岡本全勝 のすべての投稿

適切な対人距離

2月24日の日経新聞に、「適切な対人距離、会話円滑に 初対面は1.2メートル、同僚は70センチ」が載っていました。いつものことながら、古い記事で申し訳ありません。ここのところ原稿などに追われて、このホームページでの紹介が遅れているのです。取り上げたい記事が、「素材の半封筒」にたくさん溜まっています。

・・・オフィスへの出社回帰が進んでいる。円滑なコミュニケーションにはどのくらいの対人距離が適切なのか。カギを握るのが自分の周りの目に見えない縄張り「パーソナルスペース」だ。
パーソナルスペースは心理学で「自分の体の延長のように感じ、他者に侵入されると生理的に不快感を覚える空間」を指す。1960年代に米国の心理学者ロバート・ソマーが定義した・・・

・・・その広さは人によってまちまちだが、相手との関係や場面によって伸び縮みする。米国の文化人類学者エドワード・ホールはパーソナルスペースを侵害しない快適な対人距離は4つに大別されると説いた。
快適な対人距離は大きく4つ
「密接距離」はすぐに触れ合うことができる距離(45センチまで)。相手の表情がよく見えるため、家族や恋人同士の会話に適している。
「個体距離」は両者が手を伸ばせば触れることができる距離(45センチ〜1.2メートル)で、同じ部署の同僚や友人とのコミュニケーションが活発になる。
「社会距離」は手を伸ばしても相手に触れることができない距離(1.2〜3.6メートル)だ。複数人の顔が目に入るので、プレゼンテーションや商談にぴったりとされる。相手の目線が気にならないので、一人で集中して仕事をするのにも向いている。
「公衆距離」(3.6メートル以上)は大人数の様子が把握できるため、講演などに適している。
パーソナルスペースの広さは自分の精神状態や空間の明るさなどでも変わる。気分が沈んだり、周囲が暗かったりすると相手と距離をとりたくなるので拡大する。一般的に男性の方が女性より体格が大きいので、広い傾向がある・・・

・・・「初対面では個体距離と社会距離の境界である1.2メートルほど離れるのが望ましい」と磯さん。同じ部署の同僚同士で会話する場合は「70センチ前後がよい」と説明する。一定の距離をとることでより早く打ち解けたり、仕事の集中力が上がったりなどの効果が期待できるそうだ・・・
・・・オフィス家具大手コクヨの東京都港区のオフィスは営業部署の社員が集まるフロアはフリーアドレスだが、対人距離が50センチ〜1.2メートル強ほどになるように椅子を配置している。「営業は情報が命。交換を促すために自然に話しかけやすい距離を意識した」(商品企画責任者の岡田和人さん)。三角の形状の机を配置し、正面にいる社員と視線が合わない工夫もしている。
色々な部署の社員が集い、自身の作業をこなすフロアでは1.8メートルほどの距離を空けている。さらに左右と前にはパーティションを用意し、社員が他人の視線を気にせずに集中できる環境を整える・・・

アメリカ議会で妻を褒める

岸田首相が4月11日に、米議会両院会議で演説しました。「未来に向けて~我々のグローバル・パートナーシップ~」(For the Future: Our Global Partnership)(演説は英語で行われ、和文は日本政府が翻訳したもの)。その第3段落です。

”And let me introduce my wife, Yuko, who is in the gallery. The fact that I married Yuko should give you great confidence in all my decisions. ”

「そして、ギャラリーにいる妻の裕子をご紹介します。私が裕子と結婚したという一事をもって、私の決断全てが正しいものであると、皆様に信用いただけるのではないでしょうか。」

私も、日経新聞夕刊1面コラムにキョーコさんを3回も登場させてあきれられたり、他人様の前で妻のキョーコさんを褒めるのですが・・・

日本版○○、劣化コピー

3月25日の日経新聞に「日本の観光司令塔「DMO」、看板倒れ 人や金に制約」が載っていました。
・・・国が観光立国の旗振り役として期待する観光地域づくり法人(DMO)の存在感が乏しい。地域の観光戦略の司令塔として300近くが登録されたが、人材や財源が足りず、自治体と事業が重なるといった課題がある。新型コロナウイルス禍後の訪日客急増でオーバーツーリズム(観光公害)などの弊害が表面化する中、実効性を高める取り組みが急務だ。
「予算を効果的な取り組みに使えていない」「プロモーションのみに終始している」。東京・霞が関で観光庁が1月に開いたDMOに関する有識者会議で、民間委員から厳しい指摘が相次いだ。
人口減少時代の地方創生策として、訪日外国人(インバウンド)需要が盛り上がる観光を起爆剤にしようと、国は2015年に欧米で先行したDMOを手本に「日本版DMO」の登録制度を始めた。戦略策定や実行のためのマネジメント、データを生かして来訪者を呼び込むマーケティングを担う地域の観光司令塔に位置づけた。
「器」はもくろみ通り増え、登録済みのDMOは282と5年で2.7倍に増えた。23年の訪日客数はコロナ禍前の19年の8割までに回復し、23年の消費額も5兆円を初めて超えた。DMO効果にも見えるが、実際は多くが機能不全に陥っている・・・

ここで紹介したいのは、その記事についている「日本版○○、劣化コピー脱却を」という記者の意見です。
・・・海外に範を取るのは明治以来のお家芸で、日本版○○政策は枚挙にいとまがないが、失敗が多い。例えば、中心市街地のまちづくり機関「日本版TMO」。甘い計画が乱立して霧消した。
なぜか。責任が曖昧で補助金狙いが先行し、地域特性を踏まえず形をまねる「劣化コピー」の愚が繰り返されるためだ。DMOでも「補助金を取ろうとコンサルティング会社や旅行会社に促されて立ち上げ、アイデア出しも丸投げするだけの、やる気のない団体が多い」とDMOで勤務した経験のある会社員の男性は証言する。
DMOでは国は当初、世界水準の団体を20年に100件にすると掲げ量的拡大を優先した。先進例を選んで底上げをめざすものの、多くがデータを使いこなせず活動目的もおぼろげだ・・・
として、日本版の、TMO、CCRC、MaaS、ライドシェア、ビッグバン、バイ・ドール制度、SOX法、EMP、DBSが載っています。

諸外国の先進的な試みに学ぶことは有用です。日本は明治以来、それで発展してきましたから。でも、日本の実情を勘案して、工夫すべきでしょう。名称がアルファベット略語である時点で、国民への普及を考えていませんね。

講演、聴衆の有無

先日、那覇市に講演に行って来ました。約100人の聴衆を前にです。私は聴衆の反応を見ながら話すことが好きなので、うれしかったです。少々の脱線も、許してもらえますし。なので、それを録画して当日見ることができなかった職員が見ることも、支障はありません。
かつては「ここだけですが」という気持ちで、好き勝手に話すこともあったのですが、最近はそのような発言も抑制するようになりました。
ベトナム内務省幹部講義も目の前の人を相手に話すので、私の言葉がどのように訳されているかわかりませんが、顔を見ると反応がわかります。

困るのは、聴衆なしでカメラに向かって話す場合です。カメラの向こうで見るであろう人に、語りかけなければなりません。でも、その人たちがどのような反応をしているかが、わからないのです。
市町村アカデミーの研修動画収録では、サクラとして数人の職員に座ってもらったのですが、これではカメラを見なくなるので、失敗でした。

中途採用者の増加が与える衝撃

3月26日の日経新聞「銀行変身㊦働き方アップデート」に「みずほ、中途採用数が新卒超え 退職者カムバック歓迎」が載っていました。
・・・新卒で入行し、定年や出向まで勤め上げるのが当たり前だった銀行の働き方が変わり始めた。2023年度の3メガバンクの採用全体に占める中途採用の比率は半分に迫り、みずほフィナンシャルグループ(FG)は初めて中途採用数が新卒を上回る見通しだ。退職者は「裏切り者」という冷たい視線を浴びることもあったが、今では退職者の再入行も当たり前になり、「人材の回転ドア」が回り始めた・・・

3月25日の朝日新聞には、「転職=前向き、若手社員の価値観変化 「スキルつける」早めの決断」が載っていました。
・・・若手社員の転職に対する価値観が大きく変化しています。「早くスキルをつけたい」と転職を前向きに捉える人が増え、SNS投稿が後押しするケースも目立ちます。対する企業は、社員の定着に試行錯誤し、「もったいない離職」を防ごうと対策を進めています・・・
・・・「マイナスな話ではなくて、やりたいことを考え直して逆算した結果、今辞めた方が良さそうだと考えた」。東京都に住む20代半ばの男性は昨年秋、2年半勤めた大手金融機関を辞め、デザイン会社に転職した。
大学時代に就職活動をしていたころは、海外で働けることを優先して企業を選んでいた。だが、次第に空間設計やマーケティングを通じて人を幸せにしたいという夢が出てきた。将来、結婚して共働きになったときに全国転勤を続けることへの不安もあった。
終身雇用へのこだわりもない。転職前にみていた上司の姿は、ハードな働き方をして管理職になっても、自身がやりたかったことはできていないように映った・・・

霞ヶ関の各省も、中途採用が広がり始めました。早期退職者が増えて、新卒だけでは職を埋めることができなくなったのです。他方で自治体では、新規採用でも民間経験者が増えているようです。
この20年間で、労働に関する意識と慣行が大きく変化しました。記事でも書かれているように、転職者が増えたのです。かつては、採用された会社や役所で定年まで勤め上げることが「当然」であり、途中退職者には落伍者の烙印が貼られました。また、そのような人を企業は採用しなかったのです。社員にとっては「楽しくない職場であっても、しがみつくしかない」、企業にとっては「意欲のない社員だけど、飼っておく」という、双方に不幸せな事態が続いていました。

転職が普通になって、外部労働市場が活性化すると、「この職場は私には合わない」と考えれば、転職できるようになったのです。これは、よいことです。少し異なりますが、プロ野球でフリーエージェント制が導入され、優秀な選手はよりよい待遇を求めて移動することができるようになりました。球団は引き留めるためには、処遇を上げなければなりません。
企業や役所は、逃げていく社員や職員をつなぎとめるために、処遇を変えたり職場を変えたりしなければなりません。転職する彼ら彼女らは仕事のできる人たちですから、損害は大きいです。他方で仕事のできない社員は転職せずしがみつきますから、この人たちをどのように処遇するかも課題になります。
社内や役所内での人事方針や仕事の仕方も、変えざるをえなくなります。「やりたい人にやりたい仕事をさせる」「仕事をしない人にはそれに見合った処遇にとどめる」ことが進むでしょう。前者は例えば「手上げ方式」で、社員がやりたい仕事の希望を出し、希望者の中から適任者を選びます。後者は、いつまで経っても同じ仕事で給料も上がらないです。