首相邸へ―建築と政治
5 同時代とのバトル―書評と時評
6 映像という飛び道具―メディアと政治
本業の政治史にとどまらず、いろんな分野で活躍されたことがわかります。単に研究書だけで政治に接近するのではなく、また大学の研究室に閉じこもっているだけでなく、さまざまな切り口・接近方法があることを身をもって示されたのです。
そして、一貫して流れているのは、日本の現代政治をどうみるかです。「政治学の教科書や研究書は難しくて」とか「新聞や週刊誌の政局ものは内容がなくて」とご不満の方、ぜひお読みください。おもしろいですよ(繰り返し)。
また、帯についている先生の似顔絵が、秀逸です。カバーの写真は温和なお顔ですが、似顔絵はエネルギッシュな先生を良くとらえてあります。よく見たら、黒鉄ヒロシさんのイラストでした。

社会と民主主義をつくる「参加による習慣」

宇野重規先生の『民主主義のつくり方』(2013年、筑摩選書)を紹介します。宇野先生は、トクヴィル研究で有名です。先生は、この本を、『トクヴィル、平等と不平等の理論家』(2007年、講談社選書メチエ)、『〈私〉時代のデモクラシー』(2010年、岩波新書)とともに、デモクラシー3部作と言っておられます。詳しくは、本を読んでいただくとして。
『〈私〉時代のデモクラシー』については、このホームページでも紹介しました(2010年5月5日)。近代は、自由と平等を達成し、それが社会の不安と不満を生みました。身分や所属する団体による不平等を撤廃することを目指し、それを達成して見えてきたものは、あらゆることを自分で判断しなければならないという負担であり、その選択に責任を持たなければならないという不安です。また、中間集団の希薄化は、個人の砂状化とともに、政治への回路をなくしてしまいます。では、ばらばらになった個人〈私〉は、どのようにして〈私たち〉をつくりだすのか。それに答えようとするのが、本書です。
この本では、プラグマティズムの考えを手がかりに、皆でつくる「習慣」が、個人と社会をつなぎ、社会をつくることを論じています。そこにあるのは、所与のものとして与えられるのではなく、市民・民衆・個人が参加しながら作り上げなければならないという事実・原理です。
このホームページをお読みの方は、お気づきでしょうが、これは地方自治の原点です。拙著『新地方自治入門』では、豊かさを達成した地方行政の目標が、モノを増やすことから、関係を充実することへと変わることとともに、住民がサービスを受ける客体から、参加する主体になるべきであると主張しました。参加は、国家規模では難しいですが、自治体や近所付き合い、サークルやNPOなど中間集団では容易です。
私は、津波が全てを流し去った町を復興する際に、官(行政)・私(企業)・共(町内会やNPOなど中間集団)の3つが必要なこと、そして住民合意の際にコミュニティが重要であると指摘しています。「被災地から見える町とは何か」(2012年8月31日、共同通信社のサイト「47ニュース、ふるさと発信」)。

民主主義が機能しないとき

毎日新聞12月25日「そこが聞きたい。民主主義国の政治劣化」、フランシス・フクヤマさんへのインタビューから。
・・民主主義に変化をもたらすのは、時間がかかるプロセスなのですね。なぜならコンセンサスを形成しなければならないし、利益集団の強い力にも勝たなければならないからです。
政治を衰退させる要素は2つあります。一つは、制度が新しい状況に対応できないこと。もう一つは、利益集団が国家を「占有」してしまう問題です・・

若手学者による現代日本政治研究

砂原庸介・大阪大学准教授が、年末恒例の「今年の○冊」を書いておられます。これは、基本的には出版された、現代日本政治の博士論文を紹介したものです。政治・行政学の出版物一般でないことが残念ですが、とても重宝なものです(感謝)。
今年も、さまざまなテーマで、立派な論文が出たのですね。いくつかは買ったのですが、読むまでに至っていません(反省)。