カテゴリー別アーカイブ: 官民協働

官民の共同規制

10月25日の日経新聞経済教室「GAFAと競争政策」、大橋弘・東京大学教授の「日本、官民共同規制で独自性」から。

・・・一方、日本ではアプリストアやオンラインモールに財・サービスを提供する中小企業が多いといった独自の事情を踏まえて検討されてきた。遅くとも16年には、GAFAとの不公正・不透明な取引関係が競争政策上の大きな課題として認知されていた。18年末にプラットフォーム企業に対するルール整備の基本原則を世界に先駆けて定め、巨大IT企業に対応する競争政策のあり方を議論してきた。

厳しい事前規制はイノベーションを阻害するほか、規制の潜脱行為を助長しかねない。他方、現行の事後規制は法執行に時間がかかりすぎ、反競争行為を防げないと指摘された。この点を踏まえ20年5月、大手プラットフォーム企業と行政が共同で取引環境を整備するという、世界でも珍しい官民共同規制を旨とするデジタルプラットフォーム取引透明化法が制定された。
同法は大手プラットフォーム企業に対し、取引条件などの情報開示と変更の事前通知を義務づけるとともに、行政の求める指針に基づき自主的な手続き・体制の整備を求める。行政が大手プラットフォーム企業との対話を図ることで、取引企業の予見可能性を高め、良好な取引慣行による競争を促すことを目指す。

もっとも、官民共同規制は大手プラットフォーム企業に規制内容を誘導され、行政が「規制のとりこ」に陥る可能性がある。大手プラットフォーム企業を共同規制の枠組みに真剣に向き合わせるには、不誠実なら厳格な法執行が控えることを意識させる必要がある。
日本の課題は、デジタル分野での公取委の法執行の経験値が乏しい点にある。21年9月にはアップルの案件で、17年にはアマゾンの案件で、それぞれ自主的な措置を講じるとの申し出がなされたことを理由に審査を終了しており、法執行がなされることはなかった。
厳格な事後的制裁に加え事前規制の強化により巨大IT企業に対峙する「米欧モデル」か、威嚇ではなく対話を通じて良好な取引慣行による透明性・公正性を自主的ながらも実効性のある形で促す「日本型モデル」か。いずれのモデルがグローバル標準になるのか、引き続き注目される・・・

官民共同規制は、私が大学で習った行政法や行政学では、出てきませんでした。連載「公共を創る」で、官共業三元論、官の役割や手法の議論の際に、書き加えなければなりませんね。

NPOによる被災者自立支援

3月24日の日経新聞に「被災者の伴走続ける 岩手・大槌の仮設住宅、今月末閉鎖 転居後の生活民間支援」が載っていました。

・・・東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町などで、孤立や生活の困窮など様々な問題を抱える被災者らを支援し続ける民間団体がある。公益財団法人「共生地域創造財団」(本部=宮城県石巻市)は3月末で応急仮設住宅を閉じる町から、災害公営住宅などへ転居する住民を支援するよう委託された。転居後の生活を見据え、文字通り生活全般に伴走する・・・

この財団は、大槌町や石巻市の委託を受けて、被災者の転居を支援しています。転居先の物件探しや引っ越しの相談にとどまりません。被災によって、家族が抱えていた引きこもり、貧困、病気が深刻になります。役場にも、福祉、教育、健康などの窓口はあるのですが、縦割りです。また、これまでの行政は、本人からの申告を待って動きます。困って声を出せない人は、漏れ落ちるのです。
これからの行政の姿を先取りしていると思います。

自治体による認知症事故保険。民間活用

12月26日の朝日新聞1面は「認知症の事故補償、広がる 自治体、保険料肩代わり」でした。
・・・2025年には認知症の高齢者は約700万人に増えると見込まれる。「認知症になっても安心して暮らせる街」への壁になるのが、賠償責任が問われるような万一のトラブルや事故のリスクだ。本人や家族の不安を軽減するため、民間の保険を使った事故救済制度を独自に導入する自治体が増えている・・・

・・・2017年11月に神奈川県大和市が全国に先駆けて導入し、18年度に5市町が続いた。19年度に自治体数は急増した。
神戸市は個人市民税引き上げ(1人400円)で年約3億円の財源を確保、新たな認知症支援策を打ち出した。このうち事故救済制度(賠償責任保険+被害者への見舞金)は4月運用開始。賠償責任保険の申込数は8月までに2893人。市によれば「他人の自転車を壊した」「店舗を汚した」などで3件の支給(約9700円~約13万8600円)があったという・・・

・・・認知症の人の事故の補償について検討した関係省庁による連絡会議は16年、「ただちに制度的対応を行うことは難しい」として、公的補償創設を見送った。こうしたなか、認知症の人や家族が安心して暮らせる街にするため、独自の補償制度導入に踏み切る自治体がでてきた・・・

官と民とで垣根が低くなっていること、協働することの例です。このうち、神戸市の事例はこのホームページでも取り上げました。

保険は、個人では負担できないリスクの被害を、大勢で負担しようとするものです。火災保険や自動車保険は分かりやすいですね。みんなに関わるものとして、健康保険、年金保険、介護保険もあります。民間会社によるもの(火災保険など)、政府が制度を決めて民間が運用するもの(自動車保険など)、政府が運用するもの(介護保険など)があります。
その点で、政府は究極の保険です。健康保険、年金保険、介護保険、失業保険などのほかに、生活保護や災害時の救助など、困った人を助けるのが政府の役割です。税金という「保険料」によってです。現在連載中の「公共を創る」では、詳しく解説しようと考えています。

企業のノウハウを取り入れた住民健康づくり

10月3日の福島民報新聞に、「民間と連携健康推進事業 2019年度は23市町村」が載っていました。企業のノウハウを取り入れ、住民の健康づくりを行う市町村を、県が支援しています。23市町村の具体事業が、表になって載っていました。
県の発表資料は、「民間企業とコラボした健康づくりの実施について」「事業一覧」です。

食品会社や健康づくり会社に、運動や食事指導を委託します。事業内容も、企業が提案しています。企業はその道の専門家ですから、これは効率的ですね。このような官民協働事業もあります。
施設の建設も、自治体が案を作り企業に発注するほか、企業に案を考えてもらいその中からよい案を採用して建設してもらうのですから。ほかの事業にも応用できますよね。

企業の地域貢献、具体例

連載「公共を創る」第18回「哲学が変わったー成長から成熟へ 公共を支える民間」の補足です。記事の中で、自治体と企業との連携協定を紹介しました。その例として上げたものを、補足説明を含めてここに載せておきます。

1 福島県の例。企画調整課「企業等との包括連携協定
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/11015a/hokatsurenkei.html

2 神戸市。神戸市 認知症の人にやさしいまち「神戸モデル
(1)認知症の人にやさしいまち『神戸モデル』トップ認知症事故救済制度とは?
https://kobe-ninchisho.jp/accident-relief-system/

(2)神戸市認知症の人にやさしいまちづくり推進委員会 事故救済制度に関する専門部会 「事故救済制度素案」及び「事故救済制度運用支援業務委託」提案募集の選定結果について
http://www.city.kobe.lg.jp/information/committee/health/nintisho/img/30.07.20_05.pdf

3 三井住友海上火災保険
(1) 上の2(2)で、市に対し制度案を提案し選ばれた側である、三井住友海上火災保険のホームページ(すみません、原稿に載せるのを怠りました)
地方創生への貢献」のページ中、「1.地域課題解決に向けた支援 (2)商品・サービス・ネットワークを活用した支援(認知症神戸モデル、大阪府里親制度)」(欄右の+記号をクリックしてください)
https://www.ms-ins.com/company/region/

このページには、地方自治体への協力として、次の3つに分けて活動が載っています。
① リスクソリューションサービスを活用した支援(働き方改革、BCP策定、企業の経営課題解決)=会社が持つ技能を提供しているもの。
② 商品・サービス・ネットワークを活用した支援(認知症神戸モデル、大阪府里親制度)=会社の商品を活用したもの。
③ 社会貢献支援(物産展の開催等)=一般的な社会貢献

神戸市の認知症事故救済制度は、このページで紹介したことがあります。
官民協働施策、神戸市の認知症事故対策」「その2