カテゴリー別アーカイブ: 明るい課長講座

生き様-明るい課長講座

周囲がつくる「あの人の能力」

菊池寛の「形」という短編小説をご存じですか。短い話で、インターネットで読むことができます。新聞で紹介されていたので、読み直しました。

戦国時代、ある槍の達人は、その陣羽織と兜を見ただけで、敵が恐れをなすほどでした。
彼は、初陣に出る若武者から頼まれて、陣羽織と兜を貸します。借りた陣羽織と兜を身につけた若武者は、大きな手柄を立てます。それを眺めて、自分の形だけですらこれほどの力をもっていることに、彼は大きい誇りを感じます。
ところが、彼自身はいつもと違う形をしていたため、敵が恐れずにかかってきます。そして、命を落としてしまいます。

仕事ができる人(Aさんとします)は、ある程度に達すると、これと同じことが起きます。他の人(Bさん)が言っても、周囲はその意見を尊重しないのに、Aさんが同じことを言うと、みんなが納得するのです。もちろん、とんでもない愚策なら、評判を落としますが。部下も交渉相手も、「Aさんが言うならよいだろう」と、収まります。これが続くと、ますますAさんの能力は高く評価されます。雪だるまのようにです。

リーダーシップにも、この要素があります。本人の能力が優れていることは必須ですが、周りがそれを評価するかどうかにもよります。部下と周囲の人が、その人の指導者ぶりを評価することが、リーダーシップです。この人について行こうと思うかどうかです。「私がリーダーだ」と叫んでも、部下がついてこないようでは、リーダーシップは発揮できません。リーダーシップは、フォロワーシップにもよるのです。
すると、良い部下を持つこと、良い部下を育てることが、リーダーシップの要点です。

小野善生著『フォロワーが語るリーダーシップ 認められるリーダーの研究 』(2016年、有斐閣)など、フォロワーからのリーダーシップ論もいくつも出版されています。

満足感が成功を生む、職員のやる気

7月1日日経新聞オピニオン欄、西條 都夫・論説委員の「「心の資本」を増強せよ 会社の生産性、カギは幸福感

・・・組織の活力を高め、イノベーションをどう起こすか。世界中の企業の関心事だが、米グーグルが大がかりな社内調査を経てたどり着いたキーワードは「心理的安全性」だ。
これはもともと米ハーバード大の研究者が唱えた概念で「この職場(チーム)なら何を言っても安全」という感覚を構成員が共有することだ。何かいいアイデアがひらめいたら、すぐに発言し、実行に移す。仮に新しい試みが失敗に終わっても、嘲笑されたり罰せられたりせず、引き続きチームの一員として尊重される(と本人が確信する)。
こんな「心理的安全性」の高いチームは仮に個々人の能力が劣る場合でも、「安全性」の低いチームに比べて、高い成果を上げ続けることが判明したのだ・・・

・・・「資本」の原義は事業の元手となる資金のことだが、そこから「ナレッジキャピタル」「ソーシャルキャピタル」などの言葉が生まれた。知識や人と人の結びつきが、企業活動の基盤という発想だ。それに続いて登場したのがマインドキャピタル、つまり「心の資本」という考え方だ。
米カリフォルニア大のソニア・リュボミアスキー教授によると、「自分は幸福だ」と感じている人はそうでない人より仕事の生産性が31%高く創造性は3倍になることが分かった。幸福心理学の第一人者である同教授は「成功が幸福を招くのではない。幸福(だと感じること)が成功を生むのだ」とも指摘する。
社員の心の状態が仕事ぶりに直結し、企業業績にも少なからざる影響を及ぼすのは、言われてみれば当然だ。働き手の「心の資本」の総和は会社の盛衰を左右する・・・

・・・最後に「自己決定」の重要性を強調したい。神戸大の西村和雄特命教授らが日本人2万人を対象に昨年実施した調査で、「主観的幸福感」を左右する因子として年収や学歴より「自己決定」がはるかに大きな役割を果たしていることが明らかになった。進学や就職など人生の節目で自分の進む道を自分で決めた人は、周囲から言われて決めた人より幸福感が高かったのだ。
この結果は、働き手が自分の今の仕事や配属先を「他人(例えば人事部)から押しつけられた」と思うか、「自分で選んだ」と思うかで、幸福感や意欲に大きな差が生じることを示唆している。
真の働き方改革を実現するには、社員の心の領域にも光を当てる必要がある・・・

拙著『明るい公務員講座 管理職のオキテ』に書いたことに通じます。

叱るより褒める

7月1日の日経新聞教育面「学びや発」は、「姿勢を正しく 叱らず、メリット伝える」でした。

・・・若手のA教諭から相談を受けた。授業中の子供の姿勢が悪いと管理職に指摘され、悩んでいるそうだ。「厳しく指導しても、なかなか姿勢がよくなりません」と言う。
「厳しい指導は行動をストップさせる効果はあるが、よい状態を持続させる力はないですよ」と私。「じゃあ、どうすればいいんですか」といら立ち気味のA教諭に「姿勢を正しくすることのメリットを伝えるといい」と過去の経験を伝えた・・・

叱るより褒める方が効果があることが、実例入りで説明されています。続きをお読みください。
『明るい公務員講座 管理職のオキテ』でお教えしたとおりです。

働き方改革は、仕事の仕方の改革

成果に結びつかなかった猛烈勤務」の続きです。

・・・リクルートも変わり始めていた。06年には「長時間労働風土改善キャンペーン」を実施。15年には「働き方変革プロジェクト」を立ち上げた。
その頃、リクルート住まいカンパニーの社長だった野口は率先して改革メニューに手を上げた。

ただ最初からうまくいったわけではない。まず取り組んだのが、パソコンやネットを使って自宅やサテライトオフィスなどで仕事するリモートワークの導入だった。カンパニーの全従業員を対象に試験導入したところ、仕事のパフォーマンスの低下という最悪の結果に終わった。「自律的に自分の業務を効率的に設計できる能力がないとできない」と悟った・・・

成果に結びつかなかった猛烈勤務

6月27日の日経新聞「リクルート 遺伝子への挑戦者(3)」「脱「モーレツ」に向き合う」から。
・・・「起業家精神」と並ぶリクルートホールディングスを象徴するワードが「モーレツ営業」だ。そんなモーレツ時代をくぐり抜けたミドルが働き方改革に向き合っている・・・

・・・「24時間戦えますか♪」。働き方改革担当の執行役員、野口孝広(51)は、こんな栄養ドリンクのCMソングが流れていた1991年にリクルートに入社した。
配属は人事部門。担当は新卒採用だった。当時のリクルートは社員約3000人のうち約1000人が新卒。野口は十分に休みを取れないまま、「1年中絶え間なく採用活動をしていた」。
3年たって住宅の広告営業部門に異動すると、モーレツぶりは加速する。「会社に泊まることもあったし、それが美徳みたいな雰囲気もあった」。不動産事業者の店舗に朝晩押しかける「夜討ち・朝駆け」は当たり前だった。

働き方に関する考え方が変わるきっかけになったのは10年ほど前に社内で行ったある調査だった。従業員の業務成果と勤務時間の関係を調べたところ、「何の相関もなかった。衝撃的だった」・・・
この項続く