カテゴリー別アーカイブ: 官僚論

行政-官僚論

役人が妨げる研究

読売新聞連載、秋葉鐐二郎さんの「日の丸ロケット」、6月22日「3機関統合、消えた自由」から。
2003年に、文部科学省宇宙科学研究所(ISAS、旧文部省系)、宇宙開発事業団(NASDA、旧科技庁系)、航空宇宙技術研究所(NAL、旧科技庁系)が統合して、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発足しました。秋葉さんがかつて所属していた、宇宙科学研究所(かつての東大宇宙航空研究所)も、ここに統合されました。
・・統合前の宇宙3機関は、科技庁系が人員の8割、予算の9割を占めました。圧倒的に科技庁が強い。でも、まあ、今まで通りに研究がやれるなら、別に名前くらい変わってもいいんじゃないの、っていうぐらいの気持ちでした。
ところが、統合したら、そこから先、急に組織の文化が変わっちゃったんだよね。ひどいものでした。大企業が小企業を吸収するみたいな感じでした。
どう変わったかというと、研究の自由が奪われたのです。要は、事業団は役人なんだね。研究者だけでなく、役所出身者も寄せ集めた組織だったからでしょう。何かやろうとすると、すぐ、安全上の手続きが不足しているみたいなことを言う。とにかく、なんでもかんでも書類に書かせる。そして、書類を審査する側が、資料が足りないとか、説明不足とか何とか言って、どんどん研究者の時間を持っていく・・

官僚OBによる政策の検証

柳澤協二著『検証官邸のイラク戦争―元防衛官僚による批判と自省』(2013年、岩波書店)から。著者は、防衛官僚で、2004年から2009年まで、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)を務め、自衛隊イラク派遣の実務責任者を務めました。この本では、イラク戦争に際し自衛隊を派遣した政策について、政府も国会も検証をしていないことを指摘し、個人でその総括を試みています
・・防衛官僚としての半生を振り返るとき、与えられた状況の中で最善を尽くしたという意味で、職業人としての良心に恥じるところはない。・・だが、そのことと、私が関わってきた政策に誤りがなかったかどうかを問うこととは、別の問題だ。
イラク戦争は、世界の価値観を揺るがす大きな出来事だった。それをめぐって何度も議論し、考えた。疑問も残っていた。だが、官僚としての仕事はそれを所与の前提として受け入れたうえで、日米同盟を強化し、自衛隊を国際的に活用するための政策を立案、実行することだった。加えて、日々多くの課題を抱えた官僚の立場では、自分の仕事の根本的な意義や価値観を問い直す余裕はなかった。
それゆえ、退職した私がなすべきことは、自分自身が関わった政策(多くの場合それらは、疑いもなく正しいと信じていたわけだが)について、問い直すことだと考えた。それが、官僚としての職業的良心を貫く所以でもある・・

制度をつくった場合の成果、「やりました」は成果ではない

役所が陥りがちな失敗に、仕事の量や成果を、インプットで計ることがあります。例えば、予算が増えたことをもって良くやったと評価されたり、残業時間が多いことで満足するとかです。かつての行政の評価が、予算に偏っていたことは、『新地方自治入門』p247で述べました。
しかし、公務員は、まだインプットで計る場面が多いようです。最近になって気がつきました。部下職員と話していると、彼は自分のやっていること、やったことを「アウトプット」と考えています。しかし、私や住民からすると、それは「インプット」なのです。
例えば、復興のための施策(予算や制度)をつくります。かつては、これが「成果」でした。最近は、職員も、さすがにこれをもって、「成果」「アウトプット」だとは言いません。その予算で何か所事業が進んだか、その制度で何か所認可をしたかを、成果と言います。彼にとっては、そうでしょう。
しかし、被災地では、その予算が付けられた復旧事業で、どれだけ生活が再建したか、街の賑わいが戻ったかが、「成果」です。予算が使われた事業の数や認可されたか所数は、現地では「インプット」です。
霞ヶ関で自分の仕事の範囲で「成果」と考えるか、現地での実績まで含めて「成果」を考えるかの違いです。

課長補佐が法律を1本作ったら、それは彼にとって、大きな成果です。しかし、課長や局長からすると、課長補佐のその仕事を高く評価しつつも、その法律によって現場でどれだけの効果が出たかを評価しなければなりません。
国会議員と話しているときに、各省の役人が「これだけやりました」と誇るのですが、議員は納得しません。「君たちは、やっている、やっていると言うが、現地では進んでいないではないか」と。そのすれ違いは、ここにあります。

国家公務員、心の病

人事院の調査によると、2011年度の長期病休者(病気やけがで1か月以上休んだ)国家公務員は、5,370人、全職員274,973人の約2%でした。うち、男性が4,186人(全男性職員229,601人の1.82%)、女性は1,184人(全女性職員45,372人の2.61%)です。
原因で最も多いのは、「精神及び行動の障害」の3,468人で、約65%を占めています。この数は、1か月以上休んだ職員ですから、職場にはこの数倍の「心の病の職員」がいます。

官僚の仕事は未来との対話

かつて、イギリスの歴史家E・H・カーは、「歴史は、現在と過去との対話である」と表現しました(『歴史とは何か』1962年、岩波新書)。その言葉を借りると、私たち官僚の仕事は、「未来との対話である」とも言えます。
現在の社会が抱える問題に対し、それをどのように解決していくか。目標を立てて、それを解決する政策を進めていきます。課題を設定し、解決策を見いだし、現在ある財源、職員、ノウハウ、情報を動員します。
私たちが見据えなければならないのは、未来であり、責任を取らなければならないのは、将来の国民に対してです。歴史家や学者は過去を分析しますが、官僚は未来を作らなければなりません。
その際に、工程表を作り、関係者を巻き込んでいきます。「できる官僚」とは、それを上手にできるプロデューサーやディレクターでしょう。目標と時間軸と手法を提示して、作戦を実行することです。いつまでに何をするか。それには、どれだけの人や方法を利用できるか。
復興の仕事をしていて、自分の役割を見なおし、そんなことを考えています。