カテゴリー別アーカイブ: 歴史

「花粉症と人類」

小塩海平著『花粉症と人類』(2021年、岩波新書)を読みました。花粉症が「発見」され、どのような社会問題となったかの解説です。
花粉症の知人によると、今年は症状がきついそうです。私も、3年ほど前から毎年この時期に目がかゆくなり、鼻が詰まります。「明日香村は杉ばかりだ。そこで育ったのだから、花粉症にはならない」と言っていたのですが・・・

この本は、勉強になりました。
花粉症は大昔からあったようですが、イギリスで18世紀に流行し(発覚し)、原因から「枯草熱」(干草熱。花粉によるアレルギー)とわかりました。
ついでアメリカで、19世紀後半に「ブタクサ熱」が大流行します。この頃は、先進国の病、それも上流階級がなる病気とされたようです。ちなみに、ブタクサとセイタカアワダチソウは似ていますが、別物です。
そして日本の杉花粉症です。世界3大花粉症だそうです。1980年代後半から、爆発的に増加しました。平成になってからの病気なのですね。プロ野球の田淵幸一選手が、花粉症で引退したことを、初めて知りました。

人類は誕生以来、花粉とは付き合ってきました。干し草、ブタクサ、杉が増えたので、花粉症ができたといわれますが、縄文時代から弥生時代の方が、杉花粉がたくさん飛んでいたらしいです。環境の変化によって花粉症が増えたといわれますが、詳しい仕組みはわかりません。
この本を読んでも、よくわかりません。
杉花粉以外のアレルギーもあります。なぜ、杉花粉症が多いのか。花粉の数なら、日本では稲、ヨーロッパでは小麦がもっと多いと思います。
個人差はなぜか、そして年を取ってから突然なぜ発症するのか。
明日香村で杉に囲まれた過ごしていた子どもの時や、杉が多いと思われる徳島や富山で過ごした青年と壮年期にはなんともなく、60歳を超えた東京でなぜ発症するのか。
わからないことだらけです。

上野誠著「万葉集講義」

上野誠著『万葉集講義』(2020年、中公新書)が、わかりやすかったです。書評欄で取り上げられているの見て、読みました。万葉集は大学生の頃、読み始めたのですが、途中で挫折しました。本棚の隅に、岩波の古典体系が寝ています。

上野先生の解説を読んで、なるほど万葉集とはこのようなものなのだ、このように読むのかと、理解できました。「令和」の原典ということから、万葉集は脚光を浴びています。またその前から、解説書はたくさん出ています。それぞれに特徴があるのでしょうが。
上野先生の主張は、次の4点に集約され、それがこの本の構成になっています。
・東アジア漢字文化圏の文学
・宮廷の文学
・律令官人の文学
・京と地方をつなぐ文学

お勧めです。いずれ時間ができたら、万葉集そのものに挑戦しましょう。

21世紀最初の20年、自信満々から幻滅へ

1月28日の日経新聞オピニオン欄、ハビエル・ソラナ元北大西洋条約機構事務総長の「21世紀の今後を決める1年」から。

・・・いまから20年前に21世紀を迎えた時には、新しい時代への期待が高まり、特に西側諸国は大胆不敵にみえた。ところが(長い歴史からみれば)一瞬で、時代の精神は根本的に変わってしまった。21世紀は大半の人にとって、いら立ちと幻滅の時代になっている。多くの人が自信ではなく、恐怖を抱きながら将来に目を向ける。
20年前は、さまざまな問題に対する答えは、グローバル化の進展だった。正当でたたえるべき目標だったが、我々は必要な安全装置の組み込みに失敗した。2008年の金融危機や新型コロナウイルスの感染拡大のような惨事は、世界の相互依存がリスクを高めることを示した。専門化と超効率化は、脆弱さの源泉になりうる・・・
・・・21世紀への変わり目では、米国が嫉妬や不安に屈するようにはみえなかった。米同時多発テロは、まだ起きていない。ロシアは主要8カ国(G8)の一員で、北朝鮮は現在にもつながる核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言しておらず、イランの秘密の核開発計画も明るみに出ていなかった。経済で米国に後れをとっていた中国が、世界貿易機関(WTO)に加盟したのは01年12月になってからだ・・・

・・・20年の間に、他者とのかかわり方にもかつてないほどの革命が起きた。インターネットが普及し、SNS(交流サイト)が現代の広場になった。期待された成果は得られなかったものの、10年代はじめの中東に広がった民主化要求運動「アラブの春」は、新技術が民主化をもたらす可能性を示す。
ただ、SNSなどで自分と同じ意見だけが耳に入る「エコーチェンバー(反響室)効果」が生じ、公の議論を荒廃させてきた。デジタル空間は、サイバー攻撃や大規模な偽情報の流布を含む「ハイブリッド戦争」を専門とする、破壊的な者の温床になっている。
欧州ではデジタル化の暗黒面として、移民排斥的なポピュリズム(大衆迎合主義)が前面に押し出され、二極化が社会をむしばむ。21世紀初頭の楽観主義は、ユーロ危機から英国の欧州連合(EU)離脱まで、ほぼ恒常的な非常事態へとかたちを変えた。大西洋から太平洋へと経済的・地政学的な力の移行が続いているいまこそ、緊密な連携が必要なのにもかかわらず、分断は鮮明になっている・・・

玉利伸吾・編集委員の解説
・・・自信満々から幻滅へ――確かに20年で世界は一変した。20世紀前半を思い起こさせるほどの大きな変化だ。当時、人類は途方もない犠牲を出した第1次世界大戦への反省から、新たな国際協調のしくみを求めた。だが、選択を誤り、再び世界大戦を起こした・・・この20年、徐々に現実が理想を圧してきた。自国第一主義や保護主義が広がり、国同士の融和を妨げ、国際秩序がぐらついている。バイデン米大統領が国際協調に戻ると宣言したのは一筋の光だ。内外の対立は根深く、再建は簡単ではない・・

21世紀の最初の20年については、別途書こうと用意しています。まず、世界視野からの見方を紹介しました。

隈研吾さん、手直ししながら町を作り替える

1月1日の朝日新聞東京版に、「建築家・隈研吾さんに聞く 首都リノベーション時代へ」が載っていました。ネットは1月5日掲載のようです。

――東京の歩みをどう見ていますか。
東京を含め20世紀の都市は、モータリゼーションによって多様性が奪われたと言っていい。特に東京は多様性の強いヒューマンな街でした。明治までは歩きを中心に街全体が編成され、道も狭かった。
戦後は自動車が主役になり、世界のスタンダードに追いつかなければと、過剰適応をした。いわばモータリゼーション・コンプレックスが都市を変えてしまった。日本橋のように高速道路を街のど真ん中に持ってくるなど、街区が道路によって完全に途切れてしまいました。もう一度、歩ける街に戻すことが必要になっています。

――手がけている品川の開発コンセプトは。
目指すのは、「ウォーカブルな街づくり」。品川駅から900メートルくらいの歩ける距離で、元車両基地の長さを生かし、1本の人間のためのストリートをデザインするという意識です。始めにプロムナード(遊歩道)を主役としてどう造るべきかの議論があり、その後に建物がデザインされた。まずタワーありきの従来の都心型開発とは逆の発想です。

――これまでとは違う視点が求められますね。
行政にもディベロッパーにも建築家にも、これからはスクラップ・アンド・ビルドではなく、少しずつ手直ししながら街を磨いていく時間的思想、文化的思想が求められます。行政の関わりは、緑化や公開空地と引き換えにした容積率緩和だけ、ディベロッパーはより高く建てる、という時代はもう終わり。建築基準法も取り壊しと新築を前提としていたのが、用途変更がしやすい基準へと変わっていくはずです。
それには文化的リーダーシップが求められます。京都市が、閉校した校舎を新たな街づくりに活用している政策などは好例です。歴史的文化財でなくても、少し古くていい建物はたくさんある。そこをカッコよくしたい人はたくさんいる。そうした改築にインセンティブを設ける。コロナ禍以降の都市計画ではより一層、文化的思想への転換が不可欠なのです。

ボーゲルさん

エズラ・ボーゲルさんがお亡くなりになりました。12月22日の朝日新聞天声人語が、次のように書いています。

・・・ハーバード大教授として79年に刊行した『ジャパン・アズ・ナンバーワン』はベストセラーに。経済発展を遂げた要因を解説し、日本人の自国観にも多大な影響を与えた
組閣時に側近ばかりを厚遇せず、派閥均衡に努める首相。社員を社宅に住まわせ、社歌や運動会で忠誠心を育てる経営者。列挙された日本の「強み」は、いま読むと「そんなことまで褒められていたのか」と気恥ずかしい

「この本は日本では発売禁止にした方がいい」。元駐日大使のライシャワー氏の評だ。日本が思い上がることを懸念したという。ボーゲルさん自身は刊行の狙いをこう説明する。「停滞した米国にとって日本こそ最善の鏡。米国の人々に目を覚ましてほしかった」
その後の日本は、バブル崩壊で失速し、「失われた20年」の間に低迷した。世界1位どころか、経済力はいずれ8位に落ちると予測される。民主主義の度合いは24位、男女格差では121位との指標も。残念ながら、どれもいまの実相だろう
知日派のボーゲルさんが亡くなった。改めて著書を読むと、日本の弱みや将来への懸念も随所に論じられている。人口も経済も縮みゆくわが国に向けた警告の「鏡」でもあった・・・

私も日本の絶頂期を示すものとして、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を引き合いに出しています。当時のアメリカへの警告であり、その後の日本への警告でもあったのですね。