カテゴリー別アーカイブ: 政治の役割

行政-政治の役割

国防長官、国民と理念を守る

マティス国防長官の書簡の続きです。
長官は、書簡の冒頭で「国防長官として、職員とともに、我が民と理念を守る仕事を担ってきた」と書いています。国民を守ることとともに、理念を守ることを任務に挙げています。
“I have been privileged to serve as our country’s 26th Secretary of Defense which has allowed me to serve alongside our men and women of the Department in defense of our citizens and our ideals.”
By The New York Times

国土と国民そして独立を守るのではなく、国民と理念( our citizens and our ideals)を守るのです。ここに、アメリカという国のなり立ちを、読み取ることができます。
独立宣言や憲法に掲げられた理念は「自由と民主主義、人民主権」です。イギリスの植民地から独立する際の「大義名分」だったのです。フランス革命と並んで、アメリカ独立革命でした。(それぞれの国のかたち

国防長官は、書簡の中で次のように述べています。
「中国やロシアが自国の利益を追求するために経済・外交・安全保障に関する他国の決断を否定し、権威主義的な政治モデルと整合的な世界をつくりだしたいと望んでいるのは明らかです。だからこそ、我々は共同防衛に向けて、あらゆる手段を尽くさなければならないのです」

戦前日本は戦争の際に、「国体の護持」を主張しました。この主張は日本にしか通用しませんが、アメリカの理念は普遍的(他国にも成り立つもの)です。
すると、アメリカの理念は「輸出」することが可能であり、時に輸出されます。すなわち、他国にその理念を押しつけます。
そのアメリカの理念を受け入れる用意のある国は問題ありません。日本も戦争に負けて、その理念を受け入れました。他方、その気がない国、それを受け入れる社会的素地のない国では、紛争が起きます。
12月25日加筆

方向性と詳細設計

先の国会では、入国管理法の改正(外国人労働者の受け入れ)が、大きな議論になりました。この課題には様々な論点がありますが、今日は、方向性と詳細設計という観点から、解説します。

17日の読売新聞によると、全国世論調査の結果、外国人労働者の受け入れを単純労働に拡大することに「賛成」の意見は46%、「反対」は39%です。その一方、外国人の受け入れを拡大する改正出入国管理・難民認定法が、臨時国会で成立したことを「評価する」人は37%で、「評価しない」48%の方が多かったのです。
同様に、18日の朝日新聞によると、全国世論調査の結果、外国人労働者の受け入れ拡大には46%が賛成し、反対40%を上回っています。ただし、改正法の成立を「評価する」は39%で、「評価しない」48%の方が多いのです。

どちらも、受け入れには賛成が多く、改正法成立は反対が多いのです。このねじれを、どのように理解するか。国会審議の評価については、ここでは触れないこととします。
大きな方向では国民は受け入れには賛成で、その詳細設計を十分にすることを望んでいるようです。すると、その点を議論すべきでしょう。あるいは、方向としては拡大することとして、運営過程で課題を順次解決することが考えられます。

保守と言われる自民党が受け入れ拡大賛成になのに対し、民主・革新をうたっている(と思われる)野党の多くが拡大反対のような行動を取ったことも、国民には不可解でした。さらに、「家族帯同は認めない」は、常識に反するように思えます。日本人の海外駐在者が、「家族を連れてくるな」といわれたら、困りますよね。

ヨーロッパ、政治の両極化

12月8日の朝日新聞オピニオン欄「蒸発する欧州の中道」。詳しくは、原文をお読みください。

イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズ氏の発言から。
・・・欧州の中道左派の政治理念は、既存の政府機関と協力しながら、富の再配分や福祉政策を重視して、より人道的な政策にしていく考え方に基づくものです。1990年代から20年、欧米で大きな成功を収めてきた中道左派勢力ですが、いまや蒸発しつつあります。

デジタル革命が起きていることが最大の理由です。産業革命よりも急速かつ地球規模で広がり、個人生活を含めてあらゆるものに本質的な変化が起きている。通貨の大半は電子マネーになった。製造業は海外移転によって急速に衰退した。ドイツ車の製造工場では自動化されたロボットが車を造っています。英国でいま製造業に従事しているのは全人口の8%、農業は1%に過ぎない。残る大半の人はサービス業に従事しています。

ツイッターなどSNSを通じて直接民主主義的な動きが広がったことも極めて注目すべき点です。トランプ米大統領がどれだけツイッターを使っているか。デジタル的な直接民主主義の広がりで、旧来型の民主主義の手続きが回避されるようになった。高齢者や貧困層が変化に取り残されて社会への帰属意識が失われ、国の行く末が見えなくなっている・・・。

・・・旧来の社会民主主義的な考えを持つ人たちが「不平等を減らそう」と言って、グローバル資本によって生み出された不平等に立ち向かおうとしても非常に難しい。国家にもはやそのような力は備わっていないからです。現代の政治が抱えているジレンマの多くがここにあります・・・

ベルリン自由大学研究員クリストフ・ニューエン氏の発言から。
・・・一方で、中道の政治システムは、左右の中道政党が経済の基本政策で一致しています。このため連立の有無にかかわらず、有権者には政策を選ぶ余地がほとんどありません。有権者にすればCDUに入れても、中道左派の社会民主党(SPD)に入れても、実施される政策はあまり変わらないことになる。「新たな中道」を掲げたSPDのシュレーダー政権(98~2005年)は、市場経済を擁護しながら、弱者も保護する政策を目指しました。経済は潤ったが、弱者たちは十分に保護されたとは感じなかった。こういう有権者をどう取り込むかは、CDU、SPD双方の課題となってきました・・・

・・・根本的な問題とは何か。これまで労働者ならSPD、比較的裕福で保守的な有権者はCDUに投票してきた。ところが産業構造の変化で、多くの人は自分が労働者階級だと感じなくなりました。同じ企業内でも高い給与を得る正社員と、不安定な派遣労働者がいるからです。人々は経済的な格差より、移民や同性婚の是非など社会的な価値観をより重視するようになってきた。富の再分配に賛成し、経済的にはリベラルな志向を持つ労働者が、移民受け入れや同性婚に賛成とは限りません。

「経済格差」問題を軸に対応してきた大政党は、「社会的価値観」という新たな対立軸に対応しきれていません。もし私が移民に反対なら、新興右翼政党AfD(ドイツのための選択肢)に、開かれた社会を望むなら「緑の党」に入れるでしょう。有権者の関心に応じて政党が分裂すれば、自分の意見が反映されると、より多くの人が感じるかもしれません。でも、次の段階でその少数政党が連立政権をつくるには、政策の妥協が必要です。人々は再び不満を感じることになります・・・

国会による行政の監視

12月17日の朝日新聞、国分高史・編集委員の「国会空洞化、「新たな専制」へ道」に、興味深い指摘があります。通常、法律で基本的な事項を定め、詳細は政省令に委ねることが多いです。しかし、単純に政省令に委ねるのではなく、国会がそれを監視するのです。

・・・法で大枠を定め、詳細は政府が定める政省令に委ねる政策が増えているのは各国に共通の傾向だ。ただ、欧米では議会が政省令を審査し、不適切と判断すれば拒否できる制度がある。一般に「議会拒否権」と呼ばれている・・・

・・・この制度に詳しい田中祥貴・桃山学院大教授(憲法)によると、その仕組みや経緯は次のようなものだ。
例えば、改正入管法には外国人労働者の受け入れ業種などを含め「法務省令で定める」との記述が約30カ所もある。議会拒否権制度のもとでは、法の根幹にかかわる政省令を発効させるには議会の承認が必要だとあらかじめ条文に書き込んでおく。重要度が低い政省令は、一定期間内に議会が否決しなければ自動的に発効を認める。

なぜこんな制度があるのか。英国では20世紀初頭から政府が定める政省令が急激に増加。これに伴う政府の権限拡大は議会制民主主義を形骸化させ、政府による「新たな専制」につながりかねないとの警戒感が議会に強まった。議会がこれを克服する工夫を重ね、第2次大戦後に制度として確立したという。

「改正法の関連省令を国会で審査するのは一歩前進だ。ただ、日本社会のありようや外国人労働者の人権にかかわる重要法であることを考えれば、省令を成立・発効させるには国会承認を要件とするなど、もう一歩踏み込むべきだった」と田中教授は話す・・・

『公卿会議』

美川圭著『公卿会議―論戦する宮廷貴族たち』(2018年、中公新書)を読みました。平安貴族たちが、どのように議論をし、国政を動かしていたかです。

天皇制、律令国家の時代です。建前は律令に従い、天皇が決裁します。三権が分立していませんから、立法・行政・司法のすべてを所管します。もちろん重要な案件は、徴税であり、治安であり、貴族たちの昇任です。
しかし、日本の天皇制は多くの場合、天皇独裁ではなく、その部下たちがおおむね決めて、天皇が裁可します。法皇が権力を持つ場合もあります。
すると、その部下たちと天皇との力関係、さらには部下の中での権力の所在が問題になります。摂政・関白が大きな力を持つのか、この本で取り上げられた公卿会議が機能するのか。そして、武家が入ってきます。

その力関係の変化が、解説されています。千年も前の資料が、よく残っていたものです。欲を言えば、具体の会議の内容を知りたかったです。ある案件を取り上げて、どのように会議が進められたかです。もっとも、資料の制約があります。

誰が、何を、どのようにして、決めているか。これは、政治学や歴史学の大きなテーマです。
現在の日本では、日本国憲法に従い、国会が国権の最高機関です。しかし、国会議事録を読んでも、実際の政策の決定過程はわかりません。また、閣議が内閣の決定の場ですが、この記録を見ても、現実の政策決定過程はわかりません。
会議の多くも、そうでしょう。議事録を見ても、誰がその課題を議題に載せたか、事前にどのような調整がされたのか、誰の意見が通ったのかは、わからないのです。会議に載らなかった重要案件も、大きな意味をもちます。
制度と運営の実態は、別物です。