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社会

「経済大国=豊か」という幻想の先へ

1月20日 の朝日新聞オピニオン欄、原真人・編集委員の「日独逆転、GDP4位に転落 「経済大国=豊か」という幻想の先へ」を紹介します。日本の国内総生産が人口がはるかに少ないドイツに抜かれることも大きな問題ですが、ここでは最後のくだりを引用します。

・・・「GDPを単純に増やせばいいという発想は意味がない」と話すのは長期不況理論の第一人者、小野善康大阪大特任教授である。「日本には巨大な生産力があり、1人当たり家計金融資産は世界トップ級の金持ちで購買力もある。問題は大金持ちなのにお金を使わず、潜在能力を生かし切れていないことだ」
では何が必要なのか。「生活をいかに楽しむか、そのために何にお金を使うべきかという発想に転換し、そこに知恵をしぼるべきです」と小野氏は言う。

時代遅れのGDPに代わって真に国民に望ましい国民経済指標を見つけることに最初に挑んだのはフランス政府だ。16年前、ノーベル経済学賞学者のスティグリッツ氏、セン氏らを招いた専門委員会で検討し、社会福祉に貢献する指標を一覧で示すことが望ましいと結論づけた。
それを実践したのが経済協力開発機構(OECD)のベターライフ指標だ。雇用や住宅、環境など11分野で毎年、対象40カ国に評価点をつけて発表している。
日本は教育や安全性で平均を上回る一方で、コミュニティー、市民参加、ワークライフ・バランスなどで平均を下回っている。分野ごとに評価すれば、他国に比べて劣っている領域も浮かび上がる。GDP幻想から目を覚まし、国民生活本位の新発想に切り替える時期だろう・・・

日本語教育、品詞を色分け

1月22日の朝日新聞夕刊「凄腕しごとにん」は、江副隆秀さんの「「見える日本語」学んだ外国人2万人超」でした。

・・・多くの外国人にとって日本語のハードルは高い。米国務省は「英語話者には最も習得が難しい外国語」に分類している。ラテン系やゲルマン系の言語とは構造が全く違う。ひらがな、カタカナ、漢字の3種類の文字を併用。そのうえ「助詞」の使い分けが日本人でも迷うほど複雑だからだ。
そこで取り組んできたのが「日本語の見える化」。日本語の文章を「情報」と「述部」、その二つをつなぐ「助詞」の三つに分解。同時に、名詞や動詞、助詞など各品詞を色分けしてカードにした。
例えば「学校へ行く」だと、情報の部分は「学校」で、黄色の名詞カード。述部は「行く」で、緑色の動詞カード。その間に白色の助詞カードの「へ」を挟む。

日本語教育では戦前から「助詞は的確な定義ができない」として、大量の例を反復練習する「文型教育」が主流だった。
江副さんは、助詞ごとの意味を突き詰めてさまざまな図形にした。例えば「へ」は、目的地に向かう意味を込めて矢印の形。「に」は「学校に行く」という方向だけでなく、「学校にいる」「9時に出る」など場所や時間のポイントを表す際にも使われるので三角形にした。
工夫を凝らしたのがドーナツ状の「で」のカード。穴に電車の模型を通らせながら「電車で行く」と教える。手段の意味だ。穴から城の模型を見せて「お城で寝る」。こちらは場所の意味になる・・・

なるほど。

思い込みを変える

日本社会にしみこんだ通念。ふだんは気がつきませんが、何かの事件や出来事で、そのおかしさに気づくことがあります。

1月22日の日経新聞夕刊、歌人・枡野浩一「父と子の記憶」に、次のような話が載っています。
・・・米国のボルチモア国際黒人映画祭で、日本人監督として初の最優秀長編国際映画賞とオスカー・ミショー賞のW受賞をした武内剛監督は、古い知り合いである・・・
「ぶらっくさむらい」という名で芸人をしていたとき、一番印象に残るネタは「武内剛という本名でアルバイトに応募したが、いざ職場に行くと、アフリカ系黒人の見た目を持つ青年を見た年配の店長夫婦が慌てふためいてしまう」という内容だった。
枡野さんは、「笑いながら、笑って大丈夫なんだろうかと心配になった」そうです。

もう一つは、日本航空の次期社長です。客室乗務員出身の鳥取三津子専務が内定しました。報道でも紹介されていますが、これまでにない人事です。
「鳥取氏は福岡県出身で、長崎県の活水女子短大英文科を経て、1985年に東亜国内航空(後の日本エアシステム〈JAS〉、04年にJALと経営統合)へ入社。CAを長く務め、客室本部長などを経て、現在はグループCCO(最高顧客責任者)を務めている。」ダイヤモンドオンライン「JALに初のCA出身・女性社長が誕生!

「これまでの思い込みを打破する人事だ」と、私と同年代の人が次のように解説してくれました。
・日本を代表する企業、かつては国策会社であった日本航空の社長に、女性が就任すること
・客室乗務員出身であること
・短大卒であること
・日本航空生え抜きでなく、合併された東亜国内航空出身であること

英才教育の限界

1月7日の朝日新聞「天才観測5」「育てる 大成の条件「才能」だけでは」から。

・・・「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」。文部科学省が「これまで我が国の学校において取組はほとんど行われてきませんでした」と今年度から始めたのは、天才児、ギフテッドと呼ばれるような子への支援だ。
ただ、民間でのギフテッド教育で先行するNPO法人翔和学園(東京都中野区)の中村朋彦さんは「高レベルの集団で英才教育をする、そんな単純なものではなかった」と振り返る。

発達障害者支援のフリースクールを運営する中で、IQ(知能指数)が高い子の存在に注目した。「未来のエジソンやアインシュタインを育てる」と2015年、IQ130以上の小学生を選抜した特別クラスを設けた。子どもが興味あるテーマに特化した学習を行い、外部から有識者を招いた講義も。学習発表では、小学生が相対性理論について言及もした。
ところが、将来の働き場と想定したIT企業の技術者や大学の研究者らを視察に招くと「形式的な知識はあるが、基本的概念の理解が浅い」と評価が芳しくなかった。選抜して特別扱いしたことによる弊害からか、周囲の助言にあまり耳を傾けない、実験に失敗した時の諦めが早いといった傾向も見受けられるように。
「子どもたちの能力うんぬんでなく、私たちの指導方針が誤っていた」と特別クラスは18年に解体。教訓は「発達に飛び級はない。やはり基礎学力、協調性、やり抜く力が大事」ということ・・・

「何もしないは得か?」

12月27日の朝日新聞オピニオン欄「「何もしない」は得なの?」、太田肇・同志社大学教授の「組織が個人生かす社会に」から。詳しくは原文をお読みください。

・・・皮肉を込めていえば、いまの世の中、何もしない方が得です。無理をして価値を生み出そうとするより、まわりと調和しながら波風をたてない方がいい。これは個人が組織に適応するための冷静な計算に基づく合理的な行動であり、だからこそ厄介なのです。

典型的なのが古い日本企業でしょう。高度成長期は組織も拡大し、社員の関心も外に向かいましたが、低成長時代に入ると、限られた給与の原資や、役職ポストの配分に明け暮れ、社内で牽制(けんせい)しあうようになる。足の引っ張り合いで、内向きになっています。
長く同じ組織で生きていくのに、へたに突出すれば「出る杭は打たれ」てしまう。失敗は許されず、成功しても大きな報酬が得られるわけでもない。だとすれば、熱心に働くふりをしながら上司の意向を忖度するのが「正解」でしょう。
元来、日本企業のトップは真の実力者ばかりではありません。減点主義の組織をうまく渡った人も多く、その組織でしか通用しない「偉さ」の序列を守ろうとします。時代の変化に対応できず、不祥事の隠れみのにもなりやすい。もはや限界に来ているのです・・・